249話、戦争とは
「寂しい…………」
私は素直にそう言った。
城下町は涼しい風が通り抜けていた。
風の音がはっきりと聞こえ、そのほかの音は何もない。
「みんなは避難してるの?」
私がそう聞くと、兵士はこくりと頷く。
「はい、ここから南へ3日歩くと、ライデンという町があるのですが、そこに一時避難しています」
私は魔力探知で、城下町を探った。
確かに大通り沿いの民家には人はいなかったが……
「まだ残ってるよね?」
城壁の端に人の気配が沢山残っていた。
「そこは貧民街ですね。彼らには避難できるお金がないのです」
兵士は淡々と答える。
それが当たり前だとでも言うみたいに。
「――っ!」
私は――でもっ、という言葉を飲み込んだ。
お父さんに聞いたことがある。魔族というのは、力の無いもの、才の無いものは、生きづらい世界なのだと。
力が1番の社会において、それが無いものは、無に等しいという扱いなのだ。
それに……私は、口出しできるほど、この国のことを何も知らない。
「リーリア……今はとにかくサリサと会おう」
アナスタシアは私の肩を引き寄せた。
体温がとても温かく、優しい匂いがした。
なんとなく、沈んでいた心が満たされていく。
でも、少しだけ恥ずかしい。
「……お姉ちゃん歩きづらいよ」
「ふふ、いいじゃ無いか」
「転けそうになるからっ」
「じゃあ私がお姫様抱っこをしてやろう」
「ちょっ――」
アナスタシアはそういうと、無理やりお姫様抱っこした。
「ナルリース……僕たちもする?」
「引っ叩くわよ」
こうして私たちは、兵士からの羞恥の目を受けながら、城門に着くまでの間、戯れ合ったのだった。
――空っぽの城下町に声を響かせながら。
――
城内は兵士達が騒がしく動き回っている。
怒号飛び交う城内は緊張感を醸し出していた。
私はその中を、大変そうだなと、ぼんやり思いながら歩いている。
…………なんだろうこの感覚。
さっきもそうだ。
貧民街の民衆は私にとって関係のない人達だ。
これから大変な目に遭うのかもしれない。
でも実感がわかなかった。
剣を交えてる訳でも、誰かが傷付いてる訳でもない。
私は戦争というものを知らなかった。
どうなるかなんて、想像もつかない。
だから、何も言えないし、自分のことのように思えなかったのだ。
「こちらです」
そんな自責の念に溺れてると、兵士から声をかけられる。
そこは大きな部屋のようだった。
兵士がその扉を開ける。
すると――
「だからそんな余裕はないって言ってるじゃない!」
そこにはサリサがいた。
明らかに、サリサよりも歳をとっているおじさん達に囲まれながらも、堂々とした態度で発言をしていた。
相変わらず、美人でカッコいい人だ。
「失礼します! 魔王サリサ様。例の少女を連れてきました!」
兵士の言葉で、この部屋にいた全員がこちらを向く。
どうやら会議中だったようで、テーブルの上には地図が広がっていた。
サリサは私たちを見るや否や、途端に笑顔となった。
「ああ、みんなっ! よかったわ」
サリサはこちらに近づくと、私に抱きついてきた。
私は少しだけびっくりする。
「サリサ……ちょっと苦しいよ」
「あ……ごめんなさい。でも、急に別れることになったから心配してたのよ」
サリサは離れると、私の頭に手を置いた。
「あの時はごめんなさいね。ベアルを止めようとしたのだけど、話を聞いてくれなくて」
その謝罪に私の心は大きく動く。
私の動揺を感じ取ったのだろう。
サリサは再び抱きついてきた。
「あなたは悪くないわ。ベアルは……記憶を取り戻したらしいの」
「えっ…………」
声が出なかった。
記憶って……なんの?
気になる……でも…………少しだけ怖い。
聞きたいことは多くあった。
――しかし、
「なんだその子達は! 今は大事な会議中だぞ!」
部屋の中にいた老人達が、シワだらけの顔をさらにシワクシャにして、怒鳴り出す。
「――うるさいわね! 分かってるわ!」
サリサは振り返りそう言うと、再び私に顔を向ける。
「しばらく別の部屋で待っててくれるかしら? 会議が終わってから話しましょう。じゃあ、あなた。客室まで案内してあげて」
サリサは近くにいたメイドに声をかける。
メイドは深く腰を折ると、私達に向かって笑顔で話しかける。
「ではご案内いたします」




