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ヤヲの部隊は、実に様々な種族で成る混成部隊だ。城から選りすぐられた魔を持たない人間はもちろんのこと、今回の道行きのための傭兵達も、魔王の側から送られた魔族の戦士達も、唯一つ共通していることはヤヲに認められるだけの腕を持つこと。それはまさしく『精鋭部隊』。
それゆえに、入隊のための儀式もかなり荒っぽい……
朝日爽やかな森に、かつーんと小気味良く響く木質の高音を響かせて、黒い甲冑をつけたヤヲと、白い甲冑をつけたヤヲが、木刀を構えて対峙している。周りを取り囲む兵士達は一様に二人をはやし立て、否応無しに戦いの気勢を上げてゆく。
それは見習いとしての、スラスラの腕を確かめるために設けられた、演習試合であった。
白いヤヲがぐいっと木刀を上段に構え、一気に間合いを詰める。そのがら空きの胴を狙って突きこまれた太刀筋を、
「かかりましたね。」
白いヤヲは軽く飛び越え、落下の勢いと共に木刀を打ち込む。
黒いヤヲは木刀を掲げ、その攻撃をかろうじて受け止めた……かに見えたが、
「かかったのはお前のほうだよ。」
かっつーんと木刀が跳ね上がり、攻撃を解かれた白いヤヲの喉元すれすれに剣先が突き当てられた。
「身体能力は同じはずなのに、なぜっ!」
「だから、正面から突っ込むなって言っただろ。」
勝ち誇ったように笑う黒いヤヲは、もちろん、あのスライムの仮の姿だ。
「直線的な攻撃は、破壊力は増すが横からの衝撃に弱くなる。お前の攻撃を見切れるだけの『目』があれば、スライムでも勝てるぞ?」
兵士達の間から大きなブーイングと、ほんの僅かばかりの歓声が上がった。
「な、なんです、この盛り上がり……」
「賭けてたんだろうよ。この様子じゃ、俺は大穴だったらしいけどな。」
「へえ、じゃあ、本命が負けるわけにはいきませんねえ。」
ヤヲの腕がすばやく、詠唱の陣を結ぶ。
「シ=トーラ(風よ)」
「っぶねぇ!」
飛びのいた黒い男の足元を、小さく渦巻く風が切り裂く。
「それは卑怯だろうが!」
「何を言ってるんですか。魔法も実力のうちですよ。」
歓声が一気に大きく、森を揺るがすほどに響いた。
……ばしゃ!
「ぷはっ!」
全身に冷たい水をかけられて、スラスラは目を覚ました。
ぐるりと眼球液を回すと、兵士達が彼を取り囲み、その中にはユリの姿もあった。
「しっかりしろよ、新人。」
「あそこまで押しておきながら、何で負けるかなぁ。」
黒い甲冑からずるりと這い出す彼に飛ぶ罵倒は、賭けに負けた者たちからの八つ当たりの言葉だ。
「いやいや、中々に善戦だったぞ。」
「まあ、隊長に勝つには千年早いがな。」
暖かい励ましの主達は、今回の賭けのおかげで財布も温まった者たちだろう。
賑やかな歓迎の中、ずるりと起き上がるスライムにユリが飛びついた。
「スラスラ、起きた。」
しかし、弾力はユリを受け止めることなく、飛びついた勢いそのままに小さな体を弾き返す。
「何だ、居たのか。」
「スラスラ?」
ぺたんと尻餅をついた銀髪を見下ろしてなお、スライムは冷たい態度を崩そうとはしない。その様子に、ギャラリーが凍りついた。
「べたべたするな。俺はお前の玩具じゃねぇぞ。」
「おもちゃ、違う。」
「じゃあ、ペットだな。お前に飼われることになるんだ。ペットみたいなもんだよな。」
「違う!」
「まあ、感謝はしてるぜ? ここの給料は、桁違いにいい。だからって、ベビーシッターまでしてやるつもりはないがな。」
つと立ち上がったユリは、今迄で一番の無表情だった。銀の眼は虚ろに凍りつき、全ての顔筋は硬く動きを閉ざしている。
「スラスラ、馬鹿。」
全く抑揚無く、小さくつぶやかれた言葉には明らかな怒りがこもっていた。
(それでいい。いっそ徹底的に嫌ってくれたほうが……でなきゃ、俺が諦めきれねぇ。)
ずるりと崩れ落ちる、表情の無い生き物の真意に気付く者は、誰一人としていなかった。




