第八話
リビングに戻りタッパーを開けると、肉じゃがが入っていて、それを見て涼香は久しぶりの笑みを浮かべた。箸でつまんだ先には、荷崩れしたとは言い難い歪なジャガイモや、端がくっついたままの玉ねぎなどが入っていた。
一口食べると、赤く腫れた目にまた涙が浮かんだ。
久しぶりの暖かい食事にほっとしたのもあるだろうが、涼香の好物が肉じゃがだと覚えていてくれた七海の優しさに再度振れた所為だろう。食べ進めていくにつれて自分の心を蝕んでいる非日常から解放された気がした。
その日の夜、涼香はタッパーを丁寧に洗い、就寝の準備を済ませると急いで自室へ向かった。数日に渡って電源をオフにしていたスマホの電源を付けるとまた、大量の通知に今度は笑顔を浮かべた。
涼香は手際よく、返信をしていった。そして、最後の返信先を選択する直前に、涼香の指は止まった。最後の別れ方と、一方的に浴びせた言葉を思い出したからだろう。意を決して七海と書かれたスマホの画面を押した。
文面には、今日の事の謝罪と、肉じゃがのお礼を書いて、スマホを軽くベッドに投げた。その後、今日の朝の教師の言葉が脳裏に浮かんだのか、机に座り受験勉強を始めた。
始めて数分後、スマホから着信音が鳴り画面には高山と表示されていた。椅子から立ち上がり涼香は、応答へ指をスライドさせた。
「もしもし、すみません。夜遅くに」
高山は何やら焦った様子だった。その声を聞いて父の事が頭に浮かんだ。
「大丈夫ですよ。もしかして父になにか?」
「専務の事なのですけど、そうではなくて」
「あっ、そうですか。すみません」
その言葉を聞いて、安心して話に耳を傾けた。
「いえ、こちらこそ勘違いさせて申し訳ないです。実は、数日休みを頂く事になりまして、その前に、あらかた仕事を片付けたいのですが、資料がなくて、もしかして専務が自宅に持ち帰っているのではないかと」
こんな遅くまで仕事をしているなんてと思った。
「それで、どうしたらいいですかね?」
「専務の黒いカバンがあると思いますので、翌朝お伺いした時に見せて頂ければ」
その話を聞き、涼香の頭には、小さい頃父を玄関まで見送る際に母の真似をして黒いカバンを渡していた光景が浮かんできた。
「わかりました。探して用意しておきますね」
「ありがとうございます。それでは失礼します」
電話が切れ、涼香は父の部屋へ向かった。
父の部屋に入ると、机の横に黒いカバンが掛けてあり、すぐに見つかった。それと同時に机の上に置いた手作りのお守りが置いた時と少し見た目が違う事に気が付いた。
お守りが全体的に黒く焼け焦げていて、結び目はその所為だろうかほどけていた。手に取った時に、先日気を失う直前に机の上が光輝いていたことを思い出し、気味が悪くなって思わず投げ出してしまった。
中には白い厚紙を入れたはずなのだが、飛び出したものは黒い模様が描かれていた。投げ出した袋と中身をそっと拾い上げた時、あのセレクトショップと店長の顔が脳裏をよぎった。




