第23話 夕食
「耕平、夕食食べていかないか?」
厨房にいる綾子さんといくつか言葉をかわしてから、亮介さんが耕平さんに声をかけた。
「今日は猪鍋だよ」
「いいんですか?」
「もちろん、ぜひ食べていってよ」
綾子さんも厨房から声をかけた。
「さくらさんもせっかく旅行に来たのに二日も閉じ込められてかわいそうだったの」
「わ、私は別に。ずっと楽しかったですよ?」
急に話題にのぼって、私は慌てた。
「何してたんですか?」
「え……お掃除とか料理とか……」
「綾子さん、ここぞとばかりに、さくらさんをこきつかってたんじゃないですか?」
耕平さんが笑いながら責める口調で言う。
耕平さんの綾子さんへの態度がとても親しげで、ちょっと羨ましい。
「人聞きの悪いこと言わないでよ」
綾子さんが笑いながら言う。
「ちゃんとお客様扱いしてます。ね?」
「はい。本当に、いろいろ教えてもらって……楽しかったです」
私がそう言うと、綾子さんは満足そうにうなずいた。
「ほらね」
「言わせてる感。さくらさん、優しいから」
耕平さんは言った。
その言い方が、なぜか少しだけ本気っぽく聞こえて、胸の奥がくすぐったくなる。
「でも、雪かきも薪運びもやったんでしょう?」
「少しだけです」
「十分ですよ。あれ、重いですからね」
まるで自分のことみたいに言うのが可笑しくて、私は小さく笑った。
耕平さんと綾子さんは、遠慮のない調子で言葉を投げ合っている。長く一緒に仕事をしてきた人同士の、軽やかな呼吸みたいな会話だった。
――いいな。
ふと、そう思った。
こんなふうに、自然に冗談を言い合える関係。
名前を呼び合って、笑って、気を遣わなくていい距離。
私には手の届かないものが、目の前にあるのは、少し苦かった。
四人で囲む夕食は、楽しかった。
耕平さんがいるだけで、その場所が明るくなる。
何でもない話でも、彼の屈託のない明るい笑顔と気さくな話し方で、楽しい時間に変わるのが、魔法のように思えた。
「小学生のとき、“電気屋になる練習する”って言って、家の電化製品、分解してまわってたんですって」
「語弊があります!分解して、ちゃんと組み立てまでしましたよ」
「ちゃんと、戻せたの?」
「戻しました!」
「全部?」
「ちゃんと動きましたよ」
「時計が逆に進むようになっても?」
「……」
耐えきれなくなって、私は吹き出した。




