第六話
目覚めると、父の手を握っていた。
起き上がり父の顔を見た瞬間、昨日の光景が頭の中をよぎり背筋が凍る。倒れている父を見て、涼香はどうにかしようと手を出しそうになったが、素人判断で動かして父に何かあったらと思うと、自然と手が重くなった。
それから消防署に連絡をして救急隊員の人たちに来てもらいそのまま緊急搬送されることに。偶然にも母の入院先と一緒だ。
「検査の結果は以上です。何か質問はありますか?」
医者の話だと、身体に深刻な病気の予兆も見られないが、衰弱している事は間違いないと素人が見てもわかる話をされた。
つまるところ、母から聞いていた話と同じで原因不明なのだろう。
「いいえ、何もないです」
自宅で見た母の姿を思い出して、そう言うしかないことはわかっていた。
「すみません。宜しくお願いします」
診察室から出て帰る前に、少し休もうと待合室の椅子に座った。周囲からは、ナースの足音や車椅子の車輪音、診察の順番を告げる声など様々な音が聞こえてきた。
そして、今一番聞きたくない音が耳に入ってきた瞬間、涼香は立ち上がり病院の出入り口へと足早に急いだ。体調の悪い我が子を心配する母親、うつむいている旦那を励ます妻、大きなお腹を見て嬉しそうにしている若婦とその母、そんな人たちしか目に入らなかった。
最も求めている光景から発せられるであろう暖かい声で心が貧しくなってしまわないようにまた一段と足を速めていく。
気が付くと、病院の外だった。
涼香は時間を確認するため、スマホの電源を入れた。すると、大量の通知が入ってきてその画面を見て眉間に皺を寄せる。画面には、同級生や、七海からの心配の声で埋め尽くされていた。
涼香は天を仰ぎ、今の気持ちが零れてしまわないように口を固く結んだ。
「涼香さん、専務の容態は?」
声のする方へ目を向けると、こちらへ駆け寄ってくる秘書の高山が見えた。
「父は、また以前の状態で、数日間の入院になりました」
「そうですか、承知しました。あとは私の方で病院関係の手続きをしますので、ご心配なさらないで下さい」
涼香はお礼を言って病院を後にした。
涼香が病院から去ろうと高山と別れ、背を向けた時、高山は胸元からスマホを取り出して何かを確認した。そして確認した後、電話をして足早に病院へ入って行くのだった。




