第七話
結局、遅れて登校する予定だったが連絡を入れて休む事にした。担任の教師からもクラスメイトから情報を聞きつけたのだろう。社交辞令程度の心配を最後に電話を切った。
この日を境に、涼香は学校を休むようになった。スマホの電源はオフにして、学校への連絡は自宅の電話を使用している。担任の教師には、両親が入院しているので、着替えとお見舞いにと言って納得させていた。
しかし、今日の電話の最後はいつもと違い大事な時期だからと苦言を言われ電話を切られた。そんな教師からの言葉を聞き、肯定の言葉は言うものの、受話器を置く力はより一層強いものになった。
遠くから聞こえるインターホンの音で目を覚ます。
教師からの連絡をした直後に、ベッドに飛び込んだまま眠ってしまっていたようだ。重い腰を上げ、一階に降りてモニターを確認すると親友の七海の顔が見えた。
玄関へ向かう前に軽く顔を洗おうと洗面台で自分の顔を見た瞬間、鳥肌が立った。今頃病室で眠っている父と似た顔が見え、何度も顔を水で擦ったが結果は同じだった。化粧をするにも待たせては申し訳ないと仕方なくマスクを着け玄関の扉を開けた。
「ごめんね、忙しいのに」
七海は、両手にタッパーを持って立っていた。
「これ良かったら食べてね。お弁当ばかりだったら心配だからお母さんと一緒に作ったの」
そう言って、タッパーをこちらに差し出してくれたのだ。
涼香はうつむいて口から漏れ出る言葉を必死に我慢していた。
「あのね、わかるよ涼香」
心の中で何かが切れた音がした。
「家族の事だと心配だよね。私もおと―」
「うるさい。七海に何がわかるのよ」
差し出されたタッパーは少し揺れた。
「聞いて涼香。わた―」
「わからないよ、絶対わからない。帰ると両親がいて、弟がいて、暖かいご飯とうまくいく日常が待っている七海には絶対わからない」
やってしまった。けれどもう涼香の口から吐き出される気持ちは抑えきれない。
「七海が努力している事だって知っている。家族思いな事も、友達思いな事も。でも、それは全部上手くいって余裕があるからできているのよ。私だって努力した。家族思いで友達思いで七海と同じ。でも私は上手くいかない。この前の試験だってそう。何が違うのよ。教えてよ」
そう涙ながらに言うと、七海は無理矢理に涼香の胸にタッパーを押し当て駆け足で帰っていった。
胸に抱えたタッパーの微かなぬくもりが涼香の心を溶かしたのか、膝から崩れ、また涙するのだった。




