第16話 剣聖と狼と姫様
我は…いや俺は『シルバ』。
ローダムの剣聖『シルバ』。
それ以上でもなければ、それ以下でもない。
だが、その名こそが俺を証明する名であり、愛するゴルドラ姫の隣で入れる名前なのだ。
昔は親も居ず、魔力もなく、何にもなかった俺だが…フラッシュを保護するだけの力はあった。鴉の群れに襲われ、殺されかけた狼を持っていた木の棒で守ったのはいい思い出だ。
それから剣の才を見つけ、腕を上げた、
たとえ相手が魔法使いでも負けぬほどに強くなり、俺が成長すると同時にフラッシュも成長していった。ただの小さな狼が魔の狼ともいえる『フェンリル』になり、今では俺の愛狼となった。
その背に乗り、ローダムに仇なす者たちを俺が斬り刻み、フラッシュが嚙み千切ってきた。
そうあるうちに、俺はローダム国の姫君であるゴルドラ・バエル姫に惚れてしまった。
その時はただの騎士だった俺にとって、そんな地位の姫様に思いを伝えることはできなかったが、気持ちを隠すこともできなかった。
まず、俺は名を轟かせた。ただひたすらに強くなり、ただひたすらに敵を狩った。
その結果…百戦錬磨ともいえる戦歴、最前線でありながらも無敗の常勝。
故に…ローダムの守るべき民たちは俺を『剣聖シルバ』と呼ぶようになった。
嬉しかった。
何もなかった俺なのに、愛狼と共に戦場を駆け抜け、勝ってきたからこその名前。
ただ、とにかくうれしかった。
それだけではなく、ゴルドラ・バエル姫様が俺にお会いしたいともお誘いを受けた。
あの時が…俺の人生の最絶頂とも言える。
やはり、この目で見てもゴルドラ姫様の美貌はすさまじかった。
それからある程度、ゴルドラ姫様と俺の話やフラッシュの話をしているうちに…国王様に認められ、ゴルドラ姫様の側近と成れた。
剣聖に成れたからこその、地位だと思った。
だが、本来は違った。国王様はゴルドラ姫様の事を第一に考える。故にゴルドラ姫様に対して生半可な婚姻は認めなかったが、俺だけは違った。
姫様も…俺の事が好きだったのだ。
だからこそ、側近に任命した…けどそれを知れたのは、あの洞窟の中だったがな。
「シルバ!起きて、シルバ!!」
「アオォォォン…!」
敵国『スノーフォール』に攫われたゴルドラ姫様を救うことが出来たが、俺の身体は無事では済まなかった。
むしろ、スノーフォールからローダムまで耐えれた俺の身体が化け物だと思えるほどに。
けど、俺は…あの洞窟の中で息を引き取った。身体が耐え切れなかった。
一人か、それでも姫様を守れたからそれでも良かったと思っていたが…ゴルドラ姫様が俺を追ってきた。俺は想像以上に姫様に好かれていたらしい。
俺が居ない世界では生きていけないと豪語するほどに。
…そうして50年の時がたった。
『ここが…!』
『剣聖の墓場だ。おい、早く金目のものを探し出すぞ』
俺…いや我らの墓を荒らしに来た不届き者どもが現れた。
最初はどうでもよかったが、そいつらは亡骸であった我の肉体から…!
『おっ!これとか良さそうだ』
(止めろ…!)
『クソ…とれねぇな』
(それは姫様からの!)
ゴルドラ姫様から頂いた黄金のペンダントを無理やり盗ったのだ。
『ねぇ、シルバ』
『何でしょうか、姫様』
『その…私から貴方にプレゼントがあるの。良かったら受け取ってほしいわ』
『姫様から頂ける物でしたら、このシルバ…何でも嬉しいです』
今でも思い出せる。
あの大切なペンダントの事を…!
『アァァァ!!』
『なっ!?』
『オレノ…ペンダントオォォォォォォ!!』
気が付けば我は、あの眠り付いた洞窟の中で崩れそうな肉体を身に宿し、生き返った。
いや残留した俺の魂が怒りに燃え上り、鎧と依り代として現世に蘇った。
…あの時は不覚を取ったが、今は違う!
