第九話 解散の理由
「そういえば、アッシュさん、地元で楽団やってたって聞いたんですけど」
その日、店にボドの姿はなかった。何やら別の用事があるとかで、珍しく顔を出さない日だった。カインは暇そうにレオンの店の椅子に腰掛け、トビアスの世間話に付き合っていた。
「やってたよ。俺もいたし」
「え、カインさんも!?」
「ボーカルやってた」
その一言に、店にいた面々が揃って身を乗り出した。
「へえ、カインさん歌えるんですか」
「まあ、地元じゃそこそこ評判良かった方かな」
謙遜でも何でもなく、事実として淡々とそう言った。実際、地元の楽団関係者から声をかけられたこともある程度には、カインの歌は本格的だった。
「じゃあアッシュさんは何やってたんですか」
「ギター」
「え、意外!」
「手先が器用だからな、あいつ。演奏だけは普通にうまかった」
トビアスが興味深そうに聞いた。
「じゃあ何でその楽団、続けなかったんですか」
カインは少し考えるように、酒を一口あおった。
「解散した理由、実はちょっと情けない話でさ」
「聞きたいです」
トビアスが即座に食いついた。
「地元の酒場で何度か演奏させてもらってたんだけど、そこのマスターがまあまあ辛口な人でさ。ある時、ボドがどうしてもボーカルやりたいって言い出して、一回だけ交代したことがあったんだよ」
「アッシュさんが歌ったんですね」
「うん。で、マスターが一言、はっきり言ったんだよ。『悪いけど、キミじゃダメだ』って」
店の中に、微妙な空気が流れた。
「それで、あいつ露骨に不貞腐れてさ。そこからしばらく、練習にも顔出さなくなって。最終的に、なんかもう解散しようって言い出したのはあいつの方」
「理由、それだけですか」
「表向きは『方向性の違い』とか言ってたけど、まあ、実際はそういうことだと思う」
レオンが、カウンターの奥で小さく吹き出した。
「それ、今の感じと変わらないな」
「変わらないんだよなあ、根本は」
カインは肩をすくめながら、そう言って笑った。
「あいつ、目立てないと途端に機嫌悪くなるタイプだから。今もたぶん、そういうところあると思うよ」
「なんか、想像つきますね、それ」
トビアスが小さく笑いながらそう言った。
「今度、酒場のマスターの話とか、本人に振ってみたいっすね」
「やめとけ。地雷だから、それ」
カインは軽い調子でそう釘を刺したが、その言い方には、どこか面白がっているような響きも混じっていた。
結局その日、ボドが店に顔を出すことはなかった。彼の知らないところで、彼の楽団時代の顛末が、一つの笑い話として語り継がれることになった。
★★★
この作品の執筆はほぼ完了していますが、色々設定を考えたのに私の力不足で全く活かせず・・・。
せっかくなので、同じ世界観を流用したセルフスピンオフ作品を同時連載中です。
よろしければこちらも併せてご覧下さい。
愚王と呼ばれた男
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