7 庶民王 統治開始 2
「……そこのお前、籠手の関節油をケチったな。……砂が混じって摩耗している。……まあ、お前が無駄な労力を消費するだけだがな……過労で死ぬなよ……次っ」
「……お前の胸当て……焼き入れのムラが出ている。工房を変えた方が良さそうだな。その工房の親方に伝えておけ『不良品は納品するな』と」
ユージンが指摘をするたびに、戦場では英雄と呼ばれていた騎士たちがまるで新兵のように青ざめていった。ユージンは随行する事務官たちに書類を叩きつけた。
(何なんだ!一体……養成所ではこんな初歩のミスは無かったぞ。アルベールはもっと厳しかったんだっ‼)
「……話にならん。全装備、一度解体して再整備しろ!この『整備状態報告書』は破棄……いいか、lこれは今の国王に瑕疵のない状態で報告しろ」
オーギュストは背筋に冷たいものが走るのを感じている。
(ああ……恐ろしい。ユージンは我が騎士たちを『人間』としてではなく、『稼働する部品』として見ているのか。それも、誰が使っても同じ結果が出るように、完璧な規格品へと作り変えようとしているのだ……この男の手にかかれば、それこそ軍も、民も、この国そのものが、感情で左右されない『巨大な精密機械』に成り果てるぞ)
王の傍らで、モランが静かに眼鏡を拭きながら、その戦慄を見透かしたように囁く。
「……いかがですかな?陛下。ユージン様のこの手並、実に無駄がない……ああ、今は未だ事務長官様とお呼びするのが正解ですかな?」
「……」
「ですが、ご安心ください。……これがもし『ゼノス様』ご本人の点検でしたら、今頃ここには基準を満たさないゴミとして処分された騎士たちの死体が山を成していたでしょう。ゼノス様はそういうお方でした」
「__モラン、お前……」
「今の彼は、まだ『人間』の枠で踏みとどまっておられる。……ただ、実家に帰ろうと少しばかり、『完璧』を急ぎ過ぎているだけですな」
「……家に帰るだと?まだそんな吞気なことを言っているのか、あいつは」
オーギュストは信じられない様子で、テキパキと指示するユージンを眺めている。
ユージンの意図としては、俺が居なくなっても誰にでも回せるように全てをガチガチにマニュアル化してとっとと出ていってやるという『最強の退職準備』を始めているつもりであった。
しかし、周囲からして見ると、ユージンという男は国中の全てを支配下に置くために、髪の毛一本の乱れも許さない独裁者『覇王』へとしての準備を始めたとの認識に他ならない。
この噂が噂をよんで周辺国へと広がっていくのであった。
いつの間にか事務長官になってますね(笑)




