第6巻「世界の王」
プロローグ ――世界が敵になった日
第1話 「世界の拒絶」
第2話 「世界樹」
第3話 「世界の王」
第4話 「失われる王冠」
第5話 「王冠なき四人」
第6話 「世界の記憶」
第7話 「最初の人間」
第8話 「王ではない者」
第9話 「オルビスの涙」
第10話 「世界樹の反逆」
第11話 「最後の扉」
第12話 「世界を選ぶ者」
エピローグ ――最後の夜
プロローグ ――世界が敵になった日
朝が来た。
月が沈み、太陽が昇る。
百年ぶりに戻った世界の朝。
人々は喜んだ。
泣いた。
笑った。
ようやく――永夜が終わったのだと。
しかし。
その日の夜。
異変が起きた。
大地が震えた。
空が割れた。
そして――
世界中から、同じ声が響いた。
『――王を排除する』
ヨルは空を見上げる。
「……王を?」
アリスが月を見る。
月が赤く染まっていた。
ミナの生命の力が消えていく。
レイの朝の光が暗くなる。
四つの王冠が――
世界から拒絶され始めていた。
クロノスが低く呟く。
「始まったか」
「何が?」
「――《世界の王》による、世界の選別が」
第1話 「世界の拒絶」
ノクティスの街に異変が起きた。
人々の影から黒い鎖が伸びる。
建物が崩れる。
空に巨大な亀裂が走る。
「何なんだよ、これ!」
ヨルが叫ぶ。
黒い王冠を呼び出す。
しかし――
王冠は現れなかった。
「……え?」
ヨルの力が消えている。
アリスも同じだった。
「月の力が……使えない」
ミナは生命の声を聞けなくなり。
レイの朝の光も消えていく。
四人は初めて理解する。
自分たちは強いから王なのではない。
世界が認めていたから――
王だったのだ。
そして今。
世界は彼らを否定していた。
第2話 「世界樹」
街の中心に巨大な樹が現れた。
天まで届くほど巨大な樹。
その根は大地を覆い。
枝は空を埋め尽くす。
クロノスはその姿を見て、顔を強張らせた。
「《世界樹》……」
「知ってるのか?」
「あれは世界の記憶そのものだ」
世界樹。
世界に起きたすべてを記録する存在。
戦争。
平和。
誕生。
別れ。
そして――
四人の王の過去まで。
「世界樹が、俺たちを敵だと判断したのか?」
クロノスは首を振った。
「違う」
「……?」
「世界樹を操っている存在がいる」
その瞬間。
樹の頂上から声が響く。
『――四王よ』
『お前たちは、世界を壊す存在である』
第3話 「世界の王」
空から、一人の少年が降りてきた。
黒い髪。
透明な瞳。
そして――
世界そのものの色をした王冠。
「僕が《世界の王》」
少年は名乗った。
「――オルビス」
ヨルは睨む。
「何が目的だ」
「世界を守る」
「そのために俺たちを消すのか?」
オルビスは頷いた。
「そう」
迷いがない。
「夜は争いを生み」
「月は過去を残し」
「生命は苦しみを繰り返し」
「朝は変化を生む」
四人を見渡す。
「ならば、すべてを止めればいい」
ヨルは拳を握る。
「……それじゃ、生きてる意味がない」
オルビスは静かに答えた。
「だから僕は、世界から《痛み》を消す」
第4話 「失われる王冠」
オルビスが手を上げる。
四人の王冠が光を失っていく。
「やめろ!」
ヨルが叫ぶ。
しかし。
黒い王冠が砕けた。
「ヨル!」
アリスが駆け寄る。
ヨルは膝をついた。
「……俺の夜が」
黒い王冠は消えた。
続いて。
銀の王冠。
白の王冠。
青の王冠。
四つすべてが消える。
「これで終わり」
オルビスが告げる。
「王は必要ない」
ヨルは立ち上がる。
「……違う」
「?」
「王冠がなくても――」
ヨルは仲間を見る。
「俺たちが一緒にいることは消えない」
第5話 「王冠なき四人」
力を失った四人は、普通の人間になった。
ヨルは剣を握る。
アリスは弓を構える。
ミナは夜獣たちと共に走る。
レイは小さな光を灯す。
