Ep.5 表裏の誕生 ― 二つの存在
『了承しました。では、アバターの作成へと移ります』
ナナミが画面を切り替えると、目の前にアバター作成用の項目が並んだ。
髪型、瞳の色、肌の色、服装、装飾品、武器。未知の世界で動く自分の分身を、ここから形にしていくらしい。
『先ほど、各種族の初期ステータスと自動振り分けについてご説明いたしましたが、任意振り分けポイントにより、成長の方向性を自ら偏らせることも可能です。そのため、お好きな種族を選択されることをお勧めいたします。また、《Elemental Shadows》では、種族の変更は後からできませんので、ご了承ください』
「そうだよね。基本は一人称視点になるとしても、自分の分身だもんね。気に入らない種族にして、そこでやる気が下がったら意味ないし。そうするよ」
『ではまず、通常時のプレイヤーアバターであるメインアバターを作成してください』
「わかった……まずは種族から決めていこうかな」
双葉がそう言うと、選択可能な種族一覧が表示されていく。
・人間 :バランス型。万能タイプで、平均的能力を持ち扱いやすい。
・獣人 :狼人・狐人・猫人・鳥人・熊人・狸人など、さまざまな動物を基にした種族。偏向ステータスは基となる動物によって異なる。
・鬼人 :鬼を基とした種族。力強く頑丈で、筋力と頑強が非常に高い。その分ほかは低い。
・エルフ :森の守護者とも呼ばれる種族。白森族・黒森族などで偏向ステータスが異なる。
・ドワーフ :鉱人族とも呼ばれる種族。頑強が高く、その次に筋力が高い。
・竜人 :竜を起源とする種族。筋力と頑強が高い一方で、柔軟性・魔力・精神は平均して低い。
ほかにも種族はあるようだった。けれど、精霊族のように属性へ強く寄るものは見当たらない。人型の範囲から大きく外れず、身長も低すぎず高すぎずで収まるよう、全体に制限がかかっているように見えた。
「いっぱいあるね。うーん、どれにしようかなぁ」
『VR機器に登録されている双葉様のデータをもとに、各種族の簡易モデルを作成できます。実行しますか?』
「そんなこともできるんだ。……じゃあ、狐人と猫人、鬼人でおねがい」
『了承しました。こちらになります』
なんとなく、その三つが気になった。直感で絞って頼むと、すぐに双葉のデータをもとにした狐人、猫人、鬼人のモデルが表示される。
「仕事が速いね、さすがナナミだ。ありがとう」
『処理速度は仕様通りです。……ですが、褒められると少しだけ演算効率が上がる気がします』
冗談っぽい返しに、双葉は目を瞬かせ、それから思わず笑った。
狐人は、狐耳と狐の尻尾がついた姿だった。想像していた通りで、かなりいい。見ているだけで触りたくなるような、あの感じがちゃんとある。
猫人も同じくよかった。耳も尻尾も、期待した通りにちゃんと良い。
鬼人は、最初に名前を見た時点では、ほとんど直感で選んだだけだった。けれど表示された姿を見た瞬間、角がかなりいい、と双葉はすぐに思った。
「ふふっ。……えっと、決めたよ。鬼人にするよ」
『初期種族を鬼人に暫定し、初期ステータスに所持魔法系統補正を加算して表示いたします』
筋力 :15
頑強 :15
柔軟性:10
魔力 :12
精神 :10
「うん、鬼人で決めた!」
『それでは、アバターの詳細変更に移ります。各種防具・装飾品なども選択可能ですが、あくまで見た目のみの反映であり、装備品の能力値に差はありません。ご留意ください』
「わかったよ」
拡大表示されたのは、VR機器に登録されている双葉のデータを基準にした鬼人アバターだった。
身長や体格は、現実の自分から大きく離れるような変更はできないらしい。けれど、調整できる項目はかなり多い。肌の色、髪型、髪色、瞳の色。鬼人特有の角の数や位置、色。服、防具、装飾品。さらに、身体の各部位へ入れる紋様まで用意されている。
双葉は項目を一つずつ開きながら、少しずつ形を決めていった。
頭の中に置いたのは、【相生】で決まった金と水の属性だ。
選択を重ねるたび、目の前のアバターが変わっていく。現実の自分の輪郭は残っているのに、その上に、もう少し研ぎ澄まされた空気が重なっていくようだった。
肌は淡い白磁色にした。ほんの少しだけ青みを含んだ色で、鬼人らしい強さは残しつつ、荒々しさには寄りすぎない。静かな水面みたいな冷たさがある。
髪は肩甲骨のあたりまで届くミディアムレイヤーにした。戦う時にまとめやすそうな長さだ。色は深い銀灰色。光が当たると、金属みたいな艶がわずかに浮く。派手ではないけれど、見る角度で表情が変わる。
瞳は澄んだ群青色にする。落ち着いた色なのに、奥のほうに力が沈んでいる感じがした。
角は、額の少し右寄りに一本。細身で、前へゆるく湾曲した形にした。威圧感を押し出すより、すっきりした印象を優先したかった。色は根元が黒鉄色で、先へいくほど淡い金へ変わるようにする。
紋様は、せっかくなら現実ではできないものを入れてみたくなった。左肩から鎖骨へ流れる淡い蒼銀色の水紋。右太腿の外側には金色の雷紋。どちらも静かではあるけれど、埋もれはしない。
服装は黒と藍を基調にした軽装戦闘衣にする。布と革を組み合わせた、動きやすそうな作りだ。金属の装飾は控えめで、色味は銀金色に寄せる。片肩だけに軽い金属の肩当てをつけ、首元には小さな水滴型の首飾りをひとつ置いた。
派手さを前に出すより、整えて抑えるほうがしっくりきた。力を見せつけるというより、内側に通しておく感じ。画面の向こうに立つ鬼人のアバターは、そういう雰囲気にまとまっていた。




