表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/36

第28話 毛布

「……平、おい、耕平」

名前を呼ばれているのに気づくまで、しばらくかかった。

「大丈夫か?」

亮介さんの声だ。亮介さんの厚い手が俺の肩に置かれている。軽く揺さぶられて、ようやく目が覚めた。

「……あれ? ……亮介さん?」

「帰り道危険だからって、仮眠したんだろ。さくらさんに一時間で起こしてくれって言って。さくらさんはもう休んだよ。君に付き添って起こす気満々だったけどね」

「……」

俺が起こしてくれって頼んだのか? よく覚えていないが、寝落ちの直前、彼女が傍にいたのは覚えている。

「あ、ああ……。すみません、亮介さん。……ちょっと疲れて」

「見ればわかるよ。今日はほんとにお疲れさんだったね」

そう言う亮介さんもまた、かなり疲労の色が濃い。

「さくらさんにも今日はすごく手伝ってもらった。彼女もふらふらだったからね。耕平は俺が起こすから、って先に休んでもらった。耕平、忘れてるかもしれないけど、さくらさんは、この山荘のお客さんだからな」

「……」

ああ、そうか。今日は大変な一日だった……。

頭に靄がかかったようにぼんやりして、今日の昼間のことなのに、よく思い出せなかった。

「さくらさん、お前のこと、すごく心配してたよ。帰れるかい? 泊まっていくか?」

「いや……帰ります。家も心配なんで」

「あいかわらずだな」

亮介さんが少し困ったように笑った。

もともと精悍な髭面だが、今日の修羅場でますます野性味が増している。

「どういう意味です?」

「誰にでも優しい。よく言えばね」

「……悪く言えば?」

「八方美人」

「……」

亮介さんは、俺がそのために失敗したことを知っている。

返す言葉もなかった。

周りの期待に応えることばかりに必死になって、結局自分を見失ってしまう……。

亮介さんは潔い人だ。

ストイックな山男で、自分の一番大切なもののために、他のものを捨てられる人だ。手の中に残したものにも、ちゃんと優先順位をつけられる。

それにひきかえ俺は……。

振り切るように体を起こした拍子に、毛布がばさりと落ちた。

一瞬ひやりとして、毛布に包まれていた温かさを知った。

談話室以外の照明は消えている。

薪ストーブで燃える炎がいっそう明るく見えた。

「亮介さん」

「ん?」

「今度、一緒に山行きましょう」

「そうだな」

熊のような髭面で、亮介さんは笑って頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