↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染に陰で都合の良い男呼ばわりされた俺は、好意をリセットして普通に青春を送りたい  作者: 野良うさぎ(うさこ)
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/45

田中の好意

 田中視点の体育祭



 心臓がドキドキするんだよ。


 なるべく人に関わらないようにして生きていた私が自分から動いたんだ。


「……ありがとう。君のお陰じゃん」


 出会ってたったの八ヶ月程度。重ねた年月は華ちゃんに比べるべくもなく短いんだ。でもね、年月なんて関係ない。すごく大切だと思える人に出会えたんだよ


 誰もいない特別クラスの教室。誰もいなくても感じられる青春の匂い。遠くから聞こえる生徒たちの声、先生のアナウンス、湧き上がる歓声――


 体育祭当日、私の出番は後半のダンスの時間だけ。かけっことかはあまり得意じゃないからね。




『マラソン競技の現在のトップは赤組の御堂筋君です! それに続いて青組の藤堂君が……え? 相撲部の吉崎君を背負っている? ハンディ? 続行? ――失礼しました。藤堂君の後ろは陸上部の清水君が続きます!』




 ――藤堂剛。


 その名前が出るだけで私の心が変な気持ちになってしまう。


「もう……なんでこんなに好きなんだろう? ほんっと、全然わからないじゃん」


 私が人を好きになるなんて全然思わなかった。ずっと独りぼっちで過ごすとおもっていた。


 彼がいたから、彼が成長する姿を見て、私は前に進もうと思った。




 足音が聞こえてきた。

 教室に入ってきたのは、堂島あやめさん。それに――


「あっ、笹身ちゃんの彼氏君?」


「ち、違います! お、お、俺は、笹身さんの友達で」


「島藤、動揺しないの。静かにしなさい。全く、あなたは昔からそう。あの子たちの中で感情が一番豊かだったから……。ごほんっ、おまたせ、田中さん」



「ううん、全然だよ。はい、これ契約書」


 私は書類の束をあやめさんに渡した。


「……ええ、確かに頂いたわ。ふふ、まさかあなたから連絡が来るとは思わなかったわよ。『難攻不落』の田中姉。数々のスカウトを断り続けたあなたが……いえ、余計な詮索はしないわ。では、さっそく今後の流れを説明するわ」


 頭の中で、二人の自分がいるみたいだった。

 あやめさんの説明を聞きながら頷いている自分。

 これまでの人生の振り返っている自分。



『波瑠ちゃんが好きっていったからだよ!』


『え? そんなに気を持たせておいて、いまさら?』


『ちょっとさ、あの子って、男子に色目使いすぎじゃない?』


『弟がイケメンだからっていい気になってるんじゃなわよ!』


『僕たちって付き合っていたでしょ。……意味わかんないんだけど』



 人が怖かった。


 誰とも関わりたくなかった。


 家族以外の誰の言葉も信用できなかった。



『いいか波瑠。お前の声は人を魅了する。それは特殊な力と言っていいだろうな。……嫌なことが沢山起きると思う……。でも安心しろ、この世界には似たような力の持ち主が大勢いる。……いつかわかり会える人が出来るといいな』



