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第19話 ラーメン

国道沿いにある四角い小さな店の前の駐車場はすでに埋まっていて、耕平さんは慣れたハンドルさばきで、国道を挟んだところの空き地に車を停めた。

「車でいっぱいですね」

店に向かって歩きながら私が言うと、耕平さんがいつもの明るい笑顔で言った。

「この辺は完全に車社会ですからね。それにこの店のラーメン、美味いって評判なんですよ。県外からもお客が来るんです。まあ、都会みたいに店が多くないってのもあるかもしれないけど。さくらさんの口に合うかな?」

最後の言葉だけ、少しだけ眉を寄せた。

耕平さんは、表情が率直でいいな、と思う。

一緒にいて、安心できる。

何を考えてるかわからない、と言われる私とは、正反対だ。いつも、話す内容に気を取られて、自分がどんな表情をしているかなんて気にする余裕がない。

いや、耕平さんだって、そんなことは気にしていないだろう。私とは全然違う理由で。

耕平さんはいつでも、自然に人に優しくできる人だ。

国道を渡るときに手を添えるようにしてかばってくれたり、車が通る場所の反対側に私がくるように、さりげなく歩く位置を移動したり。

気が利かなくて、仕事でも失敗ばかりの私とは大違いだ。


店内は湯気と魚介のスープの匂いが立ち込めて、むっとするほど暑かった。

昼食には少し遅い時間だったが、カウンターとテーブル席が三つの、それほど広くない店内は、ほぼお客さんで埋まっていた。


間もなく私たちは、カウンターの端の席に案内された。

すぐに上着を脱いで、足元のカゴに放り込む。

カウンター席で隣に座る耕平さんは、紺色のTシャツ姿。触れてはいないけれど、広い肩がすごく近くに感じて、私はあわててメニューを手に取った。

顔が熱いのはたぶん、店内の暑さのせいだと自分に言い聞かせる。

「……どれが、おすすめですか?」

私が聞くと、耕平さんはまた微笑んだ。

耕平さんは、よく笑う人だ。そしてその笑った顔を、私はすごく、いいな、と思う。

「ここは魚介出汁のスープで、味噌味ラーメンがオススメです。チャーシューも美味いんで、よければぜひ食べてみて」

耕平さんは、さっきよりもくだけた口調で言った。

たったそれだけのことで、なんだか心が温かくなる。


耕平さんは味噌ラーメンにチャーシューと煮玉子をトッピングしたものと、ライス大盛りを注文し、私はチャーシューつきで味噌ラーメンを注文した。

カウンターの向こうでは、中華鍋が鳴る音と、スープをすくう音、麺の湯切りをする音、丼同士が触れる音……いろんな音が響いている。

威勢のいい店員さんの声が飛び交って、さっきまでいた白い静寂の森が、遠い夢の中の出来事みたいだった。

「冷えたあとに来ると、余計うまいんですよ」

耕平さんが水を飲みながら言った。

「たしかに……今なら、何でも美味しく食べられそうです」

「それ、山のあとあるあるですね」

「耕平さん、よく来るんですか?」

「仕事でこの辺回るときは、わりと。ご褒美みたいなもんです」

「ご褒美……」

その言葉が少し胸に引っかかった。

私には最近、“ご褒美”なんて言葉、縁がなかった気がする。

「さくらさんは?」

「え?」

「普段、自分にご褒美とか、あげてます?」

思いがけない質問で、言葉に詰まった。

「……あんまり」

正直に答えると、彼は意外そうな顔をした。

「意外です。ちゃんと頑張るタイプなのに」

思わず笑ってしまう。

「逆ですよ。ちゃんとできないから、いつも反省会ばっかりです」

「反省会は、大事ですけどね」

少し間を置いてから、続けた。

「でも、表彰式もやらないと」

「表彰式?」

「今日は雪道ちゃんと歩き切りました賞、とか」

あまりに真面目な顔で言うので、吹き出してしまった。

「何ですか、それ」

笑いながら、胸の奥がふわっと温まるのを感じた。

ちょうどその時、丼が置かれた。

湯気が一気に立ち上って、味噌と魚介の香りが鼻をくすぐる。

「うわ……」

思わず声が出た。

「でしょ」

耕平さんが少し誇らしそうに言う。

まるで自分が作ったみたいな顔で。

「いただきます」

同時に箸を取るタイミングが重なって、また少し可笑しくなる。

麺をすすった瞬間、熱さにびっくりして私は小さくむせた。

「あ、猫舌でした?」

「……ちょっとだけ」

「ゆっくり食べていいですよ。長く楽しめてお得ですね。俺なんか、早食いだからすぐになくなっちゃいます」

耕平さんの言葉に、私はまた、心がふわりと軽く温かくなった。



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