第5巻「始まりの夜」
プロローグ ――世界が生まれる前
第1話 「黒瀬ヨルの正体」
第2話 「五人目の王」
第3話 「クロノスの沈黙」
第4話 「夜の誕生」
第5話 「月の記憶」
第6話 「四王集結」
第7話 「白の王」
第8話 「朝の約束」
第9話 「始原の王の願い」
第10話 「始まりの王冠」
第11話 「君と僕が選ぶ世界」
第12話 「始まりの夜」
エピローグ ――世界の王
プロローグ ――世界が生まれる前
何もなかった。
空も。
大地も。
月も。
そして――夜さえも。
完全な無。
そこに、ひとつの光が生まれた。
いや。
光と呼ぶには、あまりにも静かなものだった。
それは「始まり」。
世界という概念が生まれるよりも前に存在していた、最初の意思。
《始原》。
そして、その始原から――
五つの力が生まれた。
夜。
月。
生命。
朝。
そして――世界。
四つの王が世界を形作り、五つ目の王が世界そのものを管理する。
それが、本来の姿だった。
しかし。
始まりには、ひとつだけ存在してはいけないものがあった。
「……意思」
始原の王は呟いた。
王たちは成長しすぎた。
自分たちで考え、自分たちで選び、自分たちで未来を決めるようになった。
だから――世界は始原の手を離れた。
それでも。
始原の王は、諦められなかった。
「ならば……もう一度、最初からやり直せばいい」
その瞬間。
世界で最初の夜が生まれた。
そして――
黒い王冠が、静かに輝いた。
第1話 「黒瀬ヨルの正体」
目を覚ますと、ヨルは暗闇の中にいた。
「……ここは?」
何もない。
上下もない。
音すらない。
ただ、目の前に透明な王冠だけが浮かんでいた。
「また……この王冠か」
ヨルが手を伸ばす。
触れようとした瞬間――
『違う』
声がした。
「……誰だ?」
『お前は、それを持つ者ではない』
「じゃあ……俺は何なんだよ」
沈黙。
そして。
『お前は――夜そのものだ』
ヨルの瞳が見開かれる。
「……俺が?」
『黒瀬ヨルという人間は、お前が生きるために選んだ器にすぎない』
その言葉を聞いた瞬間。
ヨルの背後に、巨大な黒い影が現れた。
クロノスだった。
「……その話は、俺からする」
「クロノス?」
「今まで黙っていたことがある」
黄金の瞳が、ヨルを見つめる。
「お前は夜王の器じゃない」
一拍。
「――お前こそが、《夜》だ」
第2話 「五人目の王」
アリス、ミナ、レイ。
三人も異変を感じていた。
空に浮かぶ月。
大地に宿る生命。
そして世界を照らす朝。
四つの力が、ヨルのもとへ集まっていく。
「……これで全部なの?」
ミナが呟く。
レイは首を横に振った。
「違う」
「え?」
「四つの王が存在するなら……そのすべてを管理する存在が必要になる」
その瞬間。
空に巨大な王冠が浮かんだ。
透明でもない。
黒でもない。
銀でもない。
白でもない。
青でもない。
それは――世界そのものの色だった。
『――第五の王』
声が響く。
『《世界王》が目覚める』
ヨルは拳を握った。
「……また王かよ」
アリスが隣に立つ。
「今度は、私たち四人で止める」
「……ああ」
しかし。
その会話を聞いていたクロノスだけは――
何も言わなかった。
第3話 「クロノスの沈黙」
「クロノス」
ヨルが振り返る。
「お前、何か知ってるだろ」
クロノスは答えない。
「第五の王のことも」
沈黙。
「俺のことも」
長い沈黙の後。
クロノスは目を閉じた。
「……知っている」
「なら言えよ」
「言えば、お前は自分を人間だと思えなくなる」
「それでもいい」
ヨルはまっすぐに見つめた。
「俺が何者でも――俺が俺であることは変わらない」
クロノスは小さく笑った。
「……昔のお前も、同じことを言った」
「昔?」
「ああ」
そしてクロノスは告げる。
「お前は何度も生まれている」
