14 短い謝罪2
「ユージン様、いい加減に往生際を決めなされ」
オーギュスト王の怒鳴り声が響く中、モランだけは至極冷静に、しかし有無を言わせぬ圧を込めてユージンを見据えた。
彼は手元の書類をトントンと整えると眼鏡の奥の鋭い瞳を細める。
「……かつてのゼノス殿下は戦場でも政の場でも、グダグダと見苦しい言い訳を並べる家臣を最も嫌っておられた。理屈をこね回して己を正当化する者は、その場で一刀のもとに切り捨てられたものです」
モランは一歩、ユージンに歩み寄った。その足取りは、かつての「軍神の懐刀」としての重みを湛えていた。
「貴方もその血を引く者。言い訳など、貴方の誇りが許さないはずだ……ましてや、相手はあのレティシア殿下ですぞ?あなたがどれほど理路整然と『エドワード王子との婚姻の利点』を説こうとしたところで、あのお方の耳には届きません……むしろ火に油を注ぐだけです。」
「……だが、モラン。俺はただ総合的に見た判断としてだな……」
「それが言い訳だと言っているのです」
モランはユージンの言葉をぴしゃりと遮った。
「いいですか。必要なのは、政策の転換でも、外交上の配慮でもない。『ごめん』。その一言だけでいいのです。余計な飾り言葉も、状況の説明も一切不要です。ただ一言でいいのです。あのお方の目を見て謝りなされ」
モランはユージンの背中を、まるで戦場へ送り出すかのように強く叩いた。
「……かつてゼノス陛下が、ただ一度だけ、戦を止めるために頭を下げられた時のように。ユージン様、貴方にしか出来ぬ『決断』をなさい。……さもなくば、この王宮は今後どうなりますか分かりません」
「……分かった……行ってくる」
ユージンは、まるで断頭台へ向かう戦士のような悲壮な決意を固め、重い腰を上げた。
「陛下、ガルディアの言い訳の書面は、このモランが『我が王宮の痴話喧嘩に仲裁に入ったエドワード様が不運にも巻き込まれた』という事で事務処理しておきましょう」
モランの不敵な笑みに背中を押され、ユージンは狂乱の渦巻く廊下へと踏み出していった。




