第十話
マップアプリを頼りにセレクトショップ叶に着いた涼香は、カバンからお守りを取り出し深呼吸をした。
意を決して扉を開け中に入ると、前回来た時とは違う感覚が涼香の身体を襲った。
夕方という事もあってか、展示された家具やお面などが日光の入り方もあって見え方が違うのか、少し黒いカビの様なものに覆われていることに気が付いた。
「すみません、店長さんいますか?」
早く要件を済ませて帰ろうと涼香が叫ぶと、奥から笑顔の店長が現れた。
「いらっしゃいませ、また来てくれたのですね」
「閉店近くになってすみません。この前作ったお守りについてなんですけど」
そう言って涼香は、カバンの中からお守りを取り出して店長に見せた。
「このお守り少し焦げていて、良ければ袋だけでも―」
涼香が店長の顔を見た時、お守りを見る彼の目にはいつもの明るさは無かった。眉間に皺をよせ真剣な目でお守りを見ながら、手で指折り何かを数えているようだ。
「あの―」
「その袋の焦げが見えたのか」
入店時とは違う店長の威圧的な口調に涼香は戸惑った。
「見えたのかってどういうことですか?」
「経験した人にしか見えないんだよ。どうせ中身の札の模様も見えているんだろ」
店長は胸元から煙草を取り出して火をつけ一吸いした。
「お守りを渡した相手に何かあったってところか。まあ何にしても時間は迫ってきていることは確かだ」
涼香は勝手に進む話に脳内の整理が間に合わなかった。
「あの一体どういうことですか?」
店長は親指と人差し指で輪を作り涼香へ向けて言った。
「ここから先は有料だ。言っておくが俺は高いぞ」
その言葉を聞いて涼香はより自分の置かれている状況がわからなくなり、首を傾げた。
「まあ初回サービスってことで」
店長はそう言うと、手元の引き出しから小袋を取り出し涼香へ差し出した。
「初回サービスってこれはなんですか?」
差し出された小袋は白い布地のもので、中を見ると白い粉が入っていた。
いきなり渡された白い粉に涼香は危ない薬物だと思い、思わず悲鳴を上げた。
「塩だよ、もちろん普通ではなく俺の特製のものだ」
涼香の悲鳴は予想通りだと店長は笑って言った。
「塩って魔除けじゃあるまいし」
「魔除けだよ、まあ使ってみな。使い方は部屋の四隅に少し盛って置くだけ。簡単だろ」
店長の高圧的な言葉に苛立ちながらも涼香は手に持った小袋をカバンにしまった。
「使ってみて信用できると思ったらまた店に来な。その時に契約の話をしよう」
店長は、笑顔で出入り口の扉を開け涼香の帰りを促した。
「それでは、またのご来店をおまちしております」
店を出ると外は街灯で照らされていた。涼香は店内での受け入れ難い会話を思い返した。すると、同時に店長の横柄な態度と顔が頭から離れなくなり自宅へ帰る歩みはますますと加速していく。
なんとか平静を保とうとする涼香の心の中は店長の時間が迫ってきているという言葉がどうにもひっかかっていて父の事が気がかりで仕方がなかった。




