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第十二話 ダンジョンには宝物庫がある、一般的に

 三日後。

 リナとライアは一緒に、《奈落亭》へ来た。


「ナラックさん」


 リナが切り出してきた。


「あの。相談があるんですけど」


「なんだ?」


「ライアさんの報酬のことです」


 ライアは淡々とチーズをかじっている。

 話を聞いてる様子はない。


「募集に書いてましたよね。『報酬は、迷宮内で得た物のみ』って」


 書いた。

 取り分を制限しない、破格の条件。


「それがどうした?」


「ライアさん。まだ何ももらってません」


「ダンジョンに入ってないしな」


「はい」


 リナが手元へ目を落とした。


「私が誘ったみたいなものなので……」


 そこで止まった。


 申し訳ないと思っているのだろう。


 だが、簡単に解決できる。

 俺の中には宝物庫が五百ほどある。

 一つくらい、持っていかせればいい。


 たしか、第二階層に手ごろなのがあった。

 金貨、銀貨、宝石、武具。

 新人冒険者二人には十分すぎるほどだろう。


 そこまで考えて、俺は気づいた。


 あれは隠し部屋だ。


 作ってから誰にも見つかってない。

 俺が言わなければ、この先も見つかることはないだろう。


 教えるしかないのか。

 俺が。

 自分の中の、隠し場所を。


 言いたくない。


「第二階層に、宝物庫があるらしい」


 言った。


「え? 何で知ってるんですか?」


「一般論ってやつだ」


「一般論?」


「ダンジョンには宝物庫があるだろ。一般的に」


「へえ。そうなんですね」


 リナが笑顔を見せる。


 よし。

 怪しまれてない。


「それで、どこにあるんですか?」


 そこまで言えるか。

 隠し部屋だぞ。


「回廊を下りて、三つ目の角を右だ。壁に見えるが、壁ではない」


 言ってしまった。

 何をやってるんだ、俺は。


「それも一般論なんですか?」


「いや、客から聞いた」


「お客さん、来てました?」


「俺はここの店主だぞ」


「はい」


「酒場をやっていれば、そういう話はよく耳に入ってくる」


「いつ頃の話ですか?」


「細かいことを気にするな」


 ――しまった。怪しまれたか。


「ナラックさんって……」


 来る。


「ダンジョンのこと、本当に好きなんですね」


 リナはほほえんだ。


 いや。

 好きも何も、俺がダンジョンだ。


 だが、そうだな。

 あながち間違ってもいない。

 好きということにしておこう。


 それまで黙っていたライアが、チーズを置いた。


「報酬なんか必要ない」


 ――なに?


「剣士として、金で雇われるつもりは毛頭ない」


 俺はたった今、五百のうちの一つを差し出した。

 あっさりと、「いらん」と言われてしまった。


 でも、俺は知っている。

 こいつには品を変えるのがよく効く。


「宝物庫の壁には、名剣が掛かってるそうだぞ」


 椅子が、「ガタッ」と動いた。


「いつ出るんだ?」


「早いな。食いつくのが」


「どんな剣なんだ?」


「見なければ分からん」


「名のある剣か?」


「見なければ分からんって」


「銘は?」


「見なければ分からんと言っている」


 同じ答えを三度出した。

 

 剣となると、身を乗り出してくる。

 わかりやすいやつだ。


「ダンジョンへ行くぞ。リナ」


 ライアはすぐにでも、発つつもりだ。


「えっ? あ、はい」


 返事にとまどいと、少しの間があった。


 俺はリナを見る。

 視線が下を向いている。


「どうした? 浮かない顔だな、気が変わったか?」


「いえ、その……前に行ったときのことを思い出して、あの毒沼を歩くのかなって」


「ん? 踏破門で第二階層へ行けるぞ」


 階層の攻略が認められると、出口の門が踏破門として残る。


「私が帰ってきた、あの門ですか?」


「そうだ。どの階層も出口の近くに同じ門がある。攻略者がいれば、同行者も通れる」


 リナが顔を上げた。


「じゃあ、毒沼は通らなくていいんですね!」


 俺は首を縦に振る。


「守護者がいない階層は、行って通るだけだ。いるなら、倒すか認めさせるかだな」


「認められて通れば、門は残る。次からは、そこまですぐだ」


「はい。ありがとうございます。ナラックさんって本当に――」


「言っておくが、これはダンジョン挑戦者なら、誰でも知ってる」


「まだ何も言ってませんよ?」


「……で、いつ行くんだ?」


「もちろん。今すぐにです!」


 二人は駆けるように、酒場を出て行った。


 本日の侵入者、二名。


 俺は千年、難易度を下げたことがない。

 今日も下げていない。


 だが、隠し部屋の場所を教えた。


 どちらも、よくある世間話だ。


 そういうことにしておく。

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