「何度も?」
「夜が必要になるたびに――お前は生まれた」
ヨルは言葉を失った。
「つまり俺は……」
クロノスは静かに答える。
「世界が生まれた、その瞬間から存在している」
第4話 「夜の誕生」
ヨルの意識に、過去の景色が流れ込んだ。
何もない世界。
そこに最初の光が生まれる。
その光を包み込むように――
黒い闇が広がった。
それが夜だった。
『夜は、光を消すために生まれたんじゃない』
始原の王の声。
『光が存在するために、夜が必要だった』
夜があるから、朝が生まれる。
夜があるから、月が輝く。
夜があるから、人は眠り、夢を見る。
ヨルは初めて知った。
自分の力は、破壊するためだけのものではなかった。
「……俺は」
胸に手を当てる。
「夜を守るために生まれたのか」
クロノスが答える。
「違う」
「え?」
「夜がお前を選んだんだ」
黒い王冠が輝いた。
第5話 「月の記憶」
アリスにも変化が起きていた。
銀色の光が身体を包む。
「……また、この記憶」
彼女の前に現れたのは――
百年前の自分。
《月姫》だった。
そして隣には、かつての夜王。
さらに――
白の王。
朝の王。
四人は笑っていた。
戦っていなかった。
争ってもいなかった。
ただ――
一緒に世界を見ていた。
「私たちは……」
アリスが呟く。
「ずっと、こうしたかったんだ」
その記憶の中で、月姫は言った。
『誰か一人が消える世界なんて、いらない』
その言葉は、今のアリスにも届いた。
「……ヨル」
彼女は走り出す。
「今度こそ、誰も消させない」
第6話 「四王集結」
世界各地で異変が起き始めた。
夜が濃くなる。
月が赤く染まる。
生命が暴走する。
朝が不安定になる。
四つの王の力が、何者かに引き寄せられていた。
「……吸われてる」
ミナが膝をつく。
白い王冠から光が抜けていく。
「ミナ!」
アリスが駆け寄る。
「大丈夫……」
ミナは笑う。
「でも、ちょっと力を取られてるだけ」
レイが空を見上げる。
「敵は四王の力を集めている」
ヨルは黒い王冠を握った。
「だったら、奪い返す」
その瞬間。
四つの王冠が同時に輝いた。
黒。
銀。
白。
青。
「俺たちの力は――」
ヨルが言う。
「誰かを消すためにあるんじゃない」
四人の声が重なった。
「――守るためにある!」
第7話 「白の王」
ミナの前に巨大な夜獣が現れた。
だが。
その獣はミナを襲わなかった。
静かに彼女の前へ跪く。
「……私を守ってるの?」
夜獣が鳴く。
ミナは立ち上がった。
「なら――私も守る」
白い王冠が強く輝く。
生命の力が世界へ広がっていく。
枯れていた草が蘇る。
傷ついた夜獣が立ち上がる。
そして――
ミナの背後に無数の生命が集まった。
「私は白の王」
彼女は笑う。
「でも、王様になりたいわけじゃない」
一歩、前へ。
「みんなと一緒に生きたいだけ!」
白い光が世界を包んだ。
第8話 「朝の約束」
レイは一人で空を見上げていた。
「……僕が朝を作れば」
ヨルが隣に立つ。
「また一人でやろうとしてるだろ」
「……」
「顔に書いてある」
レイは苦笑する。
「僕が消えれば、朝は完成する」
「ダメだ」
即答だった。
「でも――」
「ダメだ」
ヨルはレイの肩を掴む。
「俺たちはもう、誰か一人を犠牲にする未来を選ばない」
アリスも隣に来る。
「そうよ」
ミナも笑う。
「四人なら、きっと違う方法がある」
レイは三人を見る。
そして――
初めて涙を流した。
「……うん」
青い王冠が輝く。
「約束する」
「僕は、みんなと朝を見る」
第9話 「始原の王の願い」
始原の王が姿を現した。
「なぜ……そこまでして世界を守る?」
ヨルは答える。
「楽しいことだけじゃないからだ」
「……」
「苦しいこともある」
「ならば、なぜ?」
「それでも」
ヨルは笑った。
「生きていく価値があるからだ」
