13 短い謝罪
「どうするんだ‼ ユージン、お前のせいだぞ……この大バカ者がっ!」
怒鳴っているのは現ロドニアの主、オーギュストである。その王冠は右に曲がり、自慢の髭も恐怖と焦燥で激しく震えている。
「あの子が……レティシアが、エドワード殿下を『地下の物置にでも放り込め』と叫びながら、近衛兵に剣を抜かせているんだぞ!国際問題どころか、明日にはガルディア軍が攻めてくる!」
「……陛下、落ち着いて下さい。声が大きいです」
ユージンは俯き髪をかきあげながら、淡々と、しかし重苦しい威圧感を無意識に漂わせながら答えた。その隣で山積みの書類を静かに整理する男__モランが深く長いため息を吐いた。かつて軍神ゼノスの過酷な軍務作業を支えた、今のユージンをも支える唯一の理解者だ。
「……ユージン様。今回ばかりは陛下に同意せざるおえませんな。貴方の不用意な『エドワード殿下とお幸せに』は、あの執着心の塊のような王女殿下にとっては、もはや火薬庫に松明を放り込むようなものですぞ」
「モラン、お前まで……。俺はただ、この山のような事務仕事を引き継ぎ、王女の子守をだな、あいつの大好きな『絵本のような王子様』に……」
「それが一番の逆鱗に触れるのだとなぜ分からん!」
オーギュスト王が机を叩いて詰め寄る。
「いいか、ユージン。エドワード殿下は『光の王子』と呼ばれておる。彼が地下牢の湿気とカビに耐えられるようなタマじゃない。彼に何かあれば我が国は終わりだ。……頼む……お前のその……なんだ、『ゼノス譲りの力』でせめて騎士たちだけでも止めてくれ!」
部屋の外では、いつもの静かな王宮ではなく大騒ぎである。役人たちは集まって会議を開き、対ガルディア軍対策に躍起になっている。レティシアの命を受けた騎士たちはエドワードを地下牢に入れたはいいが全員の顔は土気色だ。
「王子に傷一つ付けたら戦争になるぞ!」
「しかし、王女の命に逆らえば、今度は俺たちが地下牢行きだ!」
ガストンは、こっそり地下牢に向かいエドワードに非礼を詫びていた。
「エドワード様、事態が収拾するまでここで暫く避難していただくのが最良の選択です。ここなら安全です。すぐにお迎えに上がりますゆえ」
毛布と食料を差し入れる。彼もレティシアの我儘ぶりを知る一人である。
(ユージン……まさかお前がやらかすとはな)
王宮で働く全職員が、オーギュスト王の私室のドアを見つめ祈っていた。文官たちはもはや神頼みではなく、『ユージン頼み』だ。
(ユージン様……早く、早くあのお方を鎮めてください)
侍女たちの間では、全く違う噂話が飛び交っていた。
「ユージン様がエドワード王子とレティシア王女様の仲を嫉妬されて喧嘩の末、姫様を突き放したらしいわよ」
「それでエドワード様をユージン様が投獄したの?」
「……二人だけで愛の逃避行すればいいのにね」
「それであの爆発⁈情熱的すぎる」
事実とは真逆の超展開ロマンスとして噂が広がってゆく。
オーギュストが無茶苦茶な解決策を提案した。
「ユージン!今すぐレティシアをエドワード殿下の目の前に連れて行って、『これは俺の女だ』と抱きしめろ!それで、事態は丸く収まる!」
「出来ねえよっ!そんな芝居は嫌だッ!」
ユージンも深い絶望の淵に立たされていた。
ユージンは政治家として有能ですが、恋愛としてはポンコツです。




