第12話 美少年の悩みと真珠姫。
◇◇◇
「陛下、他所の国の王女とかの姿絵、そんな所に掛けては良く無いと、あたし思うのですが…」
「アンリエット殿よ。報奨も何から何まで先例の無い異例尽くしの今回は、全て異例で良いのだ!」
ここはブレ城、ヴァレリー帝国にある帝都ブレ
の帝城である。
式典やパーティーを行う。その大広間。国内外の要人がその場所へ招かれる。そんな広間なのである。
「では、仕方ない。執務室…。」
「や、それは嫌。そこはかと無く嫌!」
「宰相、何か妙案は無いか?」
「それでしたら良い所が御座います。」
◇◇◇
「で、そんな事に成ったので御座いますのー?」
パスタをちゅるちゅる食べている、ジュリエット。
アンリエットとフェリシエンヌはクロワッサンと野菜のスープ。ルシールは既に食べ終え最後に残った桃の蜂蜜漬けを突々いている。
ここは学園の食堂。
学食は二つ在るのだが、隣接している。
昼は隣接する学食の間の敷居を取っ払い一つの食堂として機能している。
因みに、朝夕は食堂一つが使われる。寄宿舎の寮生が使うのだ。
ついでに、寮生の昼食は贅沢しなくては寮費に含まれる。
お昼が『日替わりランチ』であれば寮費なのだ。特待生に大人気。
本日の『日替わりランチ』はジュリエットも食べている『塩漬けニシン入り野菜パスタ』だ。
お値段銅貨三枚。日本円で200~300円だ。と言う設定。
ジュリエットは35枚綴りの『食券』を事前に購入しているのだ。
『日替わりランチ』だけの『食券』ではあるが、大銅貨9枚で買える5枚お得な『食券』なのである。
先輩も大勢詰め掛けているその二つの学食は、合わせて280名程座れる。
四学年合わせて500近い生徒数の半数以上入る大学食だ。
その一画のテーブルに掛ける四人。高飛車金髪縦ロールと帝国皇女、そして双子の真珠姫。
目立つなって言われても、目立つのだ。
「私も見て笑ったわ」
あははは。っとルシールが言う。
そうなのだ。あの二人の姿絵が飾り付けられたのは、城の玄関広間だったのだった。
「皆、お城に入ると『これが噂の真珠姫かー』って見上げながら言うのよ。みーんなよ?あはははー」
何気に酷い皇女殿下。
そんな学園の有名人達の他にここ最近、特に女子生徒が集まる…群がる一画が在る。
1年1組の生徒ルカくんだ。
お話し好きでコロコロ表情が変わる栗色のクリクリした瞳で薄栗色の髪の愛嬌のある男子生徒。
そう男子。
「可愛い娘がいるねえぇ。」
「フェー、あの子、男子だよ。ズボンだわ。」
入学式でのアンリエットとフェリシエンヌの会話である。
なる程、サラサ先生のお気に入りなだけはある。サラサはショタなのだろうか?
そんなルカくんを先輩女子はほっとかない。
ここ最近は『一口食べて!』攻撃を喰らっている様だ。
「大丈夫か?ルカ」
群がる女子の他に一部男子も居るのだが、その男子の一人、ロイクが言った。
何時もなら難なく『一口食べて』をかわす筈のルカだが、今日は先輩達のスプーンやフォークを口に突っ込まれていた。
瞳のコントラストも消えていた。
授業が終わった放課後、帰る支度をしていたアンリエットに聞こえた声。
「何とかしないとルカんチ…。」
と言うロイク呟き。
前の席のロイクの袖を引っ張ってアンリエットは言った。若干ロイクは嬉しそうだ。
「何?何かあったら相談して、同じ組の友達なのよっ」
節操のないロイクではあったが、友達思いの憎い奴でもあるのだ。皆 が帰るのを待ってから話し始めた。
「今朝早くにルカの親父さんが、姉さん達が朝から居無いってそう寄宿舎に来た。って、ルカが言ってて…」
「事情だけでもルカくん本人に聞きますわよ」
「そうね。急いで」
とジュリエットとルシールが教室を飛び出した。
それを追いかけるロイクとアンリエット、フェリシエンヌ。
昇降口を出ると、
「嬢タン姫さぁ、お帰りに?」
