3
森を抜けた先は、陸路交易で栄える大きな街であった。
―――地方都市キスンナー。
立ち並ぶ商家はどれも石造りの立派な物で、街の中央を通るメインストリートには様々な人種が行きかい、活気にあふれている。遠くから来る旅人をもてなすための宿も立派なもので、ユリと数十人から成る護衛団の宿を探すことも、そう難しくは無かった。
街で一番大きな宿を借り切っての一夜が、兵達をいたく喜ばせたことは言うまでも無い。
きちんとした寝台で眠ることもだが、それよりも彼らの目当ては『酒』そして『宴』。すなわち『酒宴』……食堂は屈強な戦士達に乗っ取られ、宿の従業員は総出で酒を運ぶ羽目になっていた。
ここノーニウィヨ王国は魔族と人間の共存が上手くいっている国ではある。とはいっても、人に近いものならともかく、獣に近い姿をした魔族たちは人間とは生活様式が大きく異なるため、おのずと住み分けが成っている。
だがこの酒宴では、全ての者達が等しく杯を交し合っていた。
地精霊が差し出す杯を、人間が受けて飲み干す。人面獅子の調子はずれな歌に合わせて、泣女が踊る。
その中心にはハーフエルフの隊長が、無表情な少女と並びながら部下達からの酒をニコニコと受けていた。
(笑っている……)
喧騒の輪からはじき出されて部屋の隅に佇むスライムは、銀髪の少女がほんの2ミリほど、確かに唇の端を上げていることに慰められる思いがした。
ユリとのやり取りを目の当たりにした者達は、この乱暴で生意気なルーキーをそれとなく遠ざけている。本来なら歓迎と成るべき宴にもかかわらず、彼に声をかけようというものは一人もいない……と、自身さえもが思っていた。
「ちゃんと楽しんでる~?」
それは、エキゾチックな褐色の肌の、セクシーな女だ。黒髪をいかにも戦士らしく短く刈りそろえた下に、深緑の瞳輝く美貌……よりも男の目を奪うのは、大きく開いたドレスの胸元を押し広げんばかりに実りきった……
「でかいと書いて巨乳だな。」
「そ。このドレス借り物だからさぁ、この辺がきつくって。」
軽く胸元を弾いて、ぷるんと柔らかな肉をことさらに揺らす様は、普通の男なら一撃必殺の誘いであろう。
だが、スライムは用心深く相手を見た。
たぷんとした乳周りに、ぷりんとした腰周り、それに、むちんとした太もも。一口食べてみたいほどの肉感に騙されてはいけない。キュッと引き締まったウエストや、裾からのぞくふくらはぎの細さには、鍛えこまれた女戦士のたくましさが見て取れる。
なによりも気になるのは、彼女が『ただの人間』にしか見えないということだ。
「お前、おかしな魔力を纏っているな。」
「んふふ、気になる?」
「ああ、人間でもなく、魔族でもなく……だからと言って、半魔半人って訳でもないな?」
「ボクも、ずっとあんたの事、気になってたんだよね。」
たぷんと揺れるスライムに、同じくらいたぷんと揺れる乳肉を見せ付けながら、女が近寄る。
「ねえ、あんた、あの姫サマとどういう関係?」
「ユリ……サマとか? ただの雇用関係だ。」
「それにしちゃあ、随分と……」
女は容赦なく体を寄せてくる。触れそうで触れない乳先の期待感に、スラスラが微かに呻いた。
「俺を、誘ってるのか?」
「誘われてくれるの?」
「いや、その……俺だって一応男だし? そりゃぁ……」
突然、どーんと突き上げるような衝撃がスラスラを襲った。
「えふっ?」
上がり戻ってきた酒を堪えながら振り向くと、どの距離から飛びついてきたのか、たぷたぷと衝撃の余韻に揺れる体にユリがしがみついていた。
「スラスラ、なに、する?」
小さな瞳で見上げられると、全てを投げ出してただ抱きしめてやりたい、そんな衝動に駆られる。だが、酔っ払いたちの中から冷静にねめつけているヤヲの視線が、その気持ちを押しとどめた。
「ご期待通り、ナニするところだよ。」
「ナニ、何?」
「お前ぇみたいなガキには解んないか……いや、本当は大きいもんな。解ってんだろ。」
スライムは、ことさら下卑た笑いを外皮の表面に浮かべて見せた。
「ちゃんと大人の姿でっていうんなら、あんたが相手でも、俺は構わないぜ。」
ユリの瞳が微かに潤んでいることは、もちろんスライムには解っていた。それでも、言葉を鋭く尖らせて、ユリの心をえぐる。
「『婚姻』なんて思わせぶりに誘ったのは、お前のほうだぞ。一発ぐらいヤらせてくれるのかと思ってたのに、ずっと子供の姿って、どういうことだよ。」
「いろいろ、ある。」
「そりゃぁ、いろいろゴザイマスでしょうね、姫サンだもんよぉ。でも、男には色々はねぇんだよ。とりあえず、突っ込めりゃぁいい。」
小さな腕をぐいっと掴んで、とどめの言葉を耳に吹き込む。
「大きけりゃあ、なおさらいい。」
ユリが自分の胸に手を当てた。
「大きい……いい?」
それからチョーカーに手をかけ、戸惑い、再び己の胸を確かめる小さな瞳から、ぽろりと一粒だけ涙がこぼれた。
(頼む、早く俺を嫌いだと言ってくれ。でないと、俺は……)
突き放すその腕にだけ優しさを込めて、スラスラは、二度とユリを振り向こうとはしなかった。
「スラスラ、馬鹿!」
走り去る足音を聞きながら表情の無い生き物がどんな想いでいたのか、褐色の美女にはわからなかったのだろう。
「随分と、惚れられてるんだね。」
「惚れられてる? 冗談じゃねぇ。惚れてんなら、さっさと抱かせてくれればいい。そこいくと、あんたはシンプルでいいな。」
「あ?」
「俺を誘ってるんだろ?」
「う? あ……どうする? 私の部屋へ行く?」
その乳先が複雑に震えるのを見て、スライムは苦笑した。
「そんなに震えてちゃ、色仕掛けが台無しだな。」
「うう……」
「まあ、気にするな。性的対象外だって理由で振られるのは、慣れているさ。」
そういいながら、体表ににやりとした笑いを象る。
「だが、部屋へは入れてもらうぜ。」
「うううう……」
「そう身構えるな。あんたからはいい匂いがする。金の……それも大金の匂いだ。」
「そういうことかい、悪人。」
女はにやりと笑った。
「ミョネ=ラメーヤハ。あんたとは、いい相棒になれそうだね。」
「ああ、よろしくな、ミョネ。」
スライムも、ぐにゃりと形作った右手のようなものを差し出した。
もしかして、エロ展開ご希望っすか?
こっちではエロ無しだ!と決めては居るのですが、作者、馬鹿なんで、唄われればいくらで踊りますよ。
ただ、あっち側だと、読者様の年齢制限が…
ご希望があれば、裏開設アリです。




