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第17話 回復

さくらさんがココアを飲み終える頃には、彼女の呼吸はすっかり落ち着いていた。


あの時――

彼女が泣いていることが、なぜか俺には分かっていた。

彼女がサングラスを傾け、そっと目尻を拭う仕草を見なくても。

息が上がり、上気した頬に、光るものを見たからだろうか。

むしろ、この景色に出会った時、彼女ならきっと涙を流すと知っていた気がする。


彼女に、どうしてもこの景色を見せたかった。

それは多分、理由はわからないけれど、彼女が遠い街から汽車に乗って、この土地の白銀の世界を見に来たのだと「わかった」からだ。

ここでしか見られない、奇跡のような冬の景色を見せてやりたいと思った。

昨日の山荘でのお茶の席で、食い気味に「案内します!」と言ってしまった俺を、亮介さんが面白そうな顔で見ていたことには気づいていた。

あえてからかうような人ではないから、亮介さんもまた、彼女が一人でここに来た理由を、多分察していたのだろうと思う。


真っ白な雪景色を一人で見に来る人は、自分の心も真っ白にしたい人だ。

美しい景色を見て、涙を流す人は、自分の中におなじくらい美しいものがあることを無意識に思い出しているのではないかと、思う。


泣いている彼女に、声はかけなかった。

「大丈夫ですか」なんて言葉は、ここでは野暮だと思った。

この景色は、説明も慰めもいらない。

ただ一緒に立っていればいい。

彼女はしばらく、鏡のように青く凍った池を見つめていた。

かなり長い間――

やがて長く深く息を吐く。

「……ああ……」

たったそれだけ。

それでも俺にはわかっていた。彼女が、ここに来てよかったと思っていたことを。

彼女にこの景色を見せたかった俺は、彼女の涙に、少し報われた思いがした。

俺はボトルのふたを閉めながら思う。

この人はたぶん、ここで少し回復する。

俺が治すんじゃない。

この森と、この静けさと、この時間がやる。

俺はただ――

その間、転ばないように、横にいるだけだ。


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