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剋生の孔雀  作者: 氷炎
新しい世界 定めた目標

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Ep.31 ストーン・シェルフ ― 新しい得物

  


 木衡門の内側まで戻ると、門脇の灯りに照らされた石畳の上で、マッチーが片手を上げていた。


「おかえり~」


「ただいま」


「大丈夫そうだね~」


「うん」


「よかった~。返信見て、木衡門まで来たほうが早いかなって」


 エーテルは門の外を一度だけ振り返った。灯りが届くのは木衡門のすぐ外までで、その先の樹々は輪郭だけを残して暗がりに沈んでいた。


「で、どうだった? 昼と夜で何か変わってた~?」


「敵は変わってなかったよ。ツタバインもリーフウルフもコケガードもそのままだったね」


「一緒なんだ~」


「うん。ただ、昼とは見え方が違うだけだったよ」


「へぇ~」


「でも、エメラルド・キャノピーはまだやりやすいかもね。視界は悪いけど、核が光って見えるから」


 マッチーが頷く。そこでエーテルは続けた。


「あと、もうPKがいたよ」


 マッチーの眉がわずかに上がる。


「もう?」


「二人組だったね」


「……無事だからここにいるんだろうけど、一応聞く。平気~?」


「平気。ちゃんと返り討ちにしたよ」


 エーテルの返答を受けて、マッチーは小さく息を吐いた。


「ならよ~し」


 軽く言ってはいるが、門の外へ向く目はさっきより細い。


「今日はこのままこっちでやる~?」


 エーテルは少し考えてから首を横に振った。


「私も経験値追いついて来てるし、先に武器買いに行かない? もう少しで、レベル3になるしさ」


 このまま行けば、レベルの上がるタイミングもほとんど揃う。二人ともそこは分かっていた。


「うん、そうしよ~。上がってから買いに行くより、先に買っておいたほうが楽だしね~。いこいこ~!」


 そうと決まれば早い。二人はそのまま中枢域の中央塔へと向かった。



 中央塔一階広間に入ると、マッチーが視線を巡らせた。中央の水晶柱が淡く光り、一階ではプレイヤーが行き交っている。


「で、二階ってどう行くの?」


 エーテルも中央の水晶柱へ目をやると、ちょうど上から降りてきたプレイヤーが魔導エレベーターを降り、別の人が入れ替わるように上へと運ばれていく。


「あの魔導エレベーターで上に行けるよ」


「へぇ、あれなんだ~」


 話しつつそのまま足場へ向かい、先にエーテルが乗り、マッチーも隣へ並んだ。足元の円盤が光り、視界の前に階層選択の表示が開く。


「二階で良いんだよね~?」


「うん、二階に売り買いできる場所があるよ」


 マッチーが表示に触れると、二人の身体がふわりと持ち上がった。



 上昇が止まり二階層に着くと、エーテルは少しだけ周囲を見回してから、装備窓口の方へ歩き出す。


「たぶん、こっちかな?」


「りょうか~い」


 装備窓口の前で足を止めると、二人は並んで表示を開いた。


 二人はまだ木貨と土貨しか持ってない。絞り込み検索をかけると、その範囲で買える武器の一覧が、UIに並ぶ。


 昨日の段階では少なかった武器も、一日経っただけでレベル3までの物が一通りリストに並んでいた。


「お~……ちゃんと武器屋だ!」


 マッチーがUIを指でなぞるたび、斧の形が切り替わる。刃の大きさも、柄の長さも、いま使っている初期装備とは見た目から違っていた。


「これ、持ち替えたら見た目も変わるよね~?」


「たぶんそうだね」


 エーテルも自分の表示へ目を落とす。


 並んだ打刀の中から、木属性のものを開く。刃の反り、柄の長さ、鍔の形。細部まではまだ分からないのに、初期装備と見た目も違い、ちゃんとした武器に見えるだけで、少し気持ちが引かれた。


