第27話 うたた寝
亮介さんがお風呂から戻ってきて、四人で簡単な夕食をとった。
皆とても疲れていて、会話は少なかったが、仕事をきちんと終えた後の穏やかな満足感が漂っていた。
夕食を終えると、綾子さんがお風呂に行き、亮介さんは厨房で片付けをはじめた。
私と耕平さんは、談話室の薪ストーブの前の椅子に座った。
耕平さんは本当に疲れているようで、いつもの笑顔も疲労の陰に隠れている。
「お疲れ様でした」
私が言うと、耕平さんは少しだけ口角を上げた。
「道路の除雪があったんで、朝三時起きなんですよ。さくらさんも、大活躍でしたね」
「え……そんなことは」
「ずっと動き回って声かけられる雰囲気じゃなかった」
私よりよほど忙しく働いていた耕平さんに、私に声をかけようと思った瞬間があったのだろうか、と私は不思議に思った。
「今日は、展望台連れて行けなくて、すみませんでした。どうしても謝りたくて」
「そんなこと。気にしないでください。耕平さんこそ、早く帰って休んだ方がいいですよ」
「ちょっとだけ……仮眠とっていいですか。このまま帰ったら、事故りそうだ……」
言いながら、耕平さんの瞼が閉じられていく。
「一時間だけ……起こして……ほし……」
言い終えないうちに、眠ってしまったようだった。
談話室の椅子に足を大きく投げ出して座り、腕を組んで、頭をかくんと落として……。
(見たことがある……)
既視感が私を捉えた。
雪に覆われた山間を走る列車に揺られて。
あの時と同じ人を、今は違う気持ちで見守っている。
同じなのに、同じじゃない。
あのときは、ただの同乗者だった。
親切な人。頼りになる人。少し、気になる人。
今は――見つめていると、胸の奥が、ふわっとあたたかい。
ストーブの薪が小さくはぜた。
やわらかな橙色の光が、耕平さんの横顔を照らしている。
作業で荒れた大きな手。
うっすら無精ひげ。
眉間にはまだ緊張の名残があった。
(お疲れ様でした……)
心の中で呟いて、私は静かに立ち上がると、ブランケットを取りに行った。
棚から厚手の毛布を持って戻る。
耕平さんを起こさないようにそっと肩にかけると、ほんの少しだけ表情が緩んだ気がした。
いつも明るい笑みを浮かべている日に焼けた顔は、少しやつれて弱そうで、今は眠りの中で解けている。
子どもみたいだ、と思って、それから私は、そんなことを思う自分に戸惑った。
窓の外は深い夜。
雪明かりで、世界はぼんやり白い。
展望台の約束は流れてしまったけれど、
不思議と残念だとは思わなかった。
今日、見たからだ。
この人が、どんな顔で、どんなふうに働くのか。
無理をしてでも、一生懸命に、人のために――
それを知れた一日は、たぶん、景色よりずっと特別だ。
「……また、今度……」
耕平さんの寝顔に向かって、小さく言う。
面と向かっては言えないけれど。
心の底で……未来を夢見てみたい、そんな気持ちになった。
ストーブで薪がはぜる音と、耕平さんの規則正しい寝息だけが、談話室を満たしていた。




