第十三話
「なんであなたがこの場所を知っているの?」
涼香は予想外の来訪者に驚いた。
それと同時に昨日の事もあり顔をしかめていた。
「君の友達の七海ちゃんがあれからお店に来てね。聞いてみると快く教えてくれたよ」
七海には、喧嘩する前に全て話をしていないが家族の事で相談に乗ってもらっていた。涼香の脳内では、詐欺師まがいの店長が優しい彼女を簡単に言いくるめる姿が容易に想像できた。
「初回サービスの小袋はちゃんと使いきってくれたみたいで」
笑顔で言った店長の言葉を聞いて涼香は手に持った空の小袋を力いっぱい握りしめた。
「それで何でここに来たのよ」
「お見舞いと自分の予想を確かめに」
手に持ったケーキ箱を涼香に渡しながら、店長は父の眠るベッドに向かって歩いて行った。
「何よそれ。人を馬鹿にす―」
「これは予想通りだね」
店長は父の顔を見ながら淡々と言った。
「とりあえず、店に行こうか」
店長はそう言って病室のドアを開けた。涼香は相変わらずの店長のマイペースな会話に頭の整理が追い付かないでいた。
「ちょっと。勝手にはな―」
「いいの?大好きなお父さんがもう一生目を覚まさなくても」
店長の顔からは張り付けたような笑顔が消え真剣な面持ちで涼香の目をまっすぐ見つめて言った。
初めてみた彼の顔に涼香は、気おされてしまった。店長は再度顔に不自然な笑みを浮かべて退出を促すように手をドアへ向けた。涼香はその仕草に苛立ちながらも病室の外への一歩を踏み出した。店長は彼女を優しくエスコートして父の病室から二人は後にするのだった。
二人は病院から出てすぐにタクシーに乗り込んだ。車内では、タイヤの摩擦音とラジオの音が聞こえるばかりだ。
涼香は後部座席のドアを身体の側面にピタリとくっつけて外を眺めている。
彼女の頭の中には父の死と時間がないという店長の言葉が何度も繰り返されていて膝の上で両手を強く握り合わせていた。
「着いたよ」
店長の一言で負のスパイラルから抜け出した涼香は、タクシーから降りてセレクトショップ叶に入るのだった。




