Ep.7 《ペンタクルベース》 ― 五領の中枢
暗転していた視界が開く。
どうやら初期地点は、何かしらの建物の中らしい。視界の端には、現在いるエリア名と思われる表示が浮かんでいた。
《ペンタクルベース 中枢域》
エーテルはその名前を見て、妙にしっくりくるなと思った。五行思想を表す図としてわかりやすい五芒星と、基地を意味する言葉を合わせたような響きで、この世界の最初の場所として違和感がない。
中枢域には、まだ大勢のプレイヤーがいた。ゲーム開始直後で、これから何をするか話している者。ステータスを確認している者。友人を待っているのか、静かに中空へ視線を動かしている者。視界の端ではチャットログが次々と流れていく。
「うおおお、敵つえぇ! あれが初期エリアの敵とかマジかよ!」
「金属性って地味じゃね? 何ができんの?」
「なぁ……俺ってさ、もしかして想像力ないのかもしれん」
「どこにいるのよ全く、も~!!」
「未所持のマイナス補正、かなりきついかもなぁ」
あちこちで声が飛び交い、そのぶん視界に入るのも人、人、人だった。
始まったばかりのゲーム特有の空気がある。これから何が見られるのか、何ができるのか、そんな高揚がそのまま場に満ちていた。こういう熱気を、視界でも音でも体で受け取れるのは、リリース日ならではだろう。
エーテルは小さく苦笑して、ひとつ息を吐いた。
少し気になることがあり、動き出す前にステータスを開く。
名前 : エーテル 種族 : 鬼人
役職 : 『十二影座』 双影座 レベル : 1
相生 : 主属性 金 副属性 水 相剋 : 主属性 金 副属性 木
魔法系統:「金」・「雷」・「水」・「氷」・「木」・「風」
経験値 : 0/200 SP : 0
筋力 : 15(3) 頑強 : 15(3)
柔軟性: 10(2) 魔力 : 12(4)
精神 : 10(2)
やはり、表示項目が増えていた。
追加されているのは、【相生】【相剋】、役職、レベル、魔法系統、経験値、SP、それと基本ステータスの後ろについている数字。
経験値が0/200なら、200でレベルアップするのだろう。SPはおそらく未使用のポイント。括弧の中の数字は、レベルアップ時に自動で加算される値と見てよさそうだった。さっき説明を受けた内容とも噛み合っている。
それから、もうひとつ気になるものがあった。
というより、かなり気になる。やたらと点滅して、存在を主張しているアイコンがある。
ダイレクトメッセージらしい手紙のアイコン。その右上に小さくついた数字は五だった。
誰からかは、考えるまでもない。
《Elemental Shadows》へ誘ってくれた友人。あの人以外に思い当たらない。
今どきのVRゲームでは、VR機器側で友人登録している相手なら、同じゲーム内にいる限り、キャラクター名がわからなくてもメッセージのやり取りができる。その機能で送ってきたのだろう。
もちろん、別のゲームをしている時や、急ぎではない内容まで何でも届くわけではない。そこはちゃんと切り分けられている。
エーテルは手紙のアイコンへ意識を向けた。
ひとつは《Elemental Shadows》運営からだった。開いてみれば、プレイへの謝辞など、ごく当たり障りのない内容だ。
残る四つは、やはり友人からだった。差出人名はマッチー。たぶんアバター名だろう。
『もう入った?私さっきキャラ作成終わったよ~!』
『もしかしてまだログインしてない? でもメッセージ出来てるって事はゲーム自体はしてるんだよね? それとも今めちゃくちゃ集中してる感じ~?』
『わたし一人で「うわ~!」ってなってるんだけど。……ちょっとさみしくなってきた~』
『もう知らないもんっ! せっかく最初から一緒にやろうと思ってたのに~! 合流ポイント教えてあげないからね! ……来たらちゃんと迎えに行くけどさ~!!』
読み進めるうちに、思わず苦笑が漏れた。
送り主は、朝比奈真智。小さい頃からの友人だ。ゲームではよくマチルダのような名前をつけていたが、今回はマッチーにしたらしい。
ぱっと思い浮かぶのは、明るくて人懐っこくて、寂しがりやなところだ。怒るのもあまり上手くない。そのまま文面に出ている。
このまま少し放っておけば、もっと可愛い反応が見られそうだな、と一瞬だけ思う。けれど、もう読んだのに何も返さないのはさすがに気が引けた。
エーテルは返信を決めて、思考入力で文を作る。
『返信遅れてごめんね。今アバター作り終わって中枢域に着いたところだよ』
ひとまずこれでいいだろうと、エーテルはメッセージUIを閉じた。




