勇者として召喚されたけど勇者とは?
それからの二年間、人間側の王宮は完全に我が『財布』と化していた。
グラディス砦の周辺を移動しながら、わざと拠点の警備を薄くして魔族側に再奪取させ、それをまた毟り取った軍資金で再々奪還する。
この『マッチポンプの自作自演』の報告を、正気に戻った四人の伝令(アルマ、バルト、クロエ、ディアナ)が、王宮で涙を流しながらアカデミー賞級の名演技で叫び続けたのだ。
「王よ! 勇者様がまたも奇跡の大戦果を! ですが維持のための決済(追加予算)を!」
「おおお、素晴らしい! 追い課金(決済)だ! 勇者様を支えよ!」 目の血走ったアードルフ王たちは、騙されていることすら気づかずに国家予算をガシガシと自動決済し続けた。
その人間の莫大な国費を燃料にして、魔族領には完璧なステルス隔離結界の魔法陣が配置され、エルフやドワーフ、白狼フェンリルから五人の精霊たち(エレナやシルフたち)に至るまで、全種族が【一滴の魔力で敵の循環組織(血管)をミリ単位で縛って即死させる、洗練された迎撃マシーン】へと進化を遂げた。
そして二年の月日が流れた今――。 リアが予言した通り、国境の向こうの夜空がドス黒い雲に覆われ、誰の目にも見えて分かるほど『異界の大気汚染』が深刻化し始めた。汚染の限界を察知した異界のバケモノどもの大群が、ついに津波となって大陸へ向けて進軍を開始したのだ。
私は一通りの訓練を終え、いよいよ実行(決戦)というタイミングで、最速の騎獣を駆り、最後の報告のために人間側の謁見の間へと堂々たる帰還を果たした。
玉座の間は、二年前よりさらに精神汚染(電波)が進み、目が濁りきった王や重臣たちが「勇者様! 殲滅だ、お祭りだ!」とうわ言を漏らす、完全なディストピアと化していた。
私は玉座の前に立ち、彼らを見下ろし、これ以上ないほど重々しい声で最終勧告を突きつけた。
「王よ、そして諸公。これで砦の奪還は完了した。……だが、致命的な問題がある」 私の言葉に、アードルフ王がピクリと反応する。
「問題……とな……?」
「ここまでやられっぱなしだった魔族だ。彼らは追い詰められた結果、おそらくこれが最後となる『総攻撃』を、全方位から同時に仕界(仕掛け)てくることが予想される」(※実際は、異界のバケモノの津波を迎え撃つために、エルフやドワーフの全軍が国境線へ最大展開する。嘘は言っていない)
悲鳴を上げる重臣たちを遮り、私は不敵に笑ってみせた。
「しかし安心しろ。私はすでに、各地の砦に結界を貼る準備をすべて整えてある。そこで、私がこの国に望むことはただ一つだ」
私は王を指差し、断固たる口調で命じた。
「――出るな。この国から一歩も出るな!」(※外は異界の放射能汚染で満ちている。存在力の小さいお前たちが出れば即死する。生かすための軟禁だ。嘘は言っていない)
「あとは、勇気ある者として、私の名において全ての決着をつける! 伝令役にはいつもの四人を借り受け、随時報告は入れさせる予定だ。そして――」
私は懐のブラックカードを突きつけた。
「この結界を発動させる大魔法を行使するため、王宮が抱えるすべての『魔石』を使わせてもらう。これぞまさに、魔族を『完全殲滅』する最大の好機だ!!」
魔族殲滅という絶対のトリガーワード、そして完璧な大義名分。
契約魔法は何のエラーも吐き出さず、王宮のシステムは無条件で私の要求を完全承認した。
「おおお……! 流石、流石は我が国の勇者様だ! 国中の魔石をすべて勇者様に捧げよ! 我らは国に籠もり、聖なる結界の完成を待つぞ!!」
狂ったように歓喜する王宮の連中。 こうして私は、人間側の国家最高リソース(全ての魔石)を合法的に強奪し、彼らを「絶対に外へ出て自滅しない安全な檻」へ完璧に隔離・軟禁することに成功した。
王宮の地下倉庫から莫大な魔石を積み込み、私は四人の伝令と共に王都をあとにした。
人間圏の境界線を越える瞬間、正気に戻った四人が、狂った王宮の幻影を振り返って冷めたため息をつく。
「……身包みを剥がされたことすら気づかず、檻の中で救われるのを待っている。本当に、最後まで一枚上手ですね、リク様」
「ああ。貰うものは全部貰った。これであの国は、ただの安全な空っぽの財布だ」
魔族領の最前線へと戻った私は、待っていたエルフの女王・リアの元へ、人間側から奪ってきた大量の魔石をドサリと投げ出した。
「お待たせ、リア、精霊たち。人間たちの国庫にある全ての魔石を持ってきたよ。これで結界を全開にして、お前たちの武器のエネルギーに回せ」
リアは息を呑み、やがて悪魔的な、しかし最高に美しい笑みを浮かべた。
「ふふ……本当に恐ろしい男。これで我が連合の結界は神の領域に達し、兵たちの武器は無限の魔力を得た。……さあ、始めようか、軍師」
五人の精霊たちが魔石の光を浴びて覚醒し、巨大な白狼が夜空に向かって咆哮をあげる。 人間の最高リソースで極限まで魔改造された他種族連合軍が、ついに大気の向こうから押し寄せる異界のバケモノどもの大群に向けて、一斉に魔導銃の銃口を向けた。
夜風に髪を揺らしながら、私は不敵に笑って引き金に手をかける。
誰も本当の真実を教えてくれない、狂った世界だからこそ――自分の足で答えを聞きに行き、この手ですべての元凶をぶっ壊す。
それこそが、私に課せられた【勇気ある者(勇者)】としての責務なのだから。「――これより、真の『殲滅戦』を開始する」 偽りの勇者が世界のルールを欺く、神殺しの反逆劇が、今ここに幕を開けた。
(第1部:認知の牢獄とファーストコンタクト編・完)




