60.クエスト・インタラクト①
《王戦》を終えた五名は《明松の港》にある料亭にて、感想戦及び、来る《崩國のカダン》戦に向けた作戦会議を執り行っていた。
しかしその内容は作戦会議とは名ばかりで、その時間の大半は愚痴混じりの雑談に費やされていた。
「なんなんですか《禁術》って!ズルくないですか!」
「《昏き大百足》出してきた側が言える口かよ。予想外すぎな、あれテイムできるの知らねーって」
「グラ良いせいでキモかったねぇ」
話題の中心は二つ。兎の戦術、そして瀧奈の使役モンスターにあった。
「キモいのは《禁術》の効果の方でしょ!吐きなさい!吐いてください!」
楠莉が一度に二度のデス判定を受けた《禁術 命造鎖罰》について兎に問い質した時、兎は自身のステータス画面を開き、一冊の本を取り出して見せた。
「よく聞けよ」と身を乗り出す。兎は自身のジョブ欄を指し、声を落として話を始めた。
「まず《千の賢者》は嘘だ。《虚構綴る泥》、これがあたしのジョブ。ザックリいえば魔術スキルを作ることが出来る」
「はぁあああ〜〜〜?」
「あだっ!どうしてぇ!」
楠莉は兎のジョブ欄をジッと見つめ、数秒宙を見上げたのち、心からの声を上げた。周囲の視線を感じた兎は、隣に座っていた瀧奈の頭に拳を落としてからステータス画面を閉じた。
兎は続いて本を開き、メニュー画面を表示した。それは兎を除く四人には見慣れないものだった。
「ここの《魔術作成》を選ぶ。んで《ノード一覧》にあるノードを組み合わせて作る。だからどんな魔術でも、とはいかねぇ。強い効果ほどデメリットも重くなるし、《禁術》クラスになるとペナルティが付くようになる」
「《命造鎖罰》はたしかルムマでしか使えない、だったっけ?他にもあるの?」
廻琉の問いを受け、兎が指を四本立てて見せる。一本、一本と指を折りながら、兎は説明を続けた。
「まず詠唱を中断させられた場合、即座に術者を対象に効果が発動する。
次が詠唱からスキル名までの間にデスる事。出来なければ不発扱いになってMPだけ消費される。
んで次が発動から三十秒以内に条件未達……こいつの場合は"二回分ダメージを与える"だな。出来なかったら復活権が一個消費される。残数がなければその時点で負け、試合終了だ。
最後、特にねぇ。あたしは奇数が嫌いだ」
得意げに説明を終えた兎が、ようやく目を開いた。長尺の説明を真面目に聞いていたのは、被害者の楠莉のみであった。
「あだあっ!」
兎は廻琉の頭にひとつ拳を落とし、本を閉じた。
廻琉は頭を擦りながら、碧からお菓子を押し付けられている瀧奈へと視線を向けた。
廻琉が次に関心を向けた対象は、瀧奈の使役モンスターだった。
「ね!《大百足》?ってさ!どんなの?強かった?」
瀧奈が声を発するよりも早く、碧が身を乗り出す。勢いそのままに机に倒れ込み、碧の頭が向かいに座る廻琉の腹部に直撃、体力ゲージは極わずかながら削られていた。
「《大百足》はねぇ!シナリオ五章のボスなんだよ!勝つまで二ヶ月詰まったんだから!」
「シナリオ?って、あったの?『黄昏前線』に」
廻琉の関心は、初めて耳にした"シナリオ"という言葉に向けられた。
廻琉のプレイ歴はわずか四時間ほど。にも関わらずレベルは既に八十を超え、セーフティスポットは七つ目まで開放されていた。その異例の進行速度は、兎と碧によるレベリングの成果だった。しかし、二人に導かれるまま攻略を進めた結果、廻琉はRPGの醍醐味ともいえるシナリオの存在すら知らずにいた。
もっとも、廻琉がシナリオを知らずにいたのには、別の理由もあった。
兎と碧による『廻琉育成計画』は、そもそも通常のゲーム攻略を目的としていなかった。そして何より、『黄昏前線』ではシナリオを進めずとも、プレイヤーは自由に行動できたのだ。
「『黄昏前線』のシナリオはねぇ!プレイヤーが協力して、ワールド単位で進めていくの!」