 私は人に好意を持たれやすかった。だから、自分が人前に出る『アイドル』なんて出来ると思っていなかった。


 まあそれに、人前はちょっと緊張しちゃうじゃん。


 でも、歌うのは好きだった。


 だから……、自分の力を克服しようとする藤堂を見て……。



 私は強く頷く。




「はいっ、これから頑張ります」



 私も、前に進むために――



 ***


 ※体育祭はSSに。


 ***




「……ふん、俺も最近コーヒーが飲めるようになったんだ。ボタンを押すと出てくる機会だ」


「ふむ、それは興味深い。焼き菓子を持参したから、お茶をしながら話そう」


 体育祭が終わり、クラスのみんなとサイゼリアで打ち上げをしてからみんなと別れた。


 だが、島藤からの連絡があった。大事な話がしたいとのことだった。


 始めは俺のアパートで話すということだったが、興味本位で島藤のアパートを見たくなり、俺は軽い運動がてら、早稲田まで走った。


 早稲田駅前の裏手にあるこじんまりとしたアパート。築60年は経っているだろう。まるでここだけ時代に取り残されたような趣であった。


 無論風呂などついていない。近くの第三玉の湯という銭湯に通っているようだ。


 古いからといって汚いわけではない。掃除が行き届いているアパート内。集合玄関で靴を脱いで、軋む廊下を歩く。


 約四畳半の島藤の部屋は、大きな男二人で一杯になってしまった。


 幸い、島藤の部屋は荷物が少ない。だが、昔の俺達の基準からいうと、多すぎるほどであった。


 嗜好品であるコーヒーマシーン、大きなぬいぐるみ、それに、壁に貼られてある写真。


 俺は島藤が淹れてくれたコーヒーを飲みながら、写真を眺める。


 そこに写っているのは、見たことのない表情で笑っている島藤だった。隣には、はにかんでいる制服の笹身がいた。


「陸上部に入ればいいのではないか?」


「そういう問題ではない。部活に入ると俺の活動に支障が出る。俺はあくまでもエリの護衛だ」


 俺と島藤の空気は以前よりも張り詰めていない。それでも、社会の裏の存在であることは忘れていない。忘れては駄目なんだ。


 島藤がジト目で俺を見ていた。


「……全く、江ノ島ではひどい目にあった。いいか、エリは平塚をどうこうしようなんて思っていない。あれはお前の感情値を知りたくて招いただけで」


「ああ、面白かったな。久しぶりに小学校の頃を思い出した」


「……そうだな。相変わらず貴様は化物じみた能力だ」


 俺は虚をついて島藤の頭をポカリと叩いた。予備動作と敵意のない攻撃。

 島藤は口をポカンと空けて驚いていた。


「島藤、兄みたいな存在に『貴様」というんじゃない」


「くっ、まったく、この俺が反応もできないなんて。……まあいいだろう、藤堂、今日はエリからの正式な依頼だ」


 島藤は紙を取り出し、俺に手渡す。

 びっしりと文字が書かれた依頼書類。一読して、それを一瞬で全て記憶する



「なるほど……。しかし、これは俺よりも堂島あやめに適した依頼ではないのか?」


「いや、絶対に藤堂でなければ駄目だ」



 この世界には特殊な力の持ち主が存在する。研究所、病院、組織、会社、学園、事務所――色々な呼ばれ方をするが、特殊な力の持ち主を保護、もしくは研究対象、実験体にする団体が存在する。


 何が善で何が悪、というのは個人が定義するのが難しいが、当然ながら非道な実験を行っているところもある。

 だが、それはその組織の正義でもあるから完全には否定できない。


 俺はこれまで、非道な実験、悪意のある誘拐の阻止、対象者の護衛、などの依頼をエリから受けていた。


 この半年は特に依頼を受けていない。


「いや、田中の護衛をするのは全く問題ない。むしろ、俺が率先して受けたい依頼だ。だが、芸能界となると……、俺はあまり知識がない」


 依頼は芸能界――堂島あやめの事務所に入ろうと決意した田中の護衛だ。


 田中本人には自覚がないが、俺の『リセット』『リターン』、島藤の『リーズン』のような能力を持っているかもしれない。


 俺が考えていると、島藤は笹身の写真にじっと見ていた。


「……いや、別に見惚れていたわけじゃない。笹身さんが可憐すぎるからだ」


 俺は島藤の言い訳を無視する。


「しかし、俺は『リセット』の力を失った。ということは、自分の限界を超えることはできない。せいぜい、過去の残滓を読み取る『リターン』しか――」


「いや、お前は限界など超えなくても、十分すぎるほど優秀だ。それにそのリターンの力も絶大だ。考えてみろ? 過去の細部まで完全に思い返せる能力だぞ? とんでもない力だ」


 島藤の言いたいことはよく分かる。

 頭の中で過去に戻る。そして、その時の環境、状況、言葉、全てを知ることが出来る。


 島藤は続ける。


「……いいか、芸能界は藤堂が思っているよりも、組織が乱立している場所だ。簡単に説明するぞ」



 堂島あやめの芸能事務所はエリの組織の母体となっている。


 田中はその事務所と契約を交わした。……堂島あやめの事務所なら少し安心だ


 島藤の説明いわく、芸能界は昔から組織が深く関わっている。


 まず、芸能人には明確なランクがあった。これは一般的に公表されているものではなく、芸能事務所間で共有されているランク付けだ。


 あの特別クラスのように、F~Sまで分かれている。


 堂島あやめはトップクラスはSランクだ。トップアイドルである田中弟はAランクのようであった。


 ランクによって振り分けられる仕事、ギャラが変わってくる。

 それ以外にも様々な特権があるという。


「……ランクを上げるためにはとんでもない労力と人気が必要だ。それだけじゃない、大型イベントが定期的に開催される。それはランク付けに大きな影響を与えているんだ」


「だが、新人の田中がそこまで気にすることではないだろ?」


「いや、田中さんはとんでもない才能の持ち主だ。今回、夏休みに『サマーミッドナイトフェスティバル』通称『サマフェ』に田中さんは電撃参戦する予定だ。それはランク戦でもある。ということは――」


 島藤が苦い顔をした。ということは嫌な思い出があるのだろう。島藤は感情をすぐに表に出すくせがある。



「田中さんを潰そうとする輩が出てくるだろう。『雀燐火すずめりんか』『龍ヶ崎城太郎りゅうがさきじょうたろう』。ともにAランクの二人に気をつけろ。特に城太郎は俺達と同じ小学校出身だ――」


 俺は龍ケ崎という言葉を聞いて、何かを思い出しそうになった――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。