第22話 大雪
午後、山荘に戻ったあたりから空模様が不穏になった。その夜、この辺りは強い寒気と雪雲に覆われて、大雪になった。
そしてそれから山荘で、私は丸二日間、文字通り、雪に閉じ込められることになった。
山荘に缶詰になっている間、私は雪かきや薪運びや掃除を手伝ったり、綾子さんと料理やお菓子作りをしたり(柚子ジャムを入れたパウンドケーキ!)、綾子さんに編み物を教わったりして過ごした。そして特にすることがない時は、取りとめのない事柄を、考えるというよりも、頭に浮かべて眺めていた。
丸二日過ぎた夕刻、雪はようやく勢いを弱めた。
激しい雪で真っ暗になるほどだった外がほんのりと明るんだのは、夕方の太陽の残照が、厚い雲の合間からこぼれ落ちたからだ。
そんな時だった。耕平さんが山荘を訪ねてきたのは。
玄関の外から聞こえたエンジン音は、最初、風の音に紛れて聞き間違いかと思った。
「亮介さん、帰ってきたのかしら」
綾子さんが顔を上げる。
亮介さんは昼過ぎから、除雪作業の助っ人に呼ばれて出かけていた。
ほどなくして玄関の扉が開いた。冷たい空気と一緒に、亮介さんと、その後に見慣れた背の高い人影が入ってくる。
「こんにちは」
帽子にも肩にも雪を乗せたまま、耕平さんが笑顔で言った。
その姿を見た瞬間、胸の奥がふっとほどけるのがわかった。
自分でも驚くくらい、ほっとした。
「おかえりなさい、亮介さん。耕平くんも! この雪の中よく来たわね」
玄関に出迎えた綾子さんが、耕平さんを見て声を上げた。
「仕事の帰りですよ。上の研修センターで停電があって。発電機の修理行ってきました。亮介さんが除雪車回してくれてたんで、助かりました」
脱いだジャケットを振って雪を落としながら、いつもの調子で笑う。
「ここの給湯の方も気になってたし、こっちでも停電とかしてないかと思って」
「大丈夫。薪も食料もたっぷりあるから、遭難は免れてるわ」
綾子さんが冗談めかして言う。
不意に、耕平さんの視線が、こちらに向けられた。咄嗟に避けきれず、彼を見つめていた私の視線と、真っ直ぐにぶつかった。心臓がとくんと跳ねる。
「あ……」
一瞬だけ、耕平さんの表情が変わった気がした。
すぐに、いつもの明るい笑顔に戻る。
「さくらさん。無事でよかった」
たったそれだけの言葉が、心にやさしく染み込んでいく。
「はい……」
私は、それしか言えなかった。
「低気圧は抜けたし、もうだいぶ雪はおさまってきましたね。明日、除雪が進めばもう少し動けると思います。……住宅の被害はないようですが、北条さんとこのビニールハウスの一部が潰れたそうで。団地の給水塔が凍りついて、給水車出すみたいです……」
亮介さんと話をしながらも、耕平さんは時々こちらを見る。
そのたびに目が合いそうになって、私はわざとカップの中の湯気を見つめた。
外はまだ白く、世界は静かに閉じている。
なのに、胸の中だけが少し騒がしかった。