「私はこれでいいかな?」


 名称:翠樹の打刀  アイテムレベル:3

 属性:木  攻撃力:25  耐久値 200/200


「わたしは……あ、これいいかも~!」


 名称:翠樹戦斧  アイテムレベル:3

 属性:木  攻撃力:29  耐久値 200/200


 マッチーの声が少し弾む。


 表示されているUIの中で斧を回し、横から見て、正面から見て、もう一度戻す。


「早く使た~い!」


「こういうの見ると、やっぱり早く使いたくなるよね」


 エーテルも小さく笑った。


 マッチーはそこで一度、確認するみたいにエーテルを見た。


「じゃ、これでいいかな? 防具はどうする~?」


「防具は今のところ大丈夫だと思うよ。錬金術ギルドのリーネさんが、レベル5刻みで性能が上がるって言ってたし、レベル5になった時に、一気に変えちゃお」


「さんせ~い!」


 二人揃って購入を確定すると、表示が一度明滅した。


 無事購入が終わり、所持欄へ追加された武器を見て、マッチーがすぐ声を上げる。


「新しい武器って嬉しいよね~」


「だよね。今すぐ使えないのが残念だけど、今日中には使えるようになるだろうから頑張らなきゃね」


 そう言って肩を揺らして笑う。


 エーテルも自分の所持欄に追加された打刀を見て、指先で表示を一度だけ開き直した。まだ装備はできない。けれど、レベルが上がれば使えるようになる。


「よし。準備はできたね~!」


「行くのはストーン・シェルフでいいかな?」


「うん、いいよ~」


 行く先も決めた所で、二人は土城門へ向かった。



 転移で土城門へ飛び、門を抜けた先、夜のストーン・シェルフは昼とはまるで違って見えた。


 昼は、段差と岩棚がそのまま露出していた。だが夜は、岩の縁だけが白っぽく浮き、そのあいだの落ち込みが深く沈んでいるように見えた。足場はある。だが、足場がどこにあるかは、昼のように一目では判断が難しいようになっている。


 マッチーが段差の先を見て言った。


「おぉ? 思ってたよりも見えにくいね~」


「だねー。魔法を起点にしてちゃんと処理していこうか」


 その直後、足元の砂礫が跳ね、スナモグラが地面を割って飛び出してくる。


 それを確認したエーテルは打刀へ手をかけるより先に声を走らせた。


「集水、球成、包囲、滞留。――《ウォータースフィア》」


 スナモグラの前に生まれた水球が、スナモグラを包み、砂を散らしていた勢いがそこで鈍った。半拍遅れて、マッチーが踏み込む。


「紫電よ、集まれ! この一撃に、電衝を! ――《ヴォルトインパクト》!」


 斧の刃元に雷が圧縮される。振り下ろされた一撃が命中した瞬間に紫電が弾け、スナモグラを岩棚へ叩きつけた。


 エーテルが間を置かず、打刀を返す。


「収束、硬化、鋭化。――《シャープエッジ》」


 刃の縁が細く光る。強化された一閃が核へ通り、スナモグラの小さな体が弾けるように散った。


「ナイス~!」


「マッチーもナイスだったよ。このまま一戦ずつ確実に戦っていこうね」



 次はイシガメが二体、岩棚の縁から押し出すように現れた。甲羅の輪郭が重く、正面からやれば時間を取られる相手だ。


 マッチーが斧を引き、短く息を吸う。


「火よ、宿れ! 刃に熱を、燃焼を! ――《ブレイズエッジ》!」


 斧の刃に赤い熱が走る。マッチーはそのまま一体の正面へ踏み込み、横から甲羅の縁を叩いた。焼けた匂いと一緒に、硬い殻の向きがわずかに開く。そこへエーテルが横から入った。


