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第九話 言ってることは正しい

 酒場のすぐ脇には少し開けた土地がある。


 生やしたときに、ついでにならしておいた場所だ。


 俺は店から訓練用の剣を二本持ち出し、一本をリナへ放った。


「応募者が来るまで、お前を鍛えるぞ」


「今からですか!?」


「今からだ」


「今日、包帯取れたばかりなんですけど!」


「リハビリ代わりだ」


 暇だからだ、とは言わなかった。


「よし、構えろ」


「……はい」


 リナが剣を構える。


 正直に言って、下手だ。


 握りが固い。

 肩に力が入りすぎている。

 足の幅が広すぎる。


 だが、目だけはこちらを観察している。


「来い」


「行きます!」


 打ち合った。


 一合。二合。三合。


 リナの剣は軽い。

 俺の剣を弾き返せない。


 だからリナは、

 

 避ける。


 俺の剣が戻る前に、

 

 打ち込む。


 まったく届いてないが、方針としては悪くない。


「筋はいいな」


「本当ですか!?」


「筋だけだがな」


「そこで褒め終わらないでください!」


「リナ。これから毎日、素振りをしておけ」


「はい!」


 十合目に入ろうとしたときだった。


「今の踏み込み、いい」


 知らない声がした。

 

 振り向くと、空地の入口に若い男が一人。


 いつからいたのかは、分からない。


 歳はリナと同じほどか。

 黒の短髪。

 腰には剣を帯びている。手入れは行き届いているようだ。


 ――打ち合いを、途中から見ていたのか。


「……あの、私にですか?」


 リナが自分を指す。


「踏み込みがいい、って」


「他に誰がいる」


 男が空地へ入ってきた。


「いいとは言ったが、負けている」


「負けて……ますね、はい」


「そうではない。打つ前に負けている」


「打つ前?」


「打つ直前、お前の右のかかとが浮いた」


「え?」


「かかとが浮けば、重心が前に出る。体が動けば、剣がどこへ来るかは決まる」


 男は自分の右足を軽く上げてみせた。


「剣の勝負は、刃が触れるより前に半分は決まる」


 正しい。

 まったく正しい。


 俺も途中で気づいていた。

 リナは打ち込む直前、かかとが浮く。

 これでは流される。

 

 だが……

 傍から打ち合いを見ただけで言い当てるとは。


「そこまで分かるんですか?」


 リナが剣を下げた。


「ああ。分かる」


「すごい……」


 リナの顔が、はっきり明るくなった。


「あの、直せますか? その、かかと」


「直せる」


 即答だった。


 この男は、自分の言葉を一言も疑っていない。


「ところで」


 男が俺のほうを向いた。


「ここでいいのか?」


「何がだ」


「募集の板だ。街の掲示板に貼ってあった」


 ――来た。


 応募者、第一号。


「剣士を必要としているそうだな」


 男は剣の柄へ手を置いて名乗った。


「ライア。剣士だ」


「来た! ナラックさん、来ましたよ! 人です!」


 リナが剣を落としそうな勢いで駆け寄った。


「人だなんて言われなくてもわかる」


「だって誰も、何も、来なかったじゃないですか!」


「……それは言うな」


「しかもすごく剣に詳しいです!」


「そう、みたいだな」


「よかったあ……」


 リナが心底ほっとした顔をしている。


 その顔が終わるのを待って、俺はライアを見た。

 正確にはライアの力量を見た。


 筋力。敏捷性。器用さ。特性。


 ――ん?


 見間違えたかと思い、もう一度見た。


 筋力――リナより下。

 敏捷性――リナより下。

 器用さ――ここだけ高い。

 

 剣技特性――平均以下。


 こいつの言ってることは正しい。

 言ってることだけ、は。


 俺はしばらく黙っていた。


 追い返すという手はある。


 だが応募者は一人しかいない。

 ここで帰せば、また空席を眺める日々。

 二度とごめんだ。


 それに剣の理を知っているのは、それだけで価値があるはずだ。

 

 たぶん。


 まあ、実際に見てから判断しても遅くはない。


「ライア」


「なんだ」


「一本やってみろ」


「誰と」


 俺は顎で示した。


「そこの娘とだ」


「えっ!?」


 リナが固まった。


「私ですか!? 無理ですよ、ライアさんには!」


「無理かどうかは、やってから言え」


「だって、あんなに剣に詳しいんですよ!?」


「詳しいな」


 そこは俺も認める。


「いいだろう」


 ライアが剣を抜いた。


「剣士が腕を試されるのは当然のことだ」

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