あのペンダントを持つ剣士が現れたのだ!今度こそ、取り返せるはず!
その…はずなのに。
「はぁぁっ!!」
『オォォォッ!!』
『…』
何なのだ…この違和感は!?
この剣士…魔術を使いこなし、何処から取り出しているのか分からない剣を使っている。
ただそれだけのはずなのに、妙な違和感だけが聖剣を握りしめる我の手に伝ってくる。
何なのだ、この剣士は。何なのだ、この青年は。
何かが真っすぐと伝わってくる。
(姫様…我は何をすれば…)
◇◇◇
「はぁっ…はぁっ…くっ!」
息が切れる。
呼吸が乱れる。
もう…どのくらい戦った?
中間試験のタイムリミットを見る為、懐中時計を取り出し確認する。
(あと…よ、48分!?)
2時間あるはずの中間試験のタイムリミットは残り1時間を切っていた。
本格的にまずいぞこれは…!
まるで突破口がない。いやそもそも弱点が見つからない!
フラッシュの弱点をシルバがかき消し、シルバの弱点をフラッシュがかき消している。
剣聖のコンビネーションはここまでの物なのか…!
てか、時間もそうだが…俺の身体は持たない!
魔力はまだあるが、体力がヤバい。
もういつ集中力が切れてもおかしくない。
(どうする…!)
息が途切れ途切れになりつつも魔剣を握りしめる。
『アォォォォンッ!』
(来た…!)
フラッシュが雄叫びを上げてこちらに向かってくる。
横に躱すか!?いや回避してもシルバが斬りかかってくるし、受け止めても同様だ!
…裁定剣でフラッシュを受け止めて、サラマンダーでシルバの攻撃を受け止めるしかない!
「ふぅっ!」
決意を胸に固めて、攻撃を防ごうとする。
次の瞬間
『行くな、フラッシュ!』
「!!」
シルバがそう叫び、フラッシュは突進をやめる。
やがて、シルバの元へとゆっくりと歩いて帰っていく。
(どういうことだ…何故攻撃をやめる?)
今の状態が理解できず、混乱するが今は息を整えることを最優先にし、呼吸を整える。
すると
『青年…何者だ、名を教えてくれ』
急に俺の名前を聞いてきた。
「ま、マガツだ」
『マガツ…良い名前だ。それと聞かせろ、お前は今、何のために我と戦っている?』
「なんの為もないし…正直、戦いたくない」
『何?』
俺は…今俺がするべき事を全部吐露する。
「俺は…アンタのペンダントを盗んだ奴らから依頼を受けてここに来た。だが、あくまで俺がするのはその盗んだ奴らを捕まえることだ。剣聖シルバとフラッシュと戦いに来たわけじゃない。そして…!」
俺は胸元のポケットの中に入っている黄金のペンダントを取り出す。
「これを…返したい」
『…!』
ペンダントのチェーンの部分を握りしめて、シルバに伸ばす。
すると、シルバは聖剣を鞘に納めてこちらに歩み寄ってくる。
そして
『感謝する、そして…すまなかったな』
シルバはペンダントを受け取り、謝罪した。
どうやら、信用されたみたいだ。
「ふぅっ…!」
安心しきったのか、俺の身体は一気に力が抜け、その場で座り込んでしまう。
剣聖シルバにフラッシュ…本当に強かった。
『まさか、盗人ではなく我の恩人だったとは。剣を向けてしまったことを再度、詫びさせてほしい』
「いいですよ…俺も、いい経験になりました」
『我は強かったか?』
「それはもう…」
言うまでもなく、本当に強かった。
願わくばもう二度と戦いたくない…!
