第15話 中間試験の幕開け
俺と魔術監査警備局が協力していることを誰にも話さず、学校生活を過ごしているうちに中間試験の日になった。
最初に筆記試験。魔術、生物学、歴史、国語の四科目を一日でこなしテストが終わり、本日は終了。翌日に実技試験がある。
筆記試験に関してはきちんと勉強していたし、赤点は確実にないし高得点は取れたと思う。
そして、ある意味…俺は実技試験が本番だ。
勉学とは違い、俺の今まで学んできた戦い方や魔術を活かすチャンス。
…俺の復讐心で塗り固めた俺の魔術がどれほど強くなったのかがわかる。
「いよいよかぁ…」
「そうね」
「そうだね」
「…あぁ」
シェリド君、キャシーさん、ラムさん、そして俺。
キャシーさんとラムさんは依頼の種類が似ている為、途中までは協力するとのこと。
確かに実技試験は協力してはいけないというルールはない。上手くルールの穴を突いているな。
「シェリド君は調合で、マガツ君は戦闘の依頼なんだよね」
「そうだね、調合の予習もしたしハイ・エリクサーは多分作れるはず」
「俺もだよ、実技の試験が始まる前に軽くアップして来たしな」
「…敵が可哀想な事にならないことを願おうかな」
「何で!?」
何て言っているが、正直ネームレスの事が頭から離れない。
敵総数は?どう攻めて来る?どのタイミングで来る?と考えれば考えるほど頭が焼き切れそうになる。
「一応、最終確認なんだけど…実技試験が終わったら、またここに集まってくるんだよね?」
「そのはず」
「えぇ、確か依頼が終わったら大講堂に帰ってきて完了を告げる…それで終わりだけど、時間制限があるから気を付けないとね」
「そうだな…時間制限か」
「多分、僕たちよりも時間制限を気にしないといけないのはマガツ君だね」
「あぁ、戦闘が長引けば長引くほどメンドクサイことになる…速戦即決で片づけないと」
シェリド君のいう通り、戦闘関係の依頼は時間制限の規定が一番大きく働く。
短期決戦で片付けるしかない。
――ピンポンパンポーン。
『実技試験1年生の部を開始します。1年生はレギオン正門から出て、依頼に記された場所へ向かってください』
「お…始まるみたいだね」
「そうね…ドキドキして来たわ」
「緊張で胸がいっぱいか?」
「ま、マガツ君は?」
「なんか吹っ切れてる」
「えぇ…」
なんて雑談しつつ、4人で正門へと歩いていく。
「…」
そんな中、俺は俺自身に課せられた依頼書を改めて見ると同時に使命を思い出す。
剣聖の墓場の魔物を倒し、ネームレスを捕まえる。
ただそれだけだ。
…そうして、各々が受付で依頼書にハンコを押してもらい学園から出ていき、指定された場所へと向かっていく。
俺も受付でハンコを貰う為に依頼書を係の人に出す。
「…マガツ君だね」
「はい」
「アルファ警備長から聞いている」
「!」
係員の人にそういわれ、一瞬魔剣を抜きそうになったが
「大丈夫だ、恰好はギルドだが中身は魔術監査警備局の警備員だ。既に計画も聞いているよ」
「…それならいいです」
ハンコを押され、依頼書を受け取る。
すると
「マガツ君、アルファ警備長からの伝言を預かってる。一人になったタイミングでこれを見てほしい」
「わかりました」
依頼書と一緒に手紙も貰う。
アルファ警備長からの伝言が記された手紙か。
ここで開けてもいいが、他の生徒もいる。剣聖の墓場に近づいたタイミングで見るようにしよう。
「…」
左腕を見る。
いつも通りの赤い包帯で巻きつけられた義手がある。
それと…マルバス様から言われたことを思い出す。
『アルファ警備長から聞いている。そこでだ、私から一つ…今回の依頼のみ、マガツにかけられている規則を撤廃する』
撤廃した規則…それは『魔術の規制』だ。
俺は魔術が強すぎるあまり、上位から上は使ってはいけない。
しかし、今回は敵が敵なので本気で戦っていいとのこと。
俺の本気で出せるな。
「よし…それじゃあ、また大講堂で」
「えぇそうね、気を付けてね?シェリド君とマガツ君」
「うん、頑張るよ。マガツ君も頑張って」
「…あぁ」
そうして俺たちは分かれて、依頼書に書かれている場所へと各々で向かう。
ある程度、距離を取ってから俺は手紙を開く。
【マガツ君、このような手紙で伝言を記して申し訳ない。
それと、この伝言を読み切った場合、燃やし痕跡を残さないようにしてほしい。
まず、今回の件の援護として君が剣聖の墓場に足を踏み入れると同時に魔術監査警備局の者を向かわせる。魔術監査警備局を剣聖の墓場で待たせるのも考えたが、ネームレスに警戒されるわけにもいかない。故に出撃を少し遅らせる。それを知っておいて欲しい。
そして、ネームレスと戦闘が始まった際は無力化を最優先。もし勝てないと踏んだ場合は逃げても構わない。
以上、魔術監査警備局警備長アルファ・ゼパル。】
「…了解」
そう一人でつぶやき、左手で握った手紙をフレイで燃やした。
「ブースト」
補助魔法ブーストを唱えて、身体能力を強化し剣聖の墓場に向けて走り出す。
木々を蹴り、山を越え、風を切り、野原を駆ける。
馬よりも早く、風よりも早く駆け抜け、飛び…地面に両足を付ける。
――ドゴォォォォォンッ!!
