凱旋する詐欺師と、国家永久フリーパス
ガルディエル伯爵との秘密同盟を結んだ数日後。 私は約束通り、最前線から人間側の王都へと引き返してきた。
王宮を脱走した『指名手配犯』として包囲されるかと思いきや、王都の巨大な城門の前に立った私は、近衛騎士団の面々に向かって堂々と胸を張って言い放った。
「私は召喚された勇者だ! 単身で最前線『グラディス砦』の向こうにある魔族の拠点を強行突破し、これ以上ない【勇者としての責務】を果たしてきた! 王へ重大な報告がある、今すぐ道を開けよ!」
その瞬間、門番たちの瞳からハイライトがすっと消えた。
『魔族の拠点を突破』『責務を果たした』というフレーズが、彼らの狂った脳内システムによって、都合のいい超ポジティブな大戦果として自動翻訳されたのだ。
「おおお! 勇者様が、単身で魔族を圧倒して戻られたぞ!」
「城門を開けろ! 英雄の凱旋だ!」 街は一瞬にしてお祭り騒ぎになり、私は文字通り赤絨毯を踏みしめながら、再び王宮の謁見の間へと足を踏み入れた。
玉座の間では、アードルフ・ヴァルハイト王をはじめとする重臣たちが、手のひらを返したように涙を流して私を迎えた。
「おおお! 勇者様! 疑って申し訳ございませんでした!
まさか単身で魔族の領域に攻め込み、敵を平伏させてこられるとは! さあ、どのような戦いだったのか、その目で見た魔族の無残な有様を教えてくだされ!」
「ええ、聞いてください王よ。私は約束通り前線へ向かい、魔族のボスとサシで激しい死闘を繰り広げてきました。敵は完全にこちらの『知性』と『武力』に戦慄し、完全に平伏していましたよ」(※実際は知的なエルフの伯爵とお互いの言語で話し合い、握手をしてきただけだ。嘘はついていない)
「おおお……! さすが勇者様! 化物を平伏させるとは!」 目を血走らせて狂喜乱舞する哀れな人形たち。
私は彼らを冷ややかな目で見下ろし、ここからが本番だとばかりに、わざと険しい表情を作って声を張り上げた。
「しかしまだ砦一つだ!! ここからはもっと大きな戦果が必要だろう?」
静まり返る謁見の間。私はさらに畳みかける。
「敵の本陣はまだ遠い。ここから私がさらに奥深くへ攻め込み、より巨大な戦果を挙げるべきだ。……だが、それを阻む『足枷』があまりにも多すぎる!」
「足枷、とな……!?」 王がビクリと身を乗り出す。
「そうだ。まず移動速度だ。馬車を乗り継ぐような移動では遅すぎる! 私にもっと早く移動できる最高の移動手段(王室専用の最速の騎獣)を要求する! さらに、各地の検問や国境をどこでもフリーで通れる絶対的な身分証だ。――いいですか? それらの手配に時間がかかればかかるほど、あなた方の望む『戦果(殲滅)』はどんどん遠のくんですよ!?」
『戦果が遠のく』というタイムリミットのアラート。
脳内ハッキングシステムが激しく警報を鳴らした王は、狂ったように叫んだ。
「手配しろ! 今すぐ王室の最速騎獣と、国家最高権限の通行証を勇者様へ捧げるのだ!!」
「それともう一点」私は懐から、あらかじめ用意しておいた契約魔法のスクロールを取り出した。
「戦場を駆ける私にとって、街での金銭のやり取りは非常に煩わしい。……そこで、店での払いはすべて王宮に自動で上がるように手配していただきたい」
家臣の一人が一瞬、正気に戻りかけたように眉をひそめた。
「しかし……それでは勇者様が国の予算を無限に使い込めてしまうのでは……」
「だからこそ、私にその証明を預け、私自身を『この権限は魔族の殲滅の目的以外には使用しない』という契約魔法で縛ろう。これで私が私利私欲で国費を無駄遣いしていないという証明になる。どうだ?」
「おお……!! なんという高潔な精神……!」 謁見の間から、感動の嵐が巻き起こった。
(……ククク、バカめ。俺の言う『目的』は、お前らの言う『虐殺』じゃない。魔族側とのお茶会や、世界のシステムをぶっ壊すための平和活動だ。それらの軍事行動にかかる費用なら、すべてこの契約魔法の範囲内になる!)
自分を契約で縛るという生真面目な提案に完全に騙された王は、涙を流して頷いた。
「疑ってすまなんだ、勇者様! よし、これより勇者様のすべての決済は我が国の国家予算から直接支払うものとする! これであなたを阻むものはなくなった!」
「ええ、感謝します王よ。これで私は、より大きな戦果を挙げることができます」
私は懐に、【どこでもフリーパスの国家最高身分証】、【最高速の移動手段】、そして【国家予算を無限にツケ回しできる契約ブラックカード】を完璧に収めた。
人間側は「これで魔族が全滅する!」とバカみたいにお祭り騒ぎを続けているが、その実、彼らは自分たちの手で「国家予算を魔王軍へダイレクトに流出させる永久機関」のスイッチを入れてしまったのだ。
「さて、それじゃあ次の『戦果(お茶会)』へ向かうとしますか」 私は背を向け、今度こそ完璧な「世界の王」としての権限を握り締めて、再び魔族の待つ最前線へと優雅に歩き出した。




