250、私にできること
案内された部屋は、とても広く、豪華な飾りで彩られていた。
そんな部屋で、メイドの入れてくれた紅茶がいい香りを放っている。
目の前には豪華な食器に、カラフルなお菓子が積み上げられている。
「リーリアはお菓子が大好きだよな」
アナスタシアがこれを食べろと、自分の前に置いてあったものを差し出してくれた。
……だけど、私は手が伸びなかった。
私はさっきからずっと、サリサの放った一言が気になって仕方なかったからだ。
『お父さんが記憶を取り戻した』
頭の中をその言葉が反芻している。
そのせいか私の心は、ここではないどこかに、引きずられていた。
――――
――
「――――――――でさぁ、あの島は修行にはもってこいだったけど、食べ物は本当に苦労したよねぇ……」
「そうね……甘いものが一切ないから、頻繁にフォレストエッジでまで買い出しに言ったわよね」
シャロに続きナルリースはそう言いながら、ものすごいスピードでお菓子を平らげていた。
「……………………ナルリース、お前食べ過ぎじゃないか?」
アナスタシアの指摘に、ナルリースはリスのような口をしながら、「うっ」と気まずそうに顔を背けた。
シャロはそれを見て笑いながら言う。
「あはは、アナちゃん。ナルリースはベーさんの前だけ、お上品に食べてたんだよー。これが本来のナルリースなんだぁ」
「ちょっとシャロ!」
お菓子をようやく飲み込んだのか、ナルリースは顔を真っ赤にしながら怒る。
「ふむ、そうだったのか……しかし、ベアルはそんなことでは嫌いにはならないのではないか?」
「そ、それは分かってるのよ……でも、可愛く見られたかったし……」
そう言いながらもナルリースは次のお菓子に手を伸ばす。
「あんまり食べるすぎると、次にベアルに会う時にはブクブクに太ってしまうぞ」
アナスタシアは優雅に紅茶を飲みながらそう言った。
「う…………確かに……リーリア、これ……食べる?」
「……うん」
引き攣った笑顔で、お菓子を渡してきたナルリース。
それを私は、無意識に受け取っていた。
「リーリアは成長期だからな。どんどん食べて大きくなりなさい」
「…………うん」
そこで会話は途切れてしまっていた。
私はそこでハッと気付いた。
みんなが私を見て心配そうな顔をしている。
「……ごめん」
なんだか申し訳なくなり素直に謝った。
「いやいやぁ、謝ることなんでないんだよー」
「そうね。気にしなくていいのよ」
シャロとナルリースがフォローするが、私はさらに申し訳なくなってしまった。
すると、アナスタシアが私の口にカラフルなお菓子を押し付ける。
「リーリア、ベアルに教わらなかったか?
こういう時こそ、いつも通りリラックスだ」
ぐぐぐと、お菓子を押し込むアナスタシア。
私は観念して口を開け、そのお菓子をひと噛みする。
(甘い……)
とても美味しくて、残りもそのまま口に含む。
「うおっ、私の指も食べるつもりか!」
アナスタシアは慌てて指を引っ込めた。
「うん、お姉ちゃんの指、タコさんウインナーみたいで美味しそうだなって」
「お、おいっ! この華麗で細い指をあんなものと一緒にするな」
「ふふっ、ごめんなさい」
私も、シャロも、ナルリースも、一斉に笑い出す。
「お、お前らな……ったく……」
「あはははは!」
なぜかツボに入ってしまった私は、しばらく笑い続けるのだった。
――
「ごめんなさい――待ったかしら?」
勢いよく扉を開き入ってきたのはサリサだった。
あれから数刻が経っていた。
「ああ、待ったが問題はないぞ」
アナスタシアがすぐに返答する。
皆もそれに続き頷いた。
「本当にバタバタしちゃってて、実はすぐに戻らなくてはいけなくて……時間があまり取れないの」
サリサは肩から息をしていて、本当に忙しそうだった。
「戦争だから?」
私がそういうと、サリサは、「そうね」と頷いた。
「ベアルのことを聞きたいんでしょうけど、今は腰を据えて話している時間はないの……それと、ここはすぐに戦場になるわ」
サリサの顔は真剣だ。
言葉にしなくても分かるでしょう、という圧を感じる。
でも私は、だからこそ、サリサの手伝いを申し出ようとしたが――
「私もサリサの手伝――」
「――いらないわ!」
一瞬、場が凍ったようだった。
私の言葉を遮り、怒鳴るようにしてサリサが言ったのだ。
その眼は魔王の瞳であった。
口出し無用とばかりに、圧を放っている。
しかし私は引かない。
「ううん、私もサリサと家族だもん!
だからなにか手伝いたいよ」
必死に訴えるが、
「いらないわ……それにあなたを戦争に加担させたら、ベアルに申し訳がたたないもの」
サリサは少しだけ寂しい顔を見せるが、すぐに真剣な顔になった。
でも、私も引くつもりはなかった。
ここで引いたら、また……私は置いていかれちゃう。
「ううん、だからこそ手伝いたいの!
ここで黙って、言うことを聞くだけじゃ、
お父さんを追いかける事なんてできないもん!」
サリサと視線が交差する。
ものすごい威圧だ。
でも負けるわけにはいかない。
――私はお父さんに絶対に会うんだ!
「…………本気……なのね」
「……うん」
サリサは視線を落とすと、はぁ、と一つため息をつく。
「…………分かったわ。
あなたにしか出来ないことをしてもらおうかしら」




