246、絶望
「…………う……ん……」
ぼんやりとした光が、目に入りこむ。
これは街の明かりだろうか。
私はゆっくりと体を起こそうとした。
……体がだるい。
全然動かなかった。
……いや、体が動くのを拒否している。
理由は分かっていた。
――お父さんがいなくなった。
そう考えるだけで、体が一層重くなる。
それどころか、目眩もしてくる。
体が宙に浮いているような間隔。
自分を俯瞰できるんじゃないかって、思えるほど意識が登っていく。
そんな時、部屋のドアが開いた。
「――っ! リーリア! 気付いたのかっ!」
お姉ちゃんのアナスタシアだ。
嬉しそうに顔をほころばせると、寝転んでいる私に、覆い被さるように抱きついてきた。
「…………うん」
返事をするのが億劫だった。
私の薄い反応にアナスタシアは心配そうに覗き込んできた。
「丸一日気を失ってたんだぞ……私は本当に心配したんだ」
丸一日……
あれからまだ丸一日しか経ってないんだ。
私は姉から顔を背け、顔を横に向ける。
窓の外は夜だ。
そしてお父さんのいない夜。
頭が少し働いてきたのか、実感がわいてくる。
本当に…………お父さんはいなくなったんだ。
私の目には涙が溢れてきた。
涙が頬を伝い、枕を濡らす。
一度流れ出したら止まらなかった。
すると、頬を優しい手が触れた。
「リーリア……泣かないで。私が絶対にあいつを見つけてみせるから」
アナスタシアは涙を拭うと、優しく微笑む。
「本当?」
「ああ、本当だ」
「…………うん、わかった」
ぐすんと鼻を鳴らし、泣き止もうとしたが、悲しみは止まらなかった。
「今はゆっくり休みなさい。今、私たちが情報を仕入れているから」
アナスタシアはそう言いながら、何度も私の頭を撫でてくれていた。
温かい手の感覚が伝わる。
とても気持ちよかった。
私はその温かさを感じながら、再び眠りについたのだった。
――
――――
次に起きたのは朝だった。
私はまだ起き上がれないでいる。
まるで、ネジの切れた人形のように、全く動かせない。
脳も悲しみと絶望だけが支配していた。
なんで私を置いていったの?
もう、いらない子なのかな?
嫌いになっちゃったのかな?
……そんな考えばかりが脳を支配する。
脳が闇に支配されそうになった時、再びドアが開け放たれた。
「リーリア……起きていたか」
私は返事をしない。
もうどうでもよかった。
私はずっと天井を見続けていた。
「……リーリア、お姉ちゃんと話してくれないのか?」
私を覗き込むアナスタシア。
私は焦点の合わない目でぼーっと見続けた。
「すまない……まだ、あいつの情報はないんだ。どうやら転移したようだ。この街には戻ってきてないのかも知れない」
私の眉間がぴくりと動く。
私、邪魔だったのかな。
だから、消えちゃったのかな。
………………もういいや。
私は考えたくなくて、目を閉じる。
もう、何も見たくない。
何も聞きたくない。
何も…………
私はまた、意識を飛ばすのだった。
――――
――――――
――――――――
あれからどれくらいが経ったかな。
もう、お腹と背中がくっつきそう。
……そういえば何も食べてなかった。
でも面倒くさいからいいや。
それにもう生きてなくていいかな。
世界とかカオスとか、もう何だっていい。
……疲れちゃった。
なんだかフワフワしてきた。
また寝よう。
――
――――
「――――――リア!!!」
体が揺らされる。
ゆっくり寝たいのに。
「――――きろ! ――――リア!!」
…………ものすごい揺れだ。
いい加減にしてほしい。
私は寝てるのに。
仕方がないから目を開ける。
「――ろ! ――――っ!」
アナスタシアがお椀を持って何か言ってる。
スプーンを私の口に無理やり突っ込もうとしていた。
………………本当にうるさい。
放っておいてほしいのに。
私は断固として口を開かなかった。
でもアナスタシアは強情だった。
「――――ない――――けるんだ!」
両手で私の口を強引に開くと、隣にいたナルリースがスプーンを口に突っ込んだ。
生暖かい液体が口に流れ込む。
私は吐き出そうとしたが、アナスタシアが無理やり口を閉ざす。
………………苦しい。
仕方がないので液体を喉に流し込んだ。
――――――え。
液体が私の体を駆け巡る。
……なにこれ。
水分を失った体に、一瞬にして液体が体と同化する。
そして、体がそれを喜んでいるのが分かった。
――――う、く…………
私は涙を流した。
………………食べ物ってこんなに
…………温かくて
……美味しかったんだ。
再びスプーンが口に近づけられる。
今度は拒否せず、それを受け入れた。
――――
私はアナスタシアに撫でられている。
一通り泣き終わった後。
疲れちゃったので寝ようとしたら、アナスタシアが膝枕をしてくれた。
私はうとうととしながらアナスタシアの話を聞いている。
「そろそろ戦争が起こるようだ。サリサは魔王だから自分の城に帰ったはずだ。だから私たちはサリサの元に行こうと思う」
そう言った後、アナスタシアは私の目を見てこう言った。
「リーリア…………一緒にいくぞ」
私は……ゆっくりと……頷いた。




