第十七話
目が覚めると涼香の目の前から完成した千羽鶴が無くなっていた。
周囲を見回してもどこにもなく部屋から出ると店長が慌ただしく何か準備をしていた。
「あの、千羽鶴はどこに」
「大丈夫だ。ちゃんと保管してある」
涼香はその一言にほっとしたと同時に、身体が少し重たく感じた。
「あと少しだ。俺が責任もって千羽鶴を持って病院まで行く。とりあえず、帰ってお風呂にゆっくり浸かって準備しな。その後、病室で会おう」
涼香はうなずいて部屋に置いてあるカバンを持ち自宅に帰るのだった。
自宅に帰った涼香は、さっそくお風呂を入れてゆっくりと浸かった。指先の痛みがお湯の中に溶けだしていき、固まった腰が緩まる感覚に少し口角が上がる。
お風呂から上がり、自分の部屋に向かいクローゼットを開けた。掛けてある白いワンピースを手に取るとクラッカーを持つ父の笑顔と、母が作ったケーキを思い出した。そのまま手に取ったワンピースを着て、少し化粧をして病院に向かった。
病室の扉を開けると、正面に見慣れない服装の人がいて少し戸惑った。
「遅いぞ。早く入れ」
神社で神主が着る服を着た店長を見て、いつもと違って真面目だと少し吹き出した。
「これが正装なんだから仕方ないだろ。いいからあれを持て」
指差す先には、涼香が折った千羽鶴が椅子の上に置いてあった。
「お父さんと俺の間に持って立ってくれ」
千羽鶴を手に持ち涼香は店長の言った通りの場所に行くと父の姿を見て千羽鶴を落としそうになった。
昨日は黒い異物が父の首や胸を締め付けるように巻き付いていたが、今は父の身体のほぼ全身を黒で覆っていた。
「しっかりしろ。始めるぞ」
涼香は、しっかりと千羽鶴を両手で持ち直し目を固く閉じ下を向いた。
店長は、手を強く叩いた。その音に驚き涼香は目を開け顔を上げると、手持った千羽鶴は、青白く光り始めた。
青白く輝く千羽鶴から同じ輝きの折り鶴が大量に羽ばたいて父の身体に向かっていき全身を覆いつくした。
父の身体を蝕むものは激しく抵抗しているようで、父の身体に留まった折り鶴は喰われているが、余りの数に徐々にその勢いをなくしていった。そして、最後の悪あがきだろう。父の身体から黒い蛇の様なものが生えてきて口を開け、こちらに襲いかかって来た。
店長はもう一度、強く手を叩くと大量に飛び立った折り鶴が一か所に集合し巨大な鶴になり、襲い掛かる蛇を啄んだ。何度も啄まれ蛇は、あえなく霧散して消えていった。
涼香は目の前で起こった出来事に呆然としていた。
「よし、これで依頼は完了だ」
店長の言葉に、忘れかけていた重要な事を思い出した。
「あの、すみません。お金は分割で……」
「いや、いいから財布出して」
涼香は財布を開けると店長は近寄り、小銭入れの留め具を開けた。
「えっ、どういうこと?」
「言ったはずだ、五百って」
店長は五百円硬貨を手に握りしめた。
「まあ試したんだよ。想像した金額くらい覚悟がいる作業だ。生半可なやつじゃできない」
店長は、涼香の目の前に立ち綺麗なお辞儀をして病室を後にした。
「ありがとうございました」
涼香は去り行く店長の後ろ姿に深々と頭を下げたのだった。




