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異界の侵略「全部盛り」の真実

 リアが静かにカップを置くと、庭園を包む空気が目に見えて重くなった。


 先ほどまで買い占めてきた菓子を美味そうに食べていたエルフやドワーフの重鎮たちも、一斉に表情を強張らせる。


「さて、リク殿。単刀直入に聞こう。君は『異界の侵略』と聞いて、何を想像する?」


「そうですね」私は顎に手を当て、頭の中でロジックを転がす。


「普通なら、凶悪なモンスターの軍団が押し寄せてくるとか、あるいは人間側が始まっているような精神の汚染、はたまた有害な物質による大気汚染とかですかね。……実際のところ、どれが正解なんです?」


「――その、全部だよ、勇者殿」 リアの口から紡がれたのは、想定しうる最悪の「全部盛り」の回答だった。


「全部……?」


「左様だ」ドワーフの族長、ブロッグが重々しく腕を組み、地響きのような声で割り込んできた。


「エルフの、さらに上位の種族から『神託』が下りてな。……この大陸の向こう、世界の果てにある【異界】から、文字通り世界そのものを腐らせる本物の脅威が迫りつつある」


 リアが満天の星空を仰ぎ、悲しげに、しかし酷く冷徹に言葉を継いだ。


「その異界の脅威とは……例えるなら、目に見えぬ『毒の光(放射能)』のようなもの。異界の毒がじわじわと大気を汚して広がってくるのがフェンズ1。その毒に当てられた生物は脳をハッキングされ、狂って自滅するのがフェーズ2。そして、精神が完全に壊れ、肉体が異形に変異した『汚染獣の軍団』が全てを喰らい尽くしにやってくるのがフェーズ3。我々は今、その波をジリ貧で防いでいる」


「……なるほど。だからあなたたちは、人間を前線でせき止めていたわけだ」


「気づいたかね」リアは自嘲気味に微笑んだ。「我らエルフやドワーフの寿命は、人間の10倍から15倍はある。生命の器――【存在力】が頑強なのだよ。それでも、あの毒の光に耐えられるかは疑問だ。ましてや、存在力があまりにも小さくひ弱な人間など、一歩でもあの防波堤の外に出れば、戦うこともできず、ただあっけなく即死する。……だから我々は、人間を安全な箱庭(隔離ドーム)の中に閉じ込めて生かしていた」


 天幕の中に、しんとした沈黙が落ちる。 人間側からすれば「悪魔の侵略」だった戦争の正体は、他種族による命がけの【災害隔離クァランティン】だった。


「それなのに、君たちの国の王は『生存圏を広げろ』『魔族を殲滅しろ』と、自ら死の灰のなかへ飛び込もうと兵を動かす」


リアが深く溜息をつく。


「会話を試みようとしても、彼らの脳は『魔族は敵だ』という生存本能の暴走でバグっており、こちらの警告が届かない。……我らも、もう限界なのだよ」


 私は手元のお茶を見つめ、これまでの全てのパズルがガチリと噛み合う音を聞いた。 王宮の、あの壊れたラジオ状態。あれはシステムなんかじゃない。


「……リア。その精神汚染の『第一波』だけど、もう人間圏に届いてるよ」


「なっ……!?」


「向こうの王や街の連中が、魔族の話題になった瞬間に思考を放棄して同じ言葉を繰り返すのは、脳がすでに異界の『電波(汚染)』に狂わされているからだ。


隔離ドームの中にいても、精神までは守りきれてない。


人間側がお祭り騒ぎをしてる暇なんて最初からないんだよ」 私の指摘に、リアとブロッグがハッとして顔を見合わせた。


 なぜ人間の中で私だけが狂わないのか。それは私がこの世界の人間ではない――異世界の【存在力(抗体)】を持っているからだ。 


私は不敵に笑い、懐のブラックカードを指先でパチンと弾いた。


「話のスケールが大きくなって面白くなってきました。……リア、俺にかけられた契約魔法は『魔族の脅威の殲滅』だ」


「……それがどうしたというのだ? 我らを滅ぼす気か?」


「逆ですよ。あなたたちが人間を押し込める原因になっている【異界の脅威(原因)】そのものを根こそぎ叩き潰して消滅(殲滅)させれば、あなたたちはもう人間を隔離する必要もなくなる。人間側の防衛バグも消える。……意味は間違っていない。完璧な『殲滅』だ」


 リアが呆気に取られたように目を丸くする。



「この国費無限ブラックカードを使って、人間の金で最高の防具と物資をあなたたちに横流ししてやりますよ。人間の財布を燃料にして、他種族の軍備を最高峰にまで強化する。人間の代わりに、存在力のデカいあなたたちと俺とで、その『異界のクソ野郎ども』を迎え撃ちましょう。文句はありませんね、軍師の初陣です」


 リアは驚愕し――やがて、これ以上ないほど頼もしい、悪魔的な笑みを浮かべた。



「ふふ……本当に面白い男。いいでしょう、人間の金で世界を救う神殺しの反逆劇、我が全軍を挙げて君のロジックに従おう!」



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