247、やっぱりお父さん
パンを食べた瞬間、あまりの美味しさに涙を流した。
咀嚼するたび、体が嬉しそうに声を上げる。
「一週間も食べてなかったんだぞ」
アナスタシアは悲しそうにそう言った。
それを皮切りに、本当に心配したと散々説教をされた。
それがなんだか嬉しくて、思わず笑みを浮かべたら、抱きしめてくれた。
――温かい。
こんな素敵なお姉ちゃんを、悲しませたらダメだなって反省した。
もちろん、ナルリースやシャロも心配していた。
2人にごめんって謝ったら、「家族なんだから当たり前でしょ」って言われた。
心がきゅっとして、
何だか温かくなった。
……それと同時に、私は自分のことしか考えてなかったんだなって思った。
他のみんなも、私と同じように、置いて行かれたのに。
…………私も大人にならないといけないな。
パチンと頬を叩く。
うん…………少し前向きになれた。
そのおかげか、お父さんがいなくなったあの日。
あの部屋で何があったのか聞くことができた。
――――――
――――
―――
「すまない、みんな」
ベアルはそう言うと振り返った。
誰もが何も言えなかった。
振り返ったその顔は……
――――怯えているの?
「今から転移する」
「なっ! リーリアはどうするの!?」
誰かがそう言ったが、ベアルは聞く耳を持たなかった。
「ナルリース……シャロ……お前たちは元気な子を産んでくれ」
そう言って一泊おいたあと、
「リーリアのことを頼む」
「えっ! 待ってくださ――」
ナルリースは手を伸ばす。
――しかし、次の瞬間。
2人を残して消えてしまった。
――
――――
――――――
(なにそれ……)
意味がわからない。
私の胸の奥がぐっと熱くなる。
――ナルリースの話はすぐに終わった。
それもそうだ。
一瞬の出来事だったから。
「なんか普段と雰囲気違ったよねー」
シャロはいつもと変わらない、のんびりとした口調で言う。
「そうね……切羽詰まったような……それでいて、泣きそうな顔をしていたわ」
顔に手を当て、ナルリースがそう言った。
「どっちでもいい! 私は見損なったぞ!」
アナスタシアはプンプンと怒っている。
私はその様子を見て、少しだけ落ち着いた。
そして冷静になって考える。
(お父さんは、杖を触ってからおかしくなった……それにあの人はセクトって言ってた。それって……)
私はアナスタシアの袖をちょいちょいと引っ張った。
「……ん? どうしたリーリア」
「ねえ、セクトって人のことだけど……」
そういうと、ナルリースとシャロも関心を持ったようで、顔を乗り出してくる。
「あ、僕も気になってたんだ。アナちゃん大袈裟に膝ついてたけどあれって本当なのー?」
法力がどうとか言ってたやつだ。
「おい! セクト様と呼べ! …………あの時は本当に力が失われたんだ――こう、まるで脱力するかのように……」
「じゃあ本物の神様ってこと?」
「…………間違いないだろう」
(だとしたら…………そんな人がお父さんを……父上って……)
他のみんなも同じ考えに至ったのだろう。
同じように難しい顔をしていた。
「じゃああの杖はなんだったのかな?」
私は疑問をそのまま口にした。
「わからないな。でも、あれを触れてからあいつはおかしくなった」
「託された物を……返すっていってたわね」
「うん……返すってことは、もともとお父さんが持ってたってことだよね?」
「そ、それって……つまり…………ベーさんってやっぱり……」
私達は互いの顔を見る。
そして静寂が場を支配する。
お父さんは…………
――――本物の神様ってこと?
みんなこの一言をいえずに飲み込んだ。
シャロはぼーっとしながら、お腹をさすっていた。
ナルリースは複雑そうな顔だった。
アナスタシアは…………やっぱり怒ってる。
三者三様の顔を見て私は思った。
――やっぱり納得いかない。
そうだったとしても……いや、違う。
私は確信を持った。
「みんな」
声を出すと、みんなが私を見る。
その顔は笑っていない。
だからこそ私は、
あえて笑ってこう言った。
「――――逃げたからこそ、お父さんだよ!」
皆の顔が一瞬ぽかーんとする。
でも次の瞬間、その言葉を理解したのか、一斉に笑い出す。
「ははは! 確かにそうかもな!」
「ベアルさんならあり得るわね」
「そうだねぇ……リーちゃんから逃げたね。あれは」
アナスタシアが豪快に笑い、
ナルリースが困った顔をし、
シャロがニヤニヤとイタズラな顔をする。
――そして私は、
「絶対にお父さんを捕まえる!
そして説教する!
私がいないとダメなんだって、
ちゃんと教えないと!」
皆、静かに頷いた。
「お父さんを追おう!」
私は高らかに宣言する。
「そのためにもサリサに会って痕跡をたどらないと!」