『フラッシュよ、彼は敵ではない。牙を収めてくれ』
『ウルル…』
『フラッシュも済まなかったと言っている』
「大丈夫ですよ」
『…して、マガツとやら。お前は盗人を捕まえると言っておったが本当なのか?』
「本当ですよ。今の世界のローダムを守る人たちが剣聖の墓地を荒らした不届き物を捕まえるために色々していますから」
『それは、マガツもなのか?』
「そうですね。戦いの最中もいいましたが、俺は剣聖シルバの伝記が好きですから。そんな人の墓を荒らされるのは流石に」
『そうか…』
剣聖シルバは座り込んでいる俺の隣に座り、フラッシュもお座りの体勢を取って座り込んだ。
『しかし、捕まえるのはわかったが…また墓が荒らされる可能性があるぞ』
「…」
『もう、我はこの世で目覚めたくはない。この世ならざるものであるが、何よりもゴルドラ姫様と離れたくはない』
剣聖シルバの言い分はもっともだ。
この場所があり続ける限り、またペンダントが掘り起こされる可能性がある。
『そも、何故盗賊たちはここを狙ったのだ?何もないはずだぞココは』
「え?確か金銀財宝が眠っているとか何とかって…」
『…なるほどな』
「?」
『付いてこい』
剣聖シルバは何か納得したかのような声を出し、俺についてこいと言ってきた。
言われた通りに立ち上がり、剣聖シルバの後ろをついていく。
『恐らく、これだろうな』
そういいながら剣聖シルバはこのドームの一番奥にある棺を開ける。
そこには
「!!」
『…我が愛しのゴルドラ姫様の棺桶の中を狙ったのだろう』
中央で眠る骸骨とその周囲に装飾品かのように積まれた黄金や宝石の数々。
…金銀財宝ってこれの事か。
『ゴルドラ姫様は麗しいお方だった。故に様々な殿方から宝石、ネックレスといった金目のものを貰う機会があったが…それをすべて突っぱねた』
「剣聖シルバの為に?」
『…あぁ、その通りだ』
照れくさそうにヘルムを指でかく剣聖シルバ。
何ともお熱いことで。
『しかし、ゴルドラ姫様が眠った後でもその者たちは花の代わりに金銀財宝を棺桶に入れたのだ。姫様は要らないと言っていたはずなのだがな』
「…」
『…話を戻そう。先も言った通りこの財宝がある限り、何度も墓を暴かれかねない。何とかしたいが』
剣聖シルバの意見を聞き、俺も考えた。
確かに目もくらむ量の金銀財宝だ。多分、一生分遊んですごせるだろう。
…俺はこんなものに現を抜かしている場合じゃないので、どうでもいいが。
となると、この金銀財宝を消すしかない。
けど、そう簡単に消せるわけじゃない…と考えていたら。
「あ」
ふと、思いついた。
いやでも…これはアリなのか?
『何か思いついたのか?』
「思いついたけど…これで良いのかって不安がある」
『申してみろ』
「その前に…確認したいことが」
『何だ?』
「剣聖シルバはゴルドラ姫様に贈り物をしたことがありますか?」
『…恥ずかしながら何もないんだ。何かを送ってやりたいと思う気持ちは何度もあったが喜んでもらえる気がしなくてな』
「なら、これを最初で最後の贈り物にしましょう」
『どういうことだ?』
「見ていてください」
俺は棺桶の中で永遠に眠っているゴルドラ姫様に添えられている金銀財宝を全て取り出し、重力魔法の『グラヴィトン』で持ち上げて一塊にする。
そこに…
「…フレイドーム!」
炎魔法で熱を加える。
金は熱に強いが、ただ強いだけだ。それ以上の業火で熱を加えて…溶かす。
流石に宝石は解けなかったが好都合だ。
ドロドロの液体になった金をグラヴィトンで形を作る。
初めての贈り物で、未だ覆されぬ愛を伝えるのなら…それ相応の『愛』をぶつける。
つまり…『ハート』型ってわけだ。
金の液体でハート形を作り出し、そのハートに宝石でコーティングしていく。
「アイス」
氷魔法で少しずつ冷やしていき…完成した。
「よっと」
グラヴィトンを解除して、受け止める。
宝石がコーティングされている黄金のハート。
生半可な熱では解けず、そのハートを溶かせるとしたら生半可な愛を超越した、文字通りの愛情。
「世界でたった一つのハートをかたどった黄金のハート。そのハートは生半可な熱では溶けないのをイメージしました」
『…しかし、これでは』
