第十一話 剣の腕に、自信はありますか
「見ての通り、俺は剣士だ」
その言葉に従って、俺はライアを見た。
背は高くない。腕も細い。
リナ相手に、二合で打ち負ける。
その背後には、炭化した薪。
周りの木が、黒いまま立っている。
見ての通り、と言われても困る。
見ての通りのものが、ここには二つある。
リナはまだ二つ目のほうを見て、動けないでいた。
このまま二つ目を逃したくない。
どうするべきか、俺は考える。
断られたのは、「魔術師」という言葉だ。
中身ではない。
こいつはまだ、剣士としての応募を取り下げてない。
ならば話は簡単。
言葉を変えてしまえばいい。
「ライア。こっちに来てくれ」
「なんだ」
「すまん。言い方が悪かった」
中身は決まっている。あとは、どう書くかだ。
募集の文面を考えていたときの気分が蘇ってきた。
まずはこれだ。
「お前を炎剣流の剣士として採用する」
静かになった。
「いや、そんな流派はない」
当然だ。
今、俺が作った。
「あるかもしれないぞ?」
「いや、ない」
「今日からある」
「ない」
三回言われた。
「ではこうしよう……魔法も使える剣士。これでどうだ?」
「剣士に、ただし書きはいらん」
――面倒くさいやつめ。
だが言い換えは、俺の得意技だ。
湿った薪は特別な薪になり、余り物は試作品になる。
語を足すか、足さずに言い換えるか。
どちらかで、たいていのものは通るのだ。
たぶん。
「よし、名前の話はやめる」
「そうしてくれ」
「位置の話をしよう」
「位置?」
「お前は後ろに――」
「断る」
「まだ言ってないぞ」
「剣士が後ろにいて、どうする」
俺は想像してみた。
こいつが前に出るとして、では後ろには誰がいるのか。
リナだ。
剣士の自分が前に出て、リナを後ろに置く。
一見すると、こいつの筋は通っている。
腕が伴っていればの話だが。
千年、俺は冒険者パーティーというものを見てきた。
前に出るのが剣士。
後ろから撃つのが魔術師。
例外はいた。
だが例外にも、どちらかへ寄ってるかはあった。
こいつはどちらでもない。
剣士として置けば、素人相手に二合で剣を落とす。
魔術師として置けば、名前を拒んで動かない。
前でもなく、後ろでもなく、名前もない。
俺は頭を抱えた。
幸いにも、今日は頭がある。
「……」
あっても、どうにもならなかった。
――今日は帰ってもらおう。
「ライア。今日はもう遅い」
「まだ昼間のようだが」
「うちは昼に閉めるんだ。今日の営業は済んだ」
「客に料理を振舞うんじゃないのか?」
「これから他の応募者が来るかもしれん」
「いままで何人来たんだ?」
「……」
「何人だ?」
「細かいことはいい」
駄目だ。
どの口実も一言で潰される。
どう切り出す?
考えていると、
「あの、ライアさん」
リナだった。
いつのまにか、こちらに来ていたようだ。
「……さっきの火、本当にすごかったです」
「薪に火をつけただけだ」
リナは振り返って黒い木を見たが、何も言わなかった。
「あの、ひとつだけ聞いてもいいですか?」
「なんだ」
リナが背筋を伸ばした。
声が、妙にあらたまっている。
「ライアさんは、剣の腕に自信はありますか?」
こら。
それは聞くな。
「ある」
即答。
迷いも、謙遜も、何ひとつなかった。
「よかったぁ」
リナが小さく息をついた。
「ナラックさん。ちゃんと合ってますよね?」
「何がだ」
こいつは何を言っている?
「剣士募集の条件ですよ。たしか、腕に自信のある者求む、でしたよね?」
ん?
実力と書いてなかったか?
いや。
書いてない。
自信と書いた。
俺が。
あれは文面も、俺が考えた。
誇張なし。虚偽なし。条件は明確。
完璧。
我ながら、ほれぼれする出来だ。
などと自画自賛した上で、
たしかリナには、こう言った。
――腕に自信のある者は、必ず来る。
来るには来た。
自信”だけ”は、あるやつが。
「挑戦先、《奈落の千層迷宮》。同行者一名、実績、ほぼなし。報酬は迷宮内で得た物のみ」
リナが指を折りながら並べていく。
「実績、ほぼなし。は私です」
軽い調子だった。
「あの板の評価は間違っている」
ライアだった。
「俺を二合で破った者が、実績ほぼなしのわけがない」
リナが黙った。
俺も黙った。
「え? ありがとうございます」
「礼を言われることではない。事実だ」
こいつの評価だと、たいていの人間が剣聖になる。
「さて、店主よ」
ライアが俺のほうを向いた。
「剣士募集。腕に自信のある者、求む。だったな」
「……ああ、そう書いた」
「俺は剣士だ。腕に自信もある。足りないものがあるか?」
――ある。
――腕が足りない。
だが、書いてない。
条件は満たされている。
文句のつけようがない。
俺は常々、罠を仕掛ける側だと思っていた。
それが自分で書いた一行に、まんまとはまった。
「……採用だ。剣士としてな」
ライアはうなずいた。
当然のことが当然に起きた、という顔だった。
「ナラックさん!」
リナが跳ねた。
「決まりましたね! 仲間、できましたね!」
「……採用しただけだ」
「同じじゃないですか!」
何も言えなかった。
俺は情報を整理する。
今回の仲間募集の結果はこうだ。
応募者。一名。
採用。リナより弱い剣士、一名。
生やした椅子。三脚。
「……」
心の中で、次の板を書き直しておいた。
『腕が立つ者、求む』
次からはこう書く。絶対に。
これなら、間違えようがない。
「よろしくお願いします。ライアさん」
「ああ。よろしく頼む」
二人が並んでいる。
俺はあらためて考えてみる。
戦いの中で答えを見つける娘、俺の千年でも指折りの火力を持つ娘。
見つける者と、焼き払う者。
組み合わせとしては悪くはない。
いや、悪くはないどころか、
ほぼ最適だ。
難があるとすれば、火力担当が前へ出たがる上に、火力を武器にしたがらないこと。
だが、俺は千年の間、魔物や罠を配置してきた。
冒険者パーティーの配置くらい、どうにでもなるはずだ。
たぶん。
この二人が俺の中へ入ってきて、何が起きるのだろう。
俺にはまだ分からない。




