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剋生の孔雀  作者: 氷炎
新しい世界 定めた目標

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Ep.3 アンケート ― 与えられるもの

 


『準備はよろしいですね? それではアンケートを開始します。各設問にお答えください』


「……よし、やるしかないか」


 双葉は少し緊張したまま、目の前に浮かぶパネルへ指を伸ばした。


 答えをひとつ選ぶたび、視界の右端にある進行バーが少しずつ伸びていく。この世界での動き方に、そのまま繋がる選択だと思うと、鼓動がわずかに速くなった。


『落ち着いてください。慎重に、ですが直感的に答えるほど、双葉様の傾向が正確に反映されます』


 ナナミの声は変わらず淡々としている。それでも、その落ち着いた調子は妙に耳に残った。


 双葉は呼吸を整え、表示される質問を順に読んでいく。行動の癖や物事の選び方、何を大事にするか。答えるたび、自分のことを少しずつ言葉に直しているような感覚があった。


「こんなに自分の性格を分析するのって、少し恥ずかしい……」


 思わず小さく笑う。けれど、指が選ぶ答えはごまかしのないものになっていた。


 進行バーがほとんど端まで届く。終わりが近いのを見て、双葉の胸に今度は別の緊張が生まれる。


『もうすぐ終了です。最後まで落ち着いてください』


「うん」


 頷いて、最後の設問に答える。


 次の瞬間、パネルが静かに閉じた。


『アンケートを終了しました。……少々お待ちください。各種処理を実行中です』


 それまで説明を続けていたナナミが、そこで初めて待機を促した。双葉は思わず息を止める。理由のはっきりしない落ち着かなさが、胸の内でじわりと広がった。


 短い沈黙のあと、ナナミの声が響く。


『……厳正な処理の結果、双葉様は『十二影座』へと選出されました』


 その言葉が、胸の奥へ重く落ちる。


「え……私が……?」


 思わず漏れた声が揺れた。手先がわずかに震え、心臓が速く打つ。驚きと高揚と、不安が一度に押し寄せてくる。双葉は浅くなりかけた呼吸を意識して整えた。


「……ナナミ、とりあえず詳しい説明をお願い」


『説明いたします。双葉様が就くことができるのは、『十二影座』双影座です。『十二影座』は、ゲーム内で選ばれた十二名のプレイヤーで構成される特殊な役職です。イベント時には敵性存在として活動することになります。また、『十二影座』に就くことで特別な補正を受けることができます』


「『十二影座』の、双影座。イベント時の敵性存在……特別な補正……」


 口に出しても、まだ実感が追いつかない。紹介ページで見て、少し引っかかったあの項目。その側に自分が立つことになる。理解はできるのに、気持ちはまだそこに届いていなかった。


『ただし、『十二影座』にはリスクも存在します。正体を看破された状態で、同一プレイヤーに二回倒された場合、そのプレイヤーに座を奪われる可能性があります』


「リスクも……あるのね」


 双葉は小さく息を吐く。面白そうだと思った気持ちはまだ消えていない。けれど、軽く受け取れる話でもなかった。


『また、『十二影座』に就くには、アーカイブデータの使用に許可をいただく必要があります』


「……アーカイブデータの使用?」


『はい。『十二影座』に就くプレイヤーは、メインアバターと『十二影座』アバターの二つを保有することになります。イベント時には、その二つが同時に存在する状態となります。プレイヤーはどちらを操作するか選択し、選択されなかった側は、アーカイブされた行動データをもとにAIによる自動行動が実行されます。なお、イベント終了後には、自動行動したアバターの行動を視聴確認できます』


 双葉はそこで、規約の一文を思い出した。


[第二条。アーカイブ保存。

 プレイヤーの行動はすべてアーカイブ保存されます。アーカイブされたデータは、特定条件下において随時使用される場合があります]


 少し引っかかっていた文言の意味が、そこでようやく繋がる。


「なるほど。正体がばれないようにするための処置なんだ。イベントのたびに私だけいないってなったら、むしろ『十二影座』ですって言ってるようなものだし。そのために、行動のアーカイブが必要なんだね」


『はい。アーカイブデータの使用に同意されない場合、『十二影座』に就くことはできません。いかがいたしますか?』


 双葉はナナミを見つめたまま、ひとつ息を吸う。


 驚きはまだ残っている。けれど、ここで断るつもりにはならなかった。


「……わかった。了承するよ。私は『十二影座』に参加します」


 ナナミは静かに頷いた。


『決断、ありがとうございます。それでは、アンケート結果に基づき、双葉様が取得する属性を発表します。


 相生主属性は「金」、相生副属性は「水」。さらに、『十二影座』に就くことの特典として、相剋主属性「金」、相剋副属性「木」が付与されます。


 これに伴い、双葉様には金・雷・水・氷・木・風の六つの魔法系統が付与されます』


「え? 相剋も取得できるの? それじゃ、最初に相生を選んだ意味がなくなるの? 六つの魔法系統?」


 一気に情報が流れ込み、双葉の思考が追いつかなくなる。相生と相剋の両方に関わる補正。それに加えて、使える魔法系統も四つではなく六つ。さっきまで考えていた前提が、まとめて組み替わる感覚だった。


『いいえ、選択した意味はございます。双葉様を例にいたしますと、通常時は相生を軸に活動し、イベント時には『十二影座』特典で付与された相剋を軸に活動する、といった行動方針に繋がります』


「……なるほどね。補正は、メインアバターと『十二影座』アバターで違いがあるのかな?」


『補正に違いはございません。魔法効果への補正、【相生】による生産活動、【相剋】による採取行動。そのすべてが、いずれのアバターでも有効です』


「違いがないってことは……普段の行動にも気をつけないといけないんだ」


 双葉の頭の中に、すぐにひとつの危うさが浮かぶ。普通なら持っていないはずの属性を普段から使う。あるいは、生産も採取も不自然なくらい幅広くこなす。そういう積み重ねがあれば、違和感を持たれてもおかしくない。


『はい。正体の露見は、『十二影座』の座を失うことに繋がる可能性があります。どうかご注意ください』


「忠告ありがとう。気をつけるよ」


 特別な立場を得たのだと、そこでようやく少しだけ実感する。


 戦う時だけではない。普段の選び方や見せ方まで含めて、自分の行動に意味が乗る。その重さを、双葉は胸の内に静かに刻み込んだ。



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