4 ガルディア使節団 芝居の始まり
「……この惨状は一体……どうしたことか」
ガルディア使節団が案内された謁見室。そこは、かつての栄華はどこへやら、壁には大きな亀裂が走り、大理石の床には粉塵が散らばって、至る所に壊れた装飾品が並んでいた。
そこに現れたのは、見慣れた黒鎧を纏ったユージンではない。
陽光を吸い込むような漆黒の外套を羽織り、胸元からは彼の中の「破壊の力」の疼きを示すかのように、銀の鎖がジャラリとリングホルダーと共に音を立てた。
騎士としての「礼節」を完全に捨て、ただ己の「暴力」を誇示するかのようなその出で立ちは、破壊された謁見室の風景に見事に溶け込んでいた。ガルディアのエドワード王子のような「正しい王子の姿」とは対極にある、混沌から生まれた若き王の姿がそこにはあった。威圧的な姿とは、違いユージンの内心はこうだ。
(……俺がちょっと休暇に行っただけで、なんで国宝級の部屋がこうなるんだよっ!頼むからガルディアのおっさんたち、早く帰ってくれ……それにしてもこの傷だらけの柱、一体だれが直すんだ?)
一方、レティシアはユージンの指示どおり、一言も話さずにただ黙って玉座に座り、微笑みを浮かべている。ユージンは、顔色も変えず、暴君の演技を始めた。
「……見ての通りだ。この国にはもはや貴族たちが期待したような『古き秩序』など残っていない。柱一本、床石一つに至るまで、俺の機嫌一つでこうなるぜ」
ユージンは使節団の方へ一歩踏み出し、床の亀裂を指差した。彼らは思わず息を呑む。
「……さて、この傷跡が何に見える?我が王への不敬か?それとも内乱の兆しか?……違うな。これは、俺の『退屈』が形になったものに過ぎない……少しやりすぎたかもな」
オーギュストやモランの無茶ぶりとレティシアに辞職願を奪われたという全く別の怒りで、ユージンの身体からゼノスの面影がうっすらと浮かび上がっている。
「貴様たちがこの国を『弱体化した』と侮ってやってきたのなら、それは間違いだ。__弱体化ではない。俺が牙を隠すのをやめただけだ。これ以上、俺の平穏を邪魔するつもりなら、次はこの瓦礫の中に、ガルディアの旗を混ぜることになるが……構わないんだな?」
使節団は本来の目的を遂行することもなく、命からがら、逃げ出していった。
レティシアはまた別に感動していた。普段はすっかり自分に振り回されているユージンが、他国を相手にこれほどまでに傲岸不遜に、かつ圧倒的な強者として振る舞う凛とした姿。彼女にとってそれは(私だけが知っている彼の優しさ)とのギャップであり、(この男こそが私の隣に立つべき唯一の王だわ)という確信を深めさせたのだった。
モランはやはり、かつての王の姿をユージンに重ねており、オーギュストは「してやったり」という含み笑いを裏で浮かべていた。




