表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰になった男  作者: 中原九尾


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/16

第十話 彼女できたらしいぞ

 この頃には、ボドは界隈でそこそこ顔の知れた存在になっていた。


 毎回のようにレオンの興行に顔を出し、打ち上げにも欠かさず参加する。楽団に所属しているわけでもなく、何か特別な肩書きがあるわけでもないが、「あの寡黙な感じの人」という認識くらいは、界隈の中である程度定着していた。本人が望んでいた「有名」とは、少し違う種類の知名度ではあったが。


「そういえば、アッシュさん、彼女できたって聞きました? 前の打ち上げで会った子でしょ。リゼットだっけ」


 開店前の店内、トビアスが棚の整理をしながら、思い出したようにそう言った。


「レオンさんが紹介したって噂、本当なんですか」


「まあ、紹介っていうか」


 レオンは苦笑しながら、答えをはぐらかすように棚の陳列を直し続けた。


「リゼットは、店によく来てくれてた子でね。打ち上げで、なんとなく話す流れになって……というか、正直、向こうがかなりグイグイ来てた印象だけど。あっという間に連絡先交換してて、気づいたらもう付き合ってた、みたいな」


「へえ、レオンさんキューピッドじゃないですか!」


「いや、そんな大したことした覚えないんだけどな。というか、あれはもうキューピッドの矢がどうこうってレベルじゃなくて、向こうが一方的に射抜きにきてた感じだった」


 レオンの声には、どこか歯切れの悪さが混じっていた。実のところ、彼自身、その子の性格について深く知っていたわけではなかった。店によく来てくれる、感じのいい子。その程度の認識で紹介してしまったことに、レオンは今になって、多少の後ろめたさを覚え始めていた。(あれは、迂闊だったな……)


「どんな子なんですか?」


「可愛い子だよ。ただ、まあ……」


 レオンはそこで、珍しく言葉を濁した。


「まあ、なんだろうな。情熱的、っていうのかな」


「情熱的」


 トビアスがその言葉を繰り返した。


「ちょっと、メンヘラっぽい、束縛強めって噂もありますけど」


「誰から聞いたのそれ」


「フィオナさんが言ってました。前にすれ違ったとき、なんかアッシュさんの持ち物、全部リゼットの手作りっぽかったって」


「手作り?」


「刺繍入りの帽子とか、そんな感じの」


 トビアスが、微妙な顔をした。


「アッシュさん、ああいうの似合うタイプでもないと思うんですけど」


「まあ、本人が気に入ってるなら、それでいいんじゃない」


 レオンはそう言いながら、心の中では少し違うことを思っていた。気に入っているというより、たぶん、断れないだけなのだろう。あの男の性格からして、断って機嫌を損ねられる方を、何よりも恐れているに違いなかった。


「今度、本人に聞いてみましょうよ」


「やめときな。あんまり触れない方がいい話題な気がする」


 レオンがそう言ったところで、店の扉が開いた。


「おはよ」


 当のボドが、いつも通りの顔で入ってくる。


「あ、アッシュさん、おはようございます」


 トビアスが、示し合わせたかのように、一瞬前までの話題をなかったことにした顔で挨拶を返した。


「……何、その顔」


「いや、なんも」


「別に、なんもないっすよ」


 ボドは首を傾げながらも、それ以上は追及しなかった。この日、彼の首元には、見慣れない刺繍の入った小さなスカーフが巻かれていた。誰も、それについては触れなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