砂埃と風が俺を中心に巻き上がる。
「ふぅ…ブーストで駆け抜けるのはこれっきりにしたいな」
両足を軽く伸ばし、呟く。
超高速で駆け抜けるのは楽しいが…眼が追い付かない。
ゴーグルとかあれば良いんだがな。
さてと、これが剣聖の墓場か。
ローダムの街の離れにある大きな洞窟と看板、見てくれは本当に剣聖の墓場なのかと疑問を持つかもしれないが、十分に立派な墓だ。
愛する者が二人で眠っている。例え姿が不格好でも立派だ。
「…サーチ」
剣聖の墓場に足を踏み入れる前に補助魔術『サーチ』で周囲を確認する。
7?いや…もっとだな。サーチを広げれば広げるほど生物の反応の数が多くなってくる。
まぁいい、一匹一匹…丁寧に倒せばいい。
「行くか」
あの時、貰った黄金のペンダントを右手で握りしめて足を踏み入れた。
ーーー
薄暗い空気の中、灯した松明を握りしめて下へと降りていく。
一歩一歩下へと進むたびに圧が重く、圧しかかる。
恐怖…じゃない、これは『引き返せ』という圧力だ。
俺の頭が進んじゃいけないと危険信号を鳴らすが、知ったことではない。
同時に、心の中でいう。
神聖な墓場に入ってしまい申し訳ないとシルバとゴルドラ姫に謝罪する。
すると
「!」
下への道が無くなると同時に、広い空間に出た。
洞窟ではあるが、同時にここは剣聖と姫が眠る墓地でもある。
ドーム状の空間であり、全てが高そうな大理石で補強されているのが分かる。
ここが最深部。
だが、金銀財宝はどうでもいいが魔物はいない。
やはり、結界は破られていない。となると依頼書自体が罠なのかと思っていた。
次の瞬間
『アァァァ…!!』
「!?」
最奥にある棺桶の前に転がっていた銀色の鎧が突然、宙に浮き始める。
「裁定剣!」
即座に魔剣を引き抜き構える。
アレが魔物か!?だとしても結界が張られているこの場所にどうやって…!
『ゴル…ドラヒメ様…貴方ヲ守ル為、俺ト愛狼フラッシュガ居ルノデス』
中身のない鎧は人型を形成する。
レッグ、ボディ、アーム、ヘルムが宙を舞い、一つの身体になり…やがて緑色の炎が身体から各部位へと燃え上っていく。
「『愛狼フラッシュ』…ってことは!?」
『オォォ…!我が墓を暴かんとする下賤な者が…!』
その炎がヘルムまで灯ったと同時に、先程とは違い流暢な声で俺に言葉を向けてくる。
なるほどな…!確かに下賤な盗賊たちならこの鎧…いや『剣聖』が『魔物』に見えるだろう!
『そのペンダント…貴様か…!ゴルドラ姫から授かったペンダントを盗んだのは!』
この鎧を身に着けた幽霊は魔物ではなく、剣聖シルバの『残留思念』だ。
愛する者と共に眠る墓を暴こうとしたネームレスに腹を立てて、幽霊として戻ってきたのか。
なら今の俺がすべきことは、ペンダントを返すことだ。
「いや!違う、俺は!」
『問答無用!』
俺の言葉に耳を傾けず、剣聖シルバは刃先が緑色に染まっている剣を引き抜き俺に振り下ろしてきた。
それを裁定剣で受け止める!
――ガキィィィン!!
「くっ!?」
お、重い…!
なんて一振りだ。生半可な武器じゃ正面から太刀打ちできない程に重く、強い一撃。
正面から受け止められたのは良かったが、もし受け止められなかったらと思うと…身の毛がよだつ。
『我が聖剣を受け止めるとは…貴様は前の奴らとは違うようだな』
「あぁ…そうだよ!!」
ギギギとお互いに一歩も譲らぬままぶつかり合う聖剣と魔剣が火花を散らす。
クソ…ペンダントを返してやりたいが、聞く耳を持たない状態で返したところで斬られるのがオチだ。
突破口を見つけたいが、そもそもコイツ斬れるのか!?
「ぐっ…らぁっ!!」
『ほぉ…!』
無理やり剣を上に弾き、距離を取る。
(結構鍛えた身体だが…剣聖シルバと俺の力の差は五分。ほぼ一緒と言っていいだろう)
剣を構えなおし、シルバと見合う。
問題は力の差が五分でも、戦闘で培ってきた経験が違うことだ…!
一騎当千である剣聖シルバはゴルドラ姫の側近でありながらも戦場の最前線をフラッシュと共に駆けて戦ってきた。
俺とシルバでは戦ってきた経験の差が大きすぎる!
