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剋生の孔雀  作者: 氷炎
新しい世界 定めた目標

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Ep.6 エーテル ― 白銀の魔導

 


「ふぅ……我ながら、かなり良いアバターになったかな」


『完成おめでとうございます。……お疲れのところ恐縮ですが、双葉様は『十二影座』に就くことへ同意されているため、『十二影座』アバターの作成がまだ残っております』


「……そうだったね。二つ作らないといけないんだった」


『『十二影座』アバターの作成を終えると、残る項目は使用武器のみとなります』


「そっか、武器も決めないとなんだよね。……まあ、とりあえず先に『十二影座』アバターだね。ひとつ聞きたいんだけど、種族って変更できるの?」


『はい。種族の変更も可能です。ですが、ステータスはメインアバターで選択した種族のものが適用されます』


「そっか。ありがとう。種族変更もできるのか……どうしようかな。うーん……種族は変えずにいこう。変えるところだけ変えて、メインアバターとは印象が違う鬼人にしたいな」


 そう決めて、双葉は『十二影座』アバターの作成へ移った。


 今度の基準に置くのは、メインアバターの金と水ではない。『十二影座』側で使う風と雷。その二つからイメージを組んでいく。


 頭の中に浮かべたのは、嵐をそのまま纏ったような鬼人だった。


 まず肌の色を変える。嵐雲を思わせる淡い灰青色にすると、それだけで印象が大きく変わった。


 髪は腰の上まで届く青黒。束ねず、そのまま流す。風の形をそのまま残すようなほうが、今のイメージには合っていた。


 瞳は薄い紫灰色にした。瞳孔は縦に裂けた形にする。静かなまま、どこか人外じみた印象が残る。


 角は一本ではなく、左右対称の二本角へ変える。やや後ろへ流れる滑らかな形。色は艶を抑えた黒で、こちらにはグラデーションは入れない。


 紋様も変えた。両腕の外側には細い風裂線。背中の中央には、雷に裂かれた痕のような紋を置く。


 装いは深い墨色と暗灰を基調にした軽装にした。布を主体にした、防風を意識した作り。前合わせの短衣に、脚部を守る軽い装甲。両腕には腕甲を加える。


 メインアバターのように力を内へ収めた姿ではない。目の前に立つ鬼人は、吹き荒れるものをそのまま形にしたような雰囲気を帯びていた。


「……よし、できた。あとは、武器だね」


『おめでとうございます。それでは、初期武器一覧を表示いたします。メインアバターと『十二影座』アバターで異なる武器を使うこともできますし、同じ武器を使うことも可能です』


「うん、よろしく。……って、多いね」


 一覧には、片手剣から大剣、細剣、槍、弓まで、よく見る武器種が並んでいた。それだけではない。鉈や鉄扇、鎖分銅のような、もっと癖の強いものまで揃っている。


 双葉はその中から、メインアバターには打刀を選んだ。片手でも両手でも扱える標準的な刀で、攻守の偏りが少ない。魔法との合わせ方もしやすく、立ち位置を大きく縛られにくいのがよかった。


 『十二影座』アバターには双剣を選ぶ。風と雷から連想した時、頭に残ったのは、間を空けずに畳みかけるような攻撃だった。選んだのは短剣二本ではなく、二振りの片手剣だ。


 現実なら、そもそも振るだけでも難しい武器だろう。けれど、ここはステータスのあるゲームの中で、しかも鬼人は筋力に寄った種族だ。扱うだけの土台はあるはずだと判断した。


『これで、メインアバターと『十二影座』アバター、両方の登録が完了しました。それでは初期設定の最後として、双葉様のアバター名を設定してください』


 ナナミの声に合わせて、作成した二つのアバターが目の前に並ぶ。背中合わせに立つ、二人の鬼人。どちらも、自分で作ったという感触がしっかりあった。


 胸の奥に、高揚感がじわりと広がる。


 この二つに共通するものは何か。そう考えた時、ひとつの単語が自然に浮かんだ。


「……決めたよ。わたしの名前は【エーテル】」


『了承しました、エーテル様。以上をもちまして、初期設定の全項目を完了いたします』


 ナナミの言葉を聞きながら、双葉は視界の端に表示された現実時間を見た。


 初期設定だけで、すでに一時間半が経っている。大半はアバターの細部を、ああでもないこうでもないと調整していた時間だった。けれど、そのぶん仕上がりにはきちんと満足できた。


 事前情報では、《Elemental Shadows》のゲーム内時間は現実の二倍で進む。現実世界の午前零時がゲーム内でも午前零時になり、現実で十二時間経てば、ゲーム内では一日が終わる計算だ。つまり、現実で一時間ならゲーム内では二時間進む。


 今なら、ゲーム内では三時間が経過していることになる。作成をすぐ終えたプレイヤーよりは、少し出遅れているのだろう。けれど、その時間を惜しいとは思わなかった。


 それに、リリース初日は特別設定で、翌日の現実時間午前十二時までは、ゲーム内が昼のまま固定されると事前に告知されていた。なら、向こうの世界ではまだ日が高いはずだ。


『では、操作するアバターを選択してください』


「うん。メインアバターでプレイするよ」


『了承いたしました。メインアバターへの意識同期を実行いたします』


 ナナミがそう告げた直後、双葉の身体が光の粒へ崩れていく。


 その途中で、意識が一瞬だけ薄くなる。次に感覚がはっきりしてきた時、双葉はいつの間にか閉じていた目を開けた。視界の端には、ナナミの姿がある。


 まず手を軽く握って、開く。もう一度繰り返す。自分の身体を動かしている時と比べて、違和感はほとんどない。けれど、それとは別に、体の内側へ大きな力が収まっている感覚があった。


 画面の前でコントローラーを握るのとは、まるで違う。これがフルダイブゲームなんだと、感覚そのものが先に教えてくる。


 ひと通り動かせることを確かめてから、双葉は振り返った。


 そこには、『十二影座』アバターが立っていた。同じタイミングでこちらを振り返る姿に、少しだけ胸が鳴る。


『《Elemental Shadows》内でご不明な点などがありましたら、お気軽に私へ呼びかけてください。随時、お答え可能な範囲で対応いたします』


「ありがとう、ナナミ。よし、いこう」


 《Elemental Shadows》の中で、この二つのアバターを通していろいろなものを見ていく。


 それが、エーテルの新しい冒険の最初の一歩になった。



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