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灰になった男  作者: 中原九尾


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9/12

第九話 解散の理由

「そういえば、アッシュさん、地元で楽団やってたって聞いたんですけど」


 その日、店にボドの姿はなかった。何やら別の用事があるとかで、珍しく顔を出さない日だった。カインは暇そうにレオンの店の椅子に腰掛け、トビアスの世間話に付き合っていた。


「やってたよ。俺もいたし」


「え、カインさんも!?」


「ボーカルやってた」


 その一言に、店にいた面々が揃って身を乗り出した。


「へえ、カインさん歌えるんですか」


「まあ、地元じゃそこそこ評判良かった方かな」


 謙遜でも何でもなく、事実として淡々とそう言った。実際、地元の楽団関係者から声をかけられたこともある程度には、カインの歌は本格的だった。


「じゃあアッシュさんは何やってたんですか」


「ギター」


「え、意外!」


「手先が器用だからな、あいつ。演奏だけは普通にうまかった」


 トビアスが興味深そうに聞いた。


「じゃあ何でその楽団、続けなかったんですか」


 カインは少し考えるように、酒を一口あおった。


「解散した理由、実はちょっと情けない話でさ」


「聞きたいです」


 トビアスが即座に食いついた。


「地元の酒場で何度か演奏させてもらってたんだけど、そこのマスターがまあまあ辛口な人でさ。ある時、ボドがどうしてもボーカルやりたいって言い出して、一回だけ交代したことがあったんだよ」


「アッシュさんが歌ったんですね」


「うん。で、マスターが一言、はっきり言ったんだよ。『悪いけど、キミじゃダメだ』って」


 店の中に、微妙な空気が流れた。


「それで、あいつ露骨に不貞腐れてさ。そこからしばらく、練習にも顔出さなくなって。最終的に、なんかもう解散しようって言い出したのはあいつの方」


「理由、それだけですか」


「表向きは『方向性の違い』とか言ってたけど、まあ、実際はそういうことだと思う」


 レオンが、カウンターの奥で小さく吹き出した。


「それ、今の感じと変わらないな」


「変わらないんだよなあ、根本は」


 カインは肩をすくめながら、そう言って笑った。


「あいつ、目立てないと途端に機嫌悪くなるタイプだから。今もたぶん、そういうところあると思うよ」


「なんか、想像つきますね、それ」


 トビアスが小さく笑いながらそう言った。


「今度、酒場のマスターの話とか、本人に振ってみたいっすね」


「やめとけ。地雷だから、それ」


 カインは軽い調子でそう釘を刺したが、その言い方には、どこか面白がっているような響きも混じっていた。


 結局その日、ボドが店に顔を出すことはなかった。彼の知らないところで、彼の楽団時代の顛末が、一つの笑い話として語り継がれることになった。

★★★


この作品の執筆はほぼ完了していますが、色々設定を考えたのに私の力不足で全く活かせず・・・。

せっかくなので、同じ世界観を流用したセルフスピンオフ作品を同時連載中です。

よろしければこちらも併せてご覧下さい。


愚王と呼ばれた男

https://ncode.syosetu.com/n3253mn/

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