王の力はなくても。
彼らは戦えた。
「私たちは王だから一緒にいたんじゃない」
アリスが言う。
「一緒にいたから、王になったのよ」
ヨルは笑う。
「だったら簡単だ」
「何が?」
「また最初からやり直せばいい」
その言葉に――
世界樹が揺れた。
第6話 「世界の記憶」
世界樹の内部。
そこには無数の記憶が眠っていた。
ヨルたちは、自分たちの過去を見る。
百年前。
千年前。
さらにその前。
夜。
月。
生命。
朝。
何度も世界は繰り返されていた。
しかし。
どの時代にも――
四人が存在していた。
「私たちは……ずっと一緒だったの?」
アリスが呟く。
ヨルは答えられない。
そして。
一つだけ異なる記憶を見つけた。
そこには――
五人の少年少女がいた。
四人の王。
そしてもう一人。
その顔だけが――
黒く塗り潰されていた。
「……誰だ?」
クロノスが震える。
「それは……」
言葉を失う。
「世界が消した、《最初の人間》だ」
第7話 「最初の人間」
黒く塗り潰された人物。
その名前は記録されていなかった。
しかし。
ヨルだけは、その人物を見た瞬間――
胸が痛くなった。
「……知ってる」
「ヨル?」
「この人を……俺は知ってる」
記憶が流れ込む。
四人の王と共に笑う一人の人間。
王ではない。
神でもない。
ただの人間。
その人物が言った。
『王様なんていらないよ』
『みんなで世界を作ればいい』
ヨルの瞳から涙が落ちる。
「……これ、俺だ」
アリスが息を呑む。
「でも……」
「今の俺じゃない」
クロノスが言った。
「違う」
そして。
真実を告げる。
「――お前の最初の人生だ」
第8話 「王ではない者」
最初のヨル。
彼は王ではなかった。
夜でも。
神でも。
特別な存在でもなかった。
ただの人間。
四人の王と共に生きた少年。
しかし。
世界が崩壊しかけたとき。
彼だけが選択を迫られた。
『誰かが世界の中心にならなければならない』
四人の王が言う。
しかし少年は拒んだ。
『王なんていらない』
そして――
自分自身を世界の中心へ置いた。
王ではなく。
神でもなく。
「人間として世界を支える」
その選択によって――
夜が生まれ。
月が生まれ。
生命が生まれ。
朝が生まれた。
ヨルは理解する。
自分が夜そのものなのではない。
夜だけでもない。
「俺は……」
アリスが手を握る。
「あなたは、あなたよ」
第9話 「オルビスの涙」
オルビスが現れた。
「どうして……」
彼の声は震えていた。
「どうして、君たちはそこまでして世界を残そうとする?」
ヨルは答える。
「好きだから」
「……」
「嫌なこともある」
「苦しいこともある」
「それでも――」
ヨルは笑った。
「生きてる世界のほうがいい」
オルビスの透明な瞳から、涙が落ちる。
「僕には……分からない」
「なら、一緒に探そう」
「……僕も?」
アリスが頷く。
「あなたも、この世界の一部だから」
オルビスは初めて笑った。
しかし――
その瞬間。
世界樹がオルビスを貫いた。
「ぐっ……!」
世界樹の声が響く。
『世界の王に、意思は必要ない』
ヨルが叫ぶ。
「オルビス!」
第10話 「世界樹の反逆」
世界樹が巨大な姿へ変わる。
世界そのものが敵になる。
「オルビスを操っていたのは……世界樹?」
クロノスが答える。
「いや」
「じゃあ何だよ!」
クロノスは空を見上げる。
「世界樹すら操っている存在がいる」
その瞬間。
世界が真っ暗になった。
太陽も。
月も。
星も。
すべて消える。
そして。
声が響く。
『――ようやく、ここまで来た』
ヨルの黒い王冠が、一瞬だけ輝く。
『七つ目の扉を開け』
ヨルは凍りついた。
「七つ目……?」
クロノスが呟く。
「まさか……」
第11話 「最後の扉」
世界樹の最奥。