始原の王は理解できなかった。
彼は世界を救うために、世界を消そうとした。
苦しみを消すために、存在そのものを消そうとした。
「……私は間違っていたのか」
アリスが答える。
「間違っていたんじゃない」
「……?」
「ただ、諦めるのが早すぎただけ」
始原の王の透明な瞳が揺れた。
第10話 「始まりの王冠」
五つの王冠が空に浮かぶ。
黒。
銀。
白。
青。
透明。
それらが一つになろうとした瞬間。
世界が揺れた。
「ヨル!」
アリスが叫ぶ。
黒い王冠がヨルの身体へ吸い込まれる。
「ぐっ……!」
夜が暴走する。
世界中の闇がヨルへ集まっていく。
「ヨル!」
ミナが叫ぶ。
レイも手を伸ばす。
しかし。
ヨルは自分の意識を失いかけながら――
笑った。
「……大丈夫だ」
「何が大丈夫なのよ!」
アリスが叫ぶ。
ヨルは答える。
「俺は夜だから」
黒い瞳が開く。
「だったら――夜を、俺が選ぶ」
その瞬間。
黒い王冠が透明な王冠を包み込んだ。
第11話 「君と僕が選ぶ世界」
始原の王は消えようとしていた。
「私の始まりは……ここまでか」
ヨルは首を振る。
「違う」
「……?」
「始まりは終わらない」
ヨルの隣にアリスが立つ。
ミナ。
レイ。
四人の王冠が輝く。
「夜があるから、朝がある」
「月があるから、夜を見られる」
「生命があるから、世界は続く」
「朝があるから、未来へ進める」
四つの声が重なる。
「だから――」
ヨルが拳を握る。
「俺たちが、この世界を選ぶ!」
四王の力が一つになる。
《四王・始夜共鳴》
黒い夜。
銀の月。
白い生命。
青い朝。
その中心で――
透明な王冠が砕けた。
第12話 「始まりの夜」
静寂。
戦いが終わった。
空には――
夜と朝が同時に存在していた。
月が沈み。
太陽が昇る。
そしてまた――
夜が訪れる。
世界は初めて、本当の意味で時を刻み始めた。
ヨルは空を見上げる。
「……これが」
アリスが隣で微笑む。
「うん」
「世界なんだな」
「そう」
ヨルは笑った。
「悪くないな」
その瞬間。
透明な王冠の欠片が、ヨルの手の中に落ちた。
『――始まりは終わらない』
始原の王の声。
『世界を選んだ者たちよ』
『次は――世界が、お前たちを選ぶ』
ヨルの表情が変わる。
「……どういう意味だ?」
答えはなかった。
しかし。
空の彼方。
太陽と月の間に――
巨大な樹が現れた。
その根は世界全体へ伸び。
枝は空を覆う。
そして、その頂上に――
巨大な王冠が浮かんでいた。
クロノスが呟く。
「……来るぞ」
「何が?」
黄金の瞳が震える。
「《世界の王》だ」
エピローグ ――世界の王
誰もいない場所。
巨大な樹の根元。
一人の人影が立っていた。
白でもない。
黒でもない。
銀でもない。
その王冠は――
世界そのものの色をしていた。
「四つの王が揃ったか」
男は空を見上げる。
「ならば、ようやく完成する」
その背後で巨大な瞳が開く。
『世界は、王によって統べられる』
男は笑った。
「違う」
王冠に触れる。
「世界を統べるのは――」
その瞳が赤く輝いた。
「世界そのものだ」
――そして。
世界中の王冠が、一斉に震えた。
次巻予告
第6巻『世界の王』
世界を守るために戦った四人の王。
しかし――
世界そのものが、彼らを敵と認識した。
「世界が……俺たちを拒んでる?」
ヨルの前に現れる謎の王。
アリスの月が再び欠け。
ミナの生命が枯れ。
レイの朝が消えていく。
そして明かされる――
世界の王が生まれた本当の理由。
「王は世界を守るために存在する」
「なら――」
ヨルは黒い王冠を掲げる。
「俺たちが、世界の王になる必要なんてない」
世界か。
四人か。
その選択を迫られたとき――
ヨルは初めて、王冠を捨てる。
――世界を統べるのは、王か。
それとも――
君と僕か。




