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第八話 剣士募集中、破格の条件です

 翌朝。


 俺はカウンターで、昨日のことを思い返していた。

 

「剣士が必要だ」と、リナに言った。

 言葉というのは厄介だ。

 言っただけで、やった気になることがある。


 リナは傷が治るまで動けない。

 知り合いもいない。

 剣士はスライムのようには湧いてこない。


「……よし」


 俺は決めた。


 募集する。


 考えてみれば、当たり前の手順だ。

 冒険者は、依頼を見て動く生き物である。

 ならば、こちらから条件を掲げればいい。


 街には掲示板があると聞く。

 使い魔を出せば貼りに行ける。


 あとは中身。


 俺は木の板を用意した。

 その辺の木ではない。俺の一部を削り出したものだ。

 つまり、この板も俺。

 俺が、俺に、俺への挑戦者を募集する依頼を書く。


 考えていたら、おかしくなってきたので、やめた。


「さて。何を書く」


『剣士募集』


 うん。


 ……いや。


 これでは足りん。

 どこへ行くのか、何をするのかが書いてない。


 書き足す。


『挑戦先、《奈落の千層迷宮》』


 よし。


 次に同行者だ。


 パーティーを組む以上、誰と組むのかは書かねばならない。


『同行者一名』


 ここで俺は少し手を止めた。


 リナをどう書くか。

 

 二か月でパーティーから追放。

 弱い。


 これは書けない。

 

 第一階層突破。


 これは堂々と書ける。

 

 だが、それだけだ。

 千層のうち、一層。

 割合にすると、〇・一パーセント。


「……」


『同行者一名。実績、ほぼなし』


 これでよし、と。


 次。


 どんな者を求めるのかを書く。


 弱い剣士に来られても困る。

 第二階層からは、そういう場所ではない。


『腕に自信のある者、求む』


 最後に報酬。

 

 これが一番難しい。

 リナは冒険者に払える金を持ってない。


 だが俺の中には宝物庫が五百とある。


 持っていけばいい。


 自力で。


『報酬は、迷宮内で得た物のみ』

 

 取り分を制限しないのだから、破格の条件だ。


 俺は板を持ち上げ、最初から読み返した。


『剣士募集』

『挑戦先、《奈落の千層迷宮》』

『同行者一名。実績、ほぼなし』

『腕に自信のある者、求む』

『報酬は、迷宮内で得た物のみ』


 しばらく眺めた。


 誇張なし。虚偽なし。条件は明確。


 完璧。

 我ながら、ほれぼれする出来だ。


 俺は使い魔を呼んで、「街の掲示板に貼ってこい」と、板を渡した。


「よし」


 仕事は終わった。


 この条件なら、我こそはという者が必ず来る。

 むしろ、来すぎるかもしれない。

 ……酒場の席が足りるだろうか。


 俺は椅子を三脚、余分に生やしておいた。


    ◇


 一日目。


 応募者、ゼロ。


 扉が開いたのは一度だけだった。


「ナラックさん。こんにちは」


 リナだった。


 右腕を布で吊っている。

 包帯は三本。

 表情は明るいが痛々しかった。


 俺は昨日と同じスープを出してやった。


 二日目。


 応募者、ゼロ。

 リナの包帯は二本。


 三日目。


 ゼロ。

 包帯、一本。


 リナはうちの扉を、右の手で開けられるようになっていた。


 その帰りぎわ。


「そういえば、ナラックさん」


「なんだ」


「仲間って、私が探すんですよね?」


 まだ言ってなかった。


「その必要はない」


「えっ」


 俺は酒場のメニュー用の紙を出して、募集条件を書き上げた。

 

「これと同じ内容を、街の掲示板に貼った」

 

 紙をリナの前へ置く。


「もう!?」


 リナがそれを手に取った。


「ありがとうございます!」


 目を落とす。


 止まった。


「……」


 顔を上げない。


「あの……」


「なんだ」


「これ……来ますかね?」


「腕に自信のある者は、必ず来る」


「そう、ですよね」


 リナはまだ見ている。


「あの……」


「まだあるのか」


「何でもありません」


 リナは紙を置くと、なぜか何も言わず帰った。


    ◇


 それから数日。


 応募者、ゼロ。


 ゼロ。


 ゼロ。


 ――なぜ来ない。


 条件は明確。

 挑戦先も、同行者も、求める腕前も、報酬も、隠さず並べた。


 俺は考える。


 最近の若者は根性がないのか。


「……」


 いや、待て。

 

 今、俺は何を思った?

 ガルドと同じことを考えなかったか?


 違う。


 あれは責任転嫁だ。

 俺のは分析だ。

 

 全然違う。


 その日の昼下がり、俺はカウンターの中で席を見ていた。

 全部空いている。

 

 誰も来ない入口。

 鳴らない鐘。


 これに似た光景を、俺は知っている。


 また戻るのか……


 そのとき、扉が開いた。


「ナラックさん!」


 リナが両腕を上げてみせた。


「包帯、取れました!」


 布もない。吊ってもない。肩も回る。


 完治だ。


 この数日で進んだのは、それだけだった。


 応募者、ゼロ。

 リナの傷、完治。


 そして俺は思い出す。

 待っていても、何も来ない。

 ならば、来るまでの間にできることをやる。


「リナ」


「はい」


「剣を持て」


「え?」


「外へ出ろ」

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