そこに巨大な扉があった。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
五つ。
六つ。
そして――
七つ目。
ヨルは扉の前に立つ。
「この先に何がある?」
クロノスは答えない。
アリスがヨルの手を握る。
「一緒に行く」
ミナも。
レイも。
オルビスも。
五人が並ぶ。
ヨルが扉に触れる。
すると――
黒い王冠が現れた。
しかし。
今までとは違う。
王冠には――
《夜》という文字が刻まれていた。
『夜が始まった場所へ』
声が響く。
『戻れ』
扉が開く。
その向こうには――
何もない。
ただ、一人の少年が立っていた。
ヨルと同じ顔。
しかし。
その少年の目は――
真っ赤だった。
「……俺?」
少年は笑う。
「やっと来たね」
第12話 「世界を選ぶ者」
少年は名乗らなかった。
ただ一言。
「僕が、君の始まりだ」
ヨルは剣を構える。
「何者だ」
「君が最初に捨てたもの」
「……?」
少年は胸に手を当てる。
「《人間だった頃の君》だよ」
世界が揺れる。
少年の背後に――
すべての王冠が浮かぶ。
黒。
銀。
白。
青。
透明。
そして。
世界色の王冠。
六つ。
「僕はずっと待っていた」
少年が笑う。
「君が王を捨てる日を」
「そして――」
七つ目の王冠が現れる。
それは王冠ではなかった。
人間の手だった。
「最後に必要なのは、王じゃない」
少年は言う。
「――《人間》だ」
ヨルは理解する。
この世界のすべては。
王によって始まったのではない。
最後に世界を選ぶのは――
王ではなく。
一人の人間。
ヨルは剣を下ろした。
「だったら、俺は――」
仲間を見る。
アリス。
ミナ。
レイ。
オルビス。
クロノス。
「俺は、人間としてこの世界を選ぶ」
その瞬間。
六つの王冠が砕けた。
世界が光に包まれる。
そして。
遥か彼方で――
七つ目の扉が完全に開いた。
その先から聞こえた声。
『――ならば、最後の夜を始めよう』
エピローグ ――最後の夜
世界から、すべての王冠が消えた。
ヨルも。
アリスも。
ミナも。
レイも。
オルビスも。
もう王ではない。
ただの少年少女だった。
「……終わったの?」
ミナが聞く。
クロノスは首を横に振った。
「いや」
空を見上げる。
太陽が沈む。
月が昇る。
世界が夜になる。
「――始まったんだ」
ヨルは笑う。
「最後の夜か」
アリスが隣に立つ。
「怖い?」
「少しだけ」
「私も」
二人は笑った。
そして。
世界の果て。
七つ目の扉の向こうから――
巨大な黒い影が現れた。
それは王ではなかった。
神でもなかった。
世界でもなかった。
《最初の夜》そのもの。
ヨルは黒い影を見る。
そして。
自分の胸に手を当てる。
「……行こう」
アリスが頷く。
「うん」
二人の後ろに、ミナ、レイ、オルビスが並ぶ。
クロノスも笑う。
「さあ――最後の物語だ」
夜が世界を包む。
しかし。
今度の夜は――
終わりではない。
朝へ続くための夜だった。
次巻予告
第7巻・最終巻『最後の夜』
王は消えた。
世界も。
神も。
始原さえも。
すべての力を失った。
それでも――
最後の敵は残っていた。
《最初の夜》。
それは、世界が生まれる前から存在していた。
ヨルは知る。
自分が何度生まれ変わってきたのか。
なぜアリスと出会い続けたのか。
なぜミナとレイが王として生まれたのか。
そして――
なぜ世界は、何度も同じ夜を繰り返してきたのか。
「これが最後だ」
ヨルは言う。
「俺たちで終わらせる」
アリスは笑う。
「ううん」
「え?」
「終わらせるんじゃない」
彼女はヨルの隣に立つ。
「――始めるのよ」
最後の敵。
最後の夜。
最後の選択。
そして。
すべての伏線が、一つにつながる。
『君と僕が統べる夜』
その物語が――
ついに完結する。
第7巻・最終巻
『最後の夜』
――夜の先に、本当の朝を。