「ワールド全体にフラグが隠されててな。誰かがそれを見つけるなり、条件を達成するなりしてシナリオが進行していく。今は八章だが、ぶっちゃけ無視でいい」
机を乗り越えてしまった碧は元の位置へ戻ることを諦めたのか、廻琉の膝の上に座っていた。
「そうなの?……んん?どうして?」
廻琉は碧の頭でピコピコと跳ねる猫の耳を指先で弄りながら、兎に尋ねた。
兎は眉間に皺を寄せ、指を四本立てて見せた。
「ダルい。ムズい。面倒い。そしてあんま面白くないからだ。八章にもなって話の先が見えねーんだ。ハマる奴はとことんだが、あたしには合わん」
「はいはいはーい!」
「あだっ」
続いて、碧が勢いよく手を挙げた。
碧の手が廻琉の顎をかち上げ、体力ゲージが極わずかに削られた。
「あともういっこ!『深沁港夜市コラボトーナメント』に参加して、優勝したいから!」
「なになに!それ!」
"トーナメント"という言葉に、廻琉が今日一番の食い付きを見せる。その様子を見た兎は碧と顔を見合わせて笑っていた。
「お答えしましょう!」
次に手を挙げたのは楠莉だった。
兎に頭を小突かれた後、楠莉の隣へと移動していた瀧奈はその声に驚いたのか、跳ねた膝で机を揺らした。
兎の前にあったコップが倒れ、膝に水が滴り落ちる。しかめ面を浮かべる兎の傍らには、《湿潤》のデバフアイコンが表示されていた。
「『深沁港夜市コラボ』!四日後に控えた三日間に及ぶ恒例のお祭りですね!一日目は深沁港現地でのお祭りです!沢山の海鮮料理が楽しめますよ!」
廻琉が首を傾げ、ワールドマップを開く。地名一覧をスクロールして、もう一度首を傾げる。
「現地って、現実の?ってこと?かな」
廻琉の問いかけに対し、楠莉は得意気に鼻を鳴らし、言葉を繋げた。
兎もなにやら満足気に口元を緩めていた。一方で、いつの間にか兎の濡れた膝の上に乗せられていた碧は不満気に口を尖らせ、その顔の横には《湿潤》のデバフマークが表示されていた。
「その通り!現地ではメタモルの『界影』機能を使います!すると街が一変!複雑なダンジョンのような深沁港の街並みが、文字通りダンジョンマップになるのです!」
「ほう!……ほう?………ね、どういうこと?」
いつの間にか隣に座っていた瀧奈に、廻琉は小声で尋ねた。瀧奈の座る位置は徐々に兎から離れつつあった。
「え、えっと。めっ、メタモル被るとモード選択出るでしょ?『界影』では『潜界』と違って……えっと、お、起きたままゲームを、その、起動できるんだけど」
廻琉が激しく首を縦に振る。瀧奈は頬を緩ませ、ゆっくりと話を続けた。声の震えは徐々に落ち着きつつあった。
「現実の景色にね、投影?する……のかな。ゲームの景色を被せる、って感じらしい……けど。ふへ、ごめんね、よくわかってなくて」
自信なさげに頭を掻く瀧奈の隣に、笑みを湛えた楠莉が座る。丸テーブルを囲む五人の位置は偏りつつあった。
「二日目の『コラボトーナメント』はコチラ、ゲームの方で開催されます!マップはなんと一日目の会場である深沁港と同一のもの!有利に戦う為には初日でマップを把握する必要があるということですね!」
「その分ガッツリ歩き回れってことだからな。腹減らした客は店に金を落とす、Win-Winってわけだ」
腕を組みながら頷く兎の膝の上で、碧も同じポーズを取っていた。
「『コラボトーナメント』では三日目の『大規模混沌レイド 白鯨撃滅戦』のレイドリーダー権を奪い合うのです!」
楠莉が高々と手を掲げる。指は三本立てられている。
「ルールは《王戦》!ワンチーム一人から四人まで!ジョブ・レベル・武器制限一切なし!」
「……四人。……四人、だね」
小さく声を漏らす廻琉に、兎が一本、指を立てて見せる。碧はその膝の上で、やはり同じポーズを取っていた。
二人は目を細め、口角を吊り上げて、立てた人差し指を廻琉に向けた。
「理解るな?あたしらの目的が」
「《崩國のカダン》は通過点!大剣手に入れてぇ!」
廻琉が膝を打ち、拳を掲げる。
「目指すは優勝!!だね!」