「姫様方、御待ちしておりました。ご学友で御座いますか?」
「こちらはルシール皇女、とジュリは知ってるか。とロイクくん。馬車に皆乗って!」
「姫様、どちらへ向かいますかい?」
「ええとロイクくん。どこ行けばいいの?」
御者の若者の問いに答えるアンリエット。
「南門に向かって下さい道案内します」
ロイクは言って、御者台に座った。馬車は中央公園を南に走った。
公園を抜ける頃、
「あ!御者の兄さん。止まって!ルカがいた。おーーーいルカぁー。おーい!」
馬車は定員オーバー。
ルカくんは馬車の床に座っている。前席にマリエ、ルシール、ジュリエット。向かい合う後席は白黒真珠とジーン 。
「ちょいと姫様方ぁ、窮屈でしょうが我慢して下させー。馬達も我慢してるんでさーっはっはー。んーで、ぼっちゃん、真っ直ぐ南門でよろしいので?」
「俺、ぼっちゃんじゃ無いから只の商人の息子だよ。あ、門を出て」
南門の貴族用出入口に並ぶ。と言っても一般口より並ぶ事は無く、直ぐに順番が来た。
「もう、そろそろ夕方ッスよ?皇女さぁとかそっちの金ロー…ジュリ嬢、お家に連絡しねーとヤバくねーッスか?」
「侯爵様の家臣さん達に要らぬ心配は掛けたく無いですわ。どうしましょう」
「そうですね。そこの門番!」
心配を掛けたく無いジュリエット。馬車から顔を出したルシールが門兵に声を掛けた。
「何です。嬢ちゃん。って、で、でで、で殿下!」
「何です?その小太鼓みたいな敬称は。じゃ無い、フォンテーヌ侯爵邸にテター男爵令嬢と皇宮に私の外出を伝えよ。」
「で、ですが皇女殿下。護衛の者が一人も居ないのでは問題に…」
「心配は無用です。こちらに彼の『殲滅姫』が居るのよー」
―――――ドダダッー!
門兵が門番部屋から跳び出し、馬車の横に平伏した。
「こっこれは、黒銀の姫巫女様ぁー!ははぁー…」
周り全ての人々が平伏す。と言う光景が、夕方間近な街に登場した瞬間であった。
◇◇◇
一時間近く馬車に揺られ「ここです」とルカが言ったその場所は、刈り入れが終わったであろう広い麦畑のまん中に在る大きめの村だった。
日は既に傾き、西の山に沈もうとしていた。
村の中央の広場にルカの家は在った。村に数件ある食堂の一つの様だ。
その食堂にルカは急いで馬車を降り、大声で…っと言っても変声期前のルカの声は、大きな声でも愛らしい。
「とーさん!かーさん!ねーさんはあぁー!」
何だ何だ何事だ。と村人が集まり出す。
「お父さんは、街に行ってるよ。ルカおまえ、学園の方は良いのかい?」
ハッとしたルカ。寄宿舎に外出届を出し忘れていたのだった。
それに気が付いたのか、ルシールが、
「それは私が何とかします。それは兎も角、ルカの姉上様、達はその後如何です?」
「…ルカ、そちらのお嬢さんは?」
「あ、かーさん。こっちは僕の学友。ルシールさ…」
えええっ!っと平伏すルカかーさん。
「これは御無礼を…この様なへんぴな村に姫殿下が、お、おこ、お越し…」
「あのーお顔を上げて下さい。無礼なのは私です。名乗りもせず、話し掛けたのですから………」
―――――めっそーも御座いませーん!的な事を言っているルカかーさん。
「宜しいですか?私はルカくんの学友、只の友達のルシールです。であちらの彼は…」
「ロイクッス。」
「わたくしジュリエットと申しますわ」
「私、フェリシエンヌですぅ」
「アンリエットです。ルカくんのお友達です」
――――瞬間、流れる風も音も村人も、全ての時が止まる。
そして、時はゆっくりと動き出し………。
………ぇ?
…ぇ…ぇ……ぇぇぇええええええええ。えええええーーー!!!
集まっていた村人は馬車を中心に波の広がりの様相でひれ伏して行くのであった。
あれが『双子の白黒真珠姫』。あれが『黒銀の姫と月白の乙女』で、あの黒い方、灰銀色の髪の娘が『殲滅の理不尽姫』なのかああああああああ!!!
―――――ははああああああああああああああーーーーー!
