2 帝王教育:オーギュスト 剪定の論理
「ユージン、庭の木を美しく保つには、枯れ枝を真っ先に落とさねばならん。……それは木への慈悲だ」
オーギュストは、モランとユージンを寝所に呼びつけ彼に対して帝王学の享受を開始した。
「成程……養成所の経営でも選別(試験)を行って、『やる気のない不合格者は早めに帰してやる』という事ですね?その方が本人の再就職も早くできるというもの。そうか!その方が効率的ですね。うむ」
ユージンは全く違う意味で理解している。
(役に立たない弱者は、国家という大樹の為に迷わず切り捨てろ……か。まあ、オーギュストはゼノスの思想に近いものがあるな)
モランは、横で黙って頷く。三者三様、その中でもユージンは、あくまでも養成所に帰るつもりで話を聞いていた。
「……では、ユージンよ。今からガルディア視節団の前で、お前にその『剪定の論理』を実践してもらうためのリハーサルを始めよう」
「は?……えっ?……リハーサルって?」
驚くユージン……彼はあくまでもオーギュスト達の真意を全く理解していないのだ。
「お前にはこれから、このロドニアをワシから盗んだ『冷酷無比な魔王』を演じてもらう」
「はぁ?」
(『演じる』って……どういう事だ??)
ユージンは訳が分からずパニック状態である。オーギュストとモランはユージンの再就職から、この機を狙っていたのかもしれない。
「魔王……って一体なんですか?私は騎士です。役者ではありません……第一、レティシア姫様が次の継承者でしょう?」
「……『あれ』ではダメだ……ユージン、お前が一番よく知っているはずだ。『あれ』は『お飾りの女王』にもなれないかもしれん。フィリップのように……」
以前ユージンがロザリンド一派を一掃した時に、彼女はオーギュストの息子フィリップを後継者に立てて国家転覆をはかった経緯がある。今度はユージンがレティシアを立てて同じことをするという筋書きなのだ。ユージンは即答した。
「いやいや、お断りします……そうでなくとも俺は約束通り、養成所に帰るつもりです」
「今は、そういうことを議論している時間は無いのだ。ユージンよ……ロドニアの弱体化を聞きつけた周辺諸国が騒いでおる。現にガルディア側から使節団を送るとの知らせが届いておるのだ」
オーギュストはシーツから突き出た痩せた手で、ユージンの腕を掴んだ。
「……いいか。話をよく聞け。この国を盗んだのはお前だ……ゼノスの血を引く、冷酷無比な魔王だ。……使節団(ガルディアの泥棒ども)が来たら、お前の力で彼らの魂を焼き尽くし、支配者の席が何処にあるのかを教えてやるのだぞ」
「いや、陛下……俺がやりたいのは『盗国』ではなくて『辞職』なんです……養成所に帰って……」
「黙りなさい……ユージン殿‼」
いつになく厳しいモランの怒声が響いた。
「では、自分で公表したらどうです?ユージン殿は、王室に愛想を尽かして国を捨てたと……一度逃げ帰られた貴方ですから……容易いことでしょうな」
(……ダメだっ、こいつらは話が全く通じねえ!片方は国を押し付けようとするタヌキジジイ、もう片方はゼノスの絶対服従の家臣だった男……俺が『剪定』してやりたいのはお前らのほうだよッ‼)
暫くの沈黙の後……ユージンは低い声で話した……この先、何を言ってもこの二人には無駄だろう。
「……良いでしょう。……やりますよ、やってやるよ、『魔王』役を」
ユージンは、羞恥心と怒りが限界を超えて、黄金の魔力が溢れ出すのを感じていた。消えていた刺青がうっすらと浮かび上がる。
「モラン……『あれ』(レティシア)を女王の椅子に座らせておけ。使節団が来たら、俺が『魔王』としてそいつらの人生を最短ルートで『完結』させてやる。……オーギュスト王よ、アンタが教えた『剪定』だ。……一人残らず俺の視界から不合格者を消し去ってやるよ。話はそれからだ」
ユージンのこの言葉とは裏腹に彼が考えていたことは、(さっさとこの問題を解決してとっとと辞職してやる)
という絶望的な願いであったのだった。




