第21話 約束
店を出るとき、どっちが支払うか、で少し揉めたあと――
結局、鏡池への案内のお礼として私が支払った。
車に戻り、私が助手席に座るのを確認して、耕平さんが丁寧に頭を下げて言った。
「さくらさん、ごちそうさまでした」
「こちらこそ。鏡池、本当に素敵な場所でした。一生の思い出になるくらい。感謝しています」
私が言うと、耕平さんは、真顔になったように見えた。
「ところで、さくらさん、いつまで滞在予定ですか?」
「え……特に決めてないんです。実は私、今無職で……派遣社員として働いてたんですが、まだ次の場所が決まってなくて……」
言いながら、自分が情けなくなった。亮介さん、綾子さん、耕平さんや耕平さんのお兄さん……私だけが誰にも求められていない……。
顔が上げられなくて、耕平さんの表情がわからない。こんな話をして、困らせていないだろうか。申し訳ない気持ちになる。
すると、上から耕平さんの明るい声が下りてきた。
「ご馳走になったお礼に、今度いい場所に案内しますよ。さくらさんがよければ、ですが」
「いい場所?」
私は思わず顔を上げて耕平さんを見た。やっぱり笑顔だ。
「はい。山の上の展望台で。車でも行けるんです。夕陽が綺麗に見えるんですよ」
「夕陽……」
その言葉を口の中で繰り返す。
今日見た白い世界とは、まったく違う色の景色が頭に浮かんだ。
「明日でも、明後日でも。天気がいい日を見て決めましょう」
エンジンをかけながら、耕平さんが続ける。
「この辺の冬の夕方は、当たり外れが激しいんで」
「……また、付き合ってくれるんですか?」
自分で言ってから、甘えた言い方だったかもしれないと気づく。
耕平さんは少しだけ首を傾げて、当たり前みたいに言った。
「はい。俺、案内するの好きなんで」
それだけなのに、胸の奥がじんわり熱くなる。
フロントガラスの向こうに、白い道がまっすぐ伸びている。
来た時よりも、帰り道の方が少し明るく見えた。