「はい、金銀財宝が多数から一個になっただけです。ですが、剣聖シルバはゴルドラ姫様とずっと一緒に居たいと言いましたよね」
『あぁ、願わくばもう二度と目覚めず姫様と共に』
「なら、この墓地を爆破しませんか?」
『なに?』
「完全に埋め立てられたこの場所を掘り返す必要なんてありますか?それにこの場所の最後の証人は俺です。俺が言いますよ『この場所には財宝はなく、永遠に眠る二人と永遠に溶けぬ愛があるだけです』って。完全に閉じられたこの空間でもう目覚めることが無いように」
『君は…』
幸いにもこの場所は地下深くにある。
掘り出そうにも物理的に無理だし、金銀財宝がないのなら掘り出す意味もない。
つまり…墓を暴く理由をなくせばいい。
『感謝するぞ、マガツ。お前の案に乗ろう』
「ありがとうございます。では剣聖シルバ、この棺桶の中に」
そういいながら俺はゴルドラ姫様が眠る桶に手を伸ばした。
『え?』
「溶けぬ愛が『ここ』にあるんですよ、永遠に眠るのなら同じベッドで眠ってもらった方がいいじゃないですか?」
『し、しかし…』
「それにプレゼントもあるんですよ?尚更です」
『…わ、わかった』
剣聖シルバはやや照れくさそうにゴルドラ姫様が眠るベッドに入ろうとするが
『…マガツ』
「?」
急に動きが止まり、俺の方を見てきた。
『何から何まで感謝する。良ければなのだが…これを持っていってくれ』
そういいながら剣聖シルバは腰に携えてあった聖剣を鞘ごと取り外し、俺に手渡してきた。
「え、えぇっ!?」
『もう斬れぬ聖剣だが、これで良ければ』
「で、でも…」
『もう目覚める必要がないのなら、剣を握る必要もない…そうだろう?』
…確かにそうだ。
もう目覚めないのなら戦う必要もない。
故に剣は必要ない、か。
「なら、ありがたく受け取ります。それでこの聖剣の名前は?」
『名前はないぞ、好きにつけてくれ』
「えぇ…?」
『で、では…んん!と、共に眠るとしよう』
ぎくしゃくと不格好な動きをしながらゴルドラ姫様が眠る棺桶に身体を預けた剣聖シルバ。
「…あ、剣聖シルバの亡骸って?」
『我が鎧と一体化した。もうこれ自体が亡骸だ』
「わかりました、じゃあ次にフラッシュも」
『オン?』
「主と共に、主が愛する者と共に眠りに付いた方がいい」
『…フラッシュ、来い』
『アオン!』
主の呼びかけに反応し、フラッシュは二人が眠る棺桶に入ろうとしたが…入らず、剣聖シルバから受け取った聖剣に何かをしている。
やがて、緑色のオーラが聖剣の柄に収縮したと同時にフラッシュは棺桶の中に入った。
『どうやらフラッシュはその聖剣にフラッシュの加護を与えたようだ』
「加護?」
『どのような加護かは我にもわからないが…きっと素晴らしい加護だ。主である我が保証しよう』
「ありがとうございます…では、最後に」
フラッシュの加護に感謝を述べたのち、剣聖シルバとゴルドラ姫様の中央に溶けぬ愛を慎重に置く。
「これで完了です。剣聖、フラッシュ、そして姫様。この三人は永久に眠り、二度と覚めることはない。しかし、それこそあるべき姿であり、彼らが望む形なのだ。彼らの愛、絆は溶けることはない。」
『―――。』
『―――。』
『―――。』
「…おやすみなさい」
何も聞こえなくなったので、静かに棺桶のふたを閉める。
そして、二度と棺桶が開かなくなるように棺桶そのものに魔術の結界を張る。
「マジックヴィラー」
最後の証人の魔術の結界『マジックヴィラー』だ。
破られることもないし、破れもしないだろう。
「さてと」
最後の証人だからこそ、この依頼をやり遂げるとしよう。
俺は左手に魔力を込めていく。
「インパクトエクスプロージョン」
爆破魔法『エクスプロージョン』。
その応用魔法として連鎖爆破という魔法がある。
それこそが『インパクトエクスプロージョン』他の魔法に連鎖するかのように爆破する爆破魔法だ。
これを大量に作り出し、ドーム状のこの空間にまき散らし、出口に向かいながらまき散らしていく。
これだけ爆破すれば、掘り出されるどころか何も残らねぇだろ。
残るのは溶けぬ愛だけだがな。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




