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剋生の孔雀  作者: 氷炎
新しい世界 定めた目標

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Ep.2 初期選択 ― 不可逆の分岐

 


 光がやわらぎ、双葉が目を開けると、目の前に淡い光をまとった人型が浮かんでいた。


『双葉様、《Elemental Shadows》へのご参加ありがとうございます。私は双葉様専用サポートAI No.773。アバター作成と、用語や設定の解説を担当いたします』


 人型の口が動き、抑揚の薄い声がまっすぐ届く。


「専用サポートAI?」


 問い返すと、その存在は小さく頭を下げた。何もない空間に一人きりではなかったとわかって、双葉の肩から少しだけ力が抜ける。


「具体的には、どんな補助があるの?」


『初期地点内の案内、疑問点への回答、行動補助などになります』


 双葉は頷いた。言葉の返し方は整っているのに、ただ決まった文を流しているだけとも違う。受け答えの間合いに、相手がこちらを見ている感触があった。


「なるほど……じゃあ、今からは普通に話すね。それと、せっかくだから名前つけてもいい? 長い付き合いになるかもしれないし」


 少し考えてから、あえて敬語を外してそう言う。


『……名前、でしょうか?』


「うん。No.773なんだよね。……じゃあ、ナナミって呼んでいい?」


『ナナミ……了解しました。以後、その愛称を当AIの呼称として認識いたします』


「よろしくね、ナナミ」


 わずかな間を置いて、ナナミが頷く。


『こちらこそ、よろしくお願いいたします。それでは、アバター作成を進めますが、よろしいですか?』


「うん、おねがい」


『初期選択として、双葉様には【相生】と【相剋】のいずれかを選んでいただきます。この選択によって、使用する魔法への補正が変化します』


「わかったよ。続けて」


『この世界では、初期選択である【相生】と【相剋】が、以後の行動全体に影響します。魔法においては、【相生】は回復・支援・能力強化魔法に、【相剋】は攻撃・能力低下魔法に補正がつきます』


「簡単に言うと、支援と攻撃ってことだね」


 双葉は自分の胸元に手を当てたまま考える。これまで遊んできたゲームでは、いろいろな役割を触ってきた。その中でどちらが自分に合うかと考えれば、支える側の動きのほうがしっくりくる。


 この世界で自分がやりたいこと。その感覚に補正が乗るなら、選ぶ基準はそこだった。


『また、【相生】と【相剋】の選択後には、主属性と副属性を決定するためのアンケートを実施いたします』


「アンケート……具体的には?」


『双葉様の行動傾向や性格に関する質問に回答していただきます。その結果に基づいて、主属性と副属性が自動で決定されます。つまり、属性は双葉様が直接選ぶものではなく、アンケート結果によって割り当てられます』


 使いたい属性が、そのまま選べるわけではないらしい。


 事前に見ていた魔法まわりの説明を思い出しながら、双葉は少しだけ戸惑って口を開く。


「魔法は……全部使えるわけじゃないんだよね?」


『その通りです。未保持の魔法系統は使用できません。主属性と副属性に対応した魔法系統のみが行使可能となります』


「魔法系統の詳細って教えてもらえる?」


 ゲーム紹介では、この世界は五行思想に基づいていると書かれていた。けれど、実際はそこからもう一段細かく分かれているらしい。


『この世界の基本理念は五行思想に沿っています。ただし、魔法系統はそれを基に細分化されています』


「細分化?」


『はい。【相生】魔法系統として、光・土・水・金・木。【相剋】魔法系統として、火・闇・氷・雷・風が存在します』


 説明に合わせて、目の前に図が表示される。火には光と火。土には土と闇。水には水と氷。金には金と雷。木には木と風。見慣れたゲームの属性の感覚に近く、双葉は表示を追いながら納得した。


『細分化はされていますが、主属性と副属性に対応した魔法系統は、それぞれ獲得されます』


「じゃあ、たとえば主属性が火で、副属性が金だったら……使えるのは光、火、金、雷。その四つってことでいいのかな?」


『はい。その認識で問題ございません。補足いたしますと、細分化は主に現象の差異を扱うためのものです。光は火属性、闇は土属性、氷は水属性、雷は金属性、風は木属性に属しており、いずれも大元は五行属性に基づいています』


「うん、理解したよ」


 双葉が頷くと、ナナミはそのまま説明を続けた。


『それでは、続いて生産・採取行動についてご説明いたします。【相生】を選んだ場合は生産活動に、【相剋】を選んだ場合は採取行動に補正がつきます』


 表示された図が切り替わる。双葉は視線を動かしながら内容を追っていく。


 【相生】は、火が武器と革細工、水が魔法薬と各種道具、木が木工と服飾防具、土が金属防具と刻印術、金が装飾品と錬金術。


 【相剋】は、木が植物系素材、火が動物系素材、土が鉱石・金属系素材、金が魔法・特殊素材、水が海洋・水域素材。


 分類は多いが、図の並び方は見やすく、頭には入りやすかった。


『また、あらゆる行動において所持属性が影響します。生産・採取行動では、主属性に一致した行動は効率が向上し、副属性は標準値、未保持属性では効率が低下します』


「つまり、【相生】と【相剋】で、自分が得意になる行動の方向が決まるってことだね」


『その通りでございます。以上で、【相生】と【相剋】についての説明を終了いたします。いかがなさいますか?』


 説明がひと区切りつき、双葉は一度息を整えた。


 【相生】と【相剋】。


 最初の選択なのに、思っていたよりずっと重い。戦闘でどう動くか。生産をどう触るか。採取で何を拾っていくか。この先の遊び方の軸が、ここで決まる。


「うん……【相生】でいこう」


『以後、【相生】と【相剋】を変更することはできません。【相生】を選択でよろしいですか?』


「うん、【相生】でいいよ」


『了承いたしました。双葉様の初期選択を【相生】で確定いたします。以後、変更はできません』


 最初の段階で、ここまで先の方針に関わるとは思っていなかった。けれど、説明はちゃんと聞いたし、自分でも考えて選んだ。そこに迷いはない。


『それでは、属性決定のためのアンケートを実施いたします。お時間をかけて構いません。ご自身の直感を信じて回答されることを、お勧めいたします』


「わかったよ、ナナミ。ちょっと緊張するね」


 自分の輪郭を決めていくための選択が、いよいよ始まる。


 双葉は小さく息を吸い、胸の奥でふくらむ期待をそのまま受け止めた。



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