第十一話
(私の家ってこんな感じだっけ?)
自宅に帰った涼香は、玄関の扉を開けようとした時、普段の見た目と少し違う事に気が付いた。
涼香の家の玄関の扉は木製のマホガニーでドアノブはシルバーだ。しかし、目の前の扉は少し本来の色よりもくすんでいるように感じた。
(私が生まれる前からの家だし仕方ないのかな)
涼香はそう割り切って扉を開け玄関へ入って行くのだった。廊下を歩きリビングの明かりを点けたのだが、ここも様子が違う。
いつもは蛍光灯で明るく部屋一面が照らされるのだが、ほんの少しだが暗く感じた。
(家電は壊れるときは続けてって聞くけど、家の照明や外装までは聞いたことがないなあ)
涼香は立て続けに起こる自宅の変化に思わず首を傾げる。
今までにない居心地の悪さに嫌気が差し、今日は早々に寝る事に決めたのだった。
就寝の準備を済ませカバンを持って自室に向かった。自室の部屋を開けようとした時、目の前の光景に少し悲鳴を上げた。
扉を開けるドアノブには黒い汚れの様なものがついていて、その汚れは微かに蠢いているように見えたのだ。涼香はスマホのライトを点けドアノブを照らし、安堵した。ドアノブは鉄製だったために錆がその様に見えたのだ。安堵して扉を開け涼香は腰を抜かした。
涼香の横で、ドアノブの錆は静かに動いていた。
涼香の部屋は、辺り一面が黒いカビの様なものに覆われていて、それはまるで生き物のように壁中を徘徊していた。腰を抜かしたまま退く涼香の手にカバンが振れた。 その時、不思議と心に火が灯った様な気がしたと同時に、店長の憎たらしい顔を思い出した。
カバンから小袋を取ると、心の中に住み着こうとする黒い靄が晴れた様な気がした。
立ち上がり小袋の中の、塩を一摘み。そして、部屋の中へと放り込んだ。扇状に広がった純白の粒子に漆黒の異物は吸い寄せられている。今が好機と、立ち上がり小袋から塩を一摘みずつ部屋の四隅に置いた。
四隅に置いた塩に周囲の異物は抵抗をするが吸い寄せられて跡形もなく消え去った。涼香は、部屋中を見渡し、いなくなった事に安堵したのか、そのまま床で眠ってしまったのだった。