『少しはやるようだな、盗人』
「…否定したいが、俺の声は聞こえないだろう」
『無論、聞く気もない』
「そうかよ…!」
言葉を交わしながらもシルバの剣技は止まらない。
早く、重く、強い。
今まで同じ剣を使う者と戦う機会が少ない分、経験の差が大きい。
「灰燼に帰す!」
裁定剣を左手に持ち直し、右手からサラマンダーを握り、二本の剣で聖剣を受け止める。
衝撃はある程度、分散されるがやはり強い!
『二本の剣を使う剣士か…面白い、初めて戦うな』
「そりゃよかったよ…!」
経験がないのなら勝機はあると一瞬思ったが、難しいなこれは…!
片方の魔剣で受け止めて、もう片方の魔剣を振りかざすがシルバはひらりとかわし…カウンターを仕掛けてくる。
初めて二本の剣士と戦うらしいが…それですら動きをすぐさま理解してくるのは持ち前の経験則か。
『…』
「はぁ…はぁっ…!」
だが、マルバス様との訓練をしていてよかったと心の底から思う。
もししていなければ初撃で押し切られて、斬られていたところだろう。
(集中しろ…もう勝つしかない!)
呼吸を整えて、シルバを見る。
話を聞いてくれないのなら、聞いてくれるまで叩くしかない。
というか、勝つしかねぇ…!
勝てなければ死ぬ。
「フレイ!」
『む、魔術だと?』
裁定剣を握りしめながら、炎魔術『フレイ』を放つと同時に一気に接近し、魔剣を振り下ろすが…俺が放ったフレイをシルバは軽々しく斬り払い、接近してきた俺の動きを予測し、聖剣で防ぐ。
「クソ…!剣聖シルバはここまで強いのか…!?」
『我を知っているのか…』
「あぁ…そうだよ!アンタの伝記が…好きだからな!」
『…ふん!』
「ぐおっ!?」
俺の振り下ろした剣を弾き、俺を吹き飛ばす。
剣と肉体を同時に吹き飛ばす…剣聖シルバが一騎当千と言われた理由は理解できる。
『そうか…なら、憧れに殺されることを光栄に思うがいい!』
とシルバは指で輪を作り、それを口元にあてる。
――ピィィーッ!!
「!」
笛の音が鳴り響く。
すると
――グルルルル…!
シルバの背面から緑色の双眸が眼を輝かせ、唸り声と共に一歩一歩と近づいてくると同時に緑色の炎が形を作り出していく。
巨大な体格に牙、耳、体毛、尻尾…間違いない。
『行くぞ、我が愛狼フラッシュ…!』
『アォォォォォォォンッ!!』
「マジかよ…!?」
巨大な魔狼であり、剣聖シルバの相棒『フラッシュ』。
シルバ自体の剣の実力もそうだが、警戒すべきなのはフラッシュとの連携だ。
ただでさえ、剣術ですら押し切られるのに連携なんてされたらマジでヤバい…!
『行くぞ、魔術と二本の剣を巧みに使う剣士よ…!我がフラッシュとの連携は斬れることはなく、同時に我らは斬れぬよ!』
『ワウッ!!』
「くっ!?」
シルバの剣を弾くが、今度はフラッシュの攻撃…!
同時に二つの攻撃をさばきながら攻撃を仕掛けるなんて…この二人の為の場合は至難の業だ。
「はぁっ!はぁっ!」
呼吸を乱さないように大きくても、一定の呼吸で平常心を乱さず的確に躱したり、いなしたりする。
『…』
火花が散り、衝撃が俺の身体に伝播し体勢が崩れかけるが…俺は負けるわけにはいかないんだよ!
体勢を崩しかけ、体重があらぬ方向へ傾いた瞬間、そのままターンし
『!』
「…ボルテックス!!」
詠唱し、放つ!
雷の攻撃魔法の最上級『ボルテックス』。
俺の左手から雷が吹き出し、バリバリと轟音を鳴らしながらフラッシュとシルバに襲い掛かる。
「はぁっ!はぁっ!…ど、どうだ?」
ボルテックスで生じた砂埃が晴れていく。
そこには
『やるではないか…魔術を操る剣士よ!』
『ウルルルルルル…!』
「マジ、か…!?」
俺の最上級の雷魔法を聖剣の腹で受け止めた、だと…!?
いや…!完全に守りきれた訳じゃない!
よく見ると守れなかった分の雷はシルバの鎧の一部を削り、フラッシュには少量のダメージが入っている。
最上位魔術は範囲も威力も最下位を凌駕する威力を持つし、俺は元々の魔術の威力が桁違いのはずなのに…それで少量のダメージか。
(いや…悲観になるな、ダメージは入っているんだ。ダメージが入っているのなら倒せるはず)
首を振り、息を整え裁定剣とサラマンダーを構える。
的確に動け、的確に判断しろ。
突破口を見つけろ!
「ふぅぅぅっ!行くぞ、剣聖シルバ!」
『…』
『ウォォォッ!!』