◇◇◇
「そして私共は、アンリエット様とフェリシエンヌ様の侍女ジーンとマリエと申します。護衛も兼務しております。」
「よろしくッス」
「(護衛とか要らんだろ?殲滅姫居るじゃん)これは遠路遥々。アタイ…あたしはルカのお母さんマリーです…で、おまえ、なンでまたこんな別嬪…、そこじゃ無ぇー、なンでこんな偉いさんばっか連れて来ンだい。お母さん死ぬよ?なンか悶え死ぬ?的な…?」
「かーさん。駄々漏れ。ぜんぶ聞こえるよ。で、ねーさん等どうなったの?とーさん何処?」
「ああ、お父さん、あの『商人』トコ行くって昼に出たよ。お姉ちゃん達、多分だけどね夜中から居なくなってたっぽいンだよねぇ」
「…夜から……?」
「おばさん、『商人』って何処の誰?俺、商人の息子だからちょっとは詳しいゼ?」
「なンだったかー、えぇっと。そうだ、ジェネリック!」
―――――それ、ちっがああああーーーう!
「…じゃ無いわー?と、ジェ、ジェ、あジェイロックだ『ジェイロック商会』!」
「あー、あそこだぁ。ヤバい商会だよー!」
と、商人の小倅ロイク。
「…だと、お父さんも言ってた。やっちゃったンだよねーあン時」
ルカ母マリーの言う内容はこうだ。
数日前の昼過ぎ、店の客が途絶え、さて夕方の仕込みでもしようかって時間に三人の客が入って来た。
「こんな村だから仕様が無い」と言い席に着く。どうも商人の様で隣の男とそう言った話しをしている。
丁稚っぽい子が「旦那様申し訳ありません。ここしか良さそうな店が無かったもので…」と失礼な事を言っている。
旦那様と呼ばれる肥ったずんぐりむっくりのちんちくりんの商人が「もういい!早く食事を頼めっ」と言う。
番頭っぽいさっきの男が「あー私と旦那様はこの店で一番良い物を、とお前(丁稚っぽい子に)はクロワッサンで良いな」と言う。
余談だが、ルカ母マリーに言わせると最近、何故か帝都では『クロワッサン』が流行ってるらしい。
視線がジュリエットに向いていた。
そして出来上がった料理を双子の姉達がテーブルに運んだ。
ルカもそうだが、姉等も美形だと言う「アタイもそうだけどもさー。」と付け加える。ルカ母マリー。
で、何時も給仕をするのがこの双子だ。
「店主は居るか!」突然、このブタ…商人が大声で呼んだ。厨房からルカの父が出て「なんでやしょーか?」と言うと、そのブ…商人「店主。娘はこの二人だけか?」と「はいそーすけど何か?」「一人くれ!」とふざけた事を…「あ″?」「んー聞こえなかったか?『愛人に欲しいのでくれ。』と言ったのだ」と宣うので夫婦で蹴飛ばして店の外に蹴り出して鍋のお湯ぶっ掛けて追い出した。
そーしたら「ジェイロック商会に楯突いたなー覚えてろー」と言ってブタ共、店の壁蹴って行きやがった。
と言う事だそうな。
「…するとその『ジェイロック』って商会が御姉様方の失踪に関わって居ると思うのですの?」
「他に心当たりは有りませんか?証拠が状況だけでは根拠が…」
「いいや。多分だけど『ジェイロック商会』で、間違い無い。」
とまだ言葉を言い終えていない皇女を遮るロイク。不敬である。
「…『犯罪奴隷』ってあんだろ?」
「ああ、僕の村に居るよ」
とルカ。
「うん、犯罪の重さに依るけど、刑期が短いとか軽い刑罰のが農村とかに行くんだ。重罪人は炭鉱とか鉱山とかキツい所に連れてく。ンで、そう言った『犯罪奴隷』を仲買して刑罰通りに売る商会がある。役人がそんなのやるわけ無いだろ?人手がいるし…」
「その『犯罪奴隷』とルカさんの御姉様方と何か関係が御座いますの?」
「ジュリ、関係あるわ、と思うのあたし。奴隷の護送と一緒に連れて行く。って事じゃない?」
「そう、流石アンリエットさん。そうなんだよ。『犯罪奴隷』って男だけじゃ無いからな。『ジェイロック商会』も奴隷の仲買い業してんだ。。。ンでだ、ヤバい噂ってのが婦女子を拐って売っぱ払ってるって話し只、『犯罪奴隷』に、そんな女子どもが居たら、怪しまれる筈なんだよ。どうやって運び出しているのか、不思議なんだけどね。。。」
「もしそう言う事実があったとして、誘拐した『未成年』も居るでしょう?余程でなければ『未成年の犯罪児』の奴隷はあまり居ないし、護送官も付く筈だし…」
「ねぇアンリちゃん。私ね、何かヤヴァいって気がする。ルカくんの御父様。急がないと取り返しのつかない事に成りそうよぅ?」
妙に勘の良いフェリシエンヌが言ったのである。