「収束、硬化、鋭化。――《シャープエッジ》」


 金の強化が乗った刃を、甲羅の隙間へ差し込む。硬い。だが、明らかに短い手数で済む。もう一体が押してくる前に、マッチーが身体を返した。


「紫電よ、宿れ! 刃に奔れ、雷鳴よ! ――《ヴォルトエッジ》!」


 今度は斧に紫電が走る。振り抜かれた一撃が二体目の甲羅を打ち、電気の走る音が短く鳴った。揺れたところへエーテルが踏み込み、返しの斬撃で首を狩る。



 一戦、二戦と重ねるうちに、二人ともすぐに感触を掴んでいった。


 昼は武器だけでも十分戦えていた。けれど、最初に魔法を一枚差し込むだけで、流れがきれいに整う。


 スナモグラが潜る前に《ウォータースフィア》で勢いを鈍らせる。イワウシが押してくれば、マッチーが《ブレイズエッジ》か《ヴォルトエッジ》を乗せた斧で横から崩す。ツチゴレムが再生へ入る前に、エーテルが《シャープエッジ》で核へ届く斬撃を放つ。


 魔法を挟むたび、次の一撃が通りやすくなった。昼より慎重に見ているのに、戦闘そのものは短い。



「私もレベルアップしたよ、おまたせ」


 エーテルが言うと、マッチーも笑った。


「お~おめでと~! 早速装備代えよ~!」


 マッチーは一足先にレベル3へ上がっていたが、先に装備を切り替えず、エーテルのレベルアップを待ってくれてた。


 二人はそこで先に買っておいた武器へ装備を更新した。エーテルは翠樹の打刀を抜いて一度だけ振り、刃の走りを確かめ、マッチーも翠樹戦斧に持ち替え、肩の高さで軽く回す。


「ちょっと重くなったけど、良さそう! そっちはどう?」


「このこもちょっと重くなったけど、これくらいが使い勝手良さそうかな」


「さてさて、試し斬りだ~! いこ~!」


 そのあと数戦して、新しい武器の差はすぐにわかった。


 レベルが上がってステータスが上昇した事もあるが、マッチーは一撃ごとの破壊力が目に見えて増し、相手をそのまま倒しきる場面が多くなった。


 エーテルも、前より刃が素直に通った。さっきまでなら浅く止まっていた切り込みが、そのままモンスターを断ち斬ることが増えた。


 二人で合わせた時の噛み方もよく、処理は目に見えて早くなった。



 新しい武器を試しつつ、奥へ進みかけたその時だった。


 重い音が、段差の向こうから響く。


 現れた個体は、さっきまで相手にしていたツチゴレムよりひと回り大きい、では済まなかった。肩から腕にかけての岩の厚みが違う。立ち上がるだけで周囲の小石が跳ねる。遅い。だが、その遅さごと押してくるような圧があった。


 マッチーが斧を下げたまま、小さく言う。


「これは、ちょっと違うね~。エメラルドキャノピーのあいつみたいな個体かな?」


「そうだね。もしかしたら、どのエリアにも徘徊型の強個体が居るのかもね」


 二人はすぐには踏み込ます、まず間合いの外をなぞるように動く。その動きを追うように、相手の腕が振り下ろされた。その一撃で岩棚の縁が砕ける。


 次は横薙ぎ。振りは大きく、範囲も見える。だが、振り終わった腕を戻す動きが速い。見た目ほど隙が大きくない。


 左右に分断するようにマッチーが横へ回り、エーテルはそこで短く息を吸った。


「帯電、収束、穿て、連なれ。――《スパークボルト》」


 一直線の雷が大型個体へ走り、その巨体へと直撃する。岩の表面が白く弾けた。動きがわずかに鈍るが、止まりはしない。


 そこで終わらせず、マッチーが一歩踏み込む。


「紫電よ、宿れ! 刃に奔れ、雷鳴よ! ――《ヴォルトエッジ》」


 斧に紫電をまとわせたまま、横合いから叩きつける。鈍い衝撃音が返る。大型個体の体勢が、ほんの少しだけずれた。


「おっも~い!」


「続けるよ!」


 エーテルも前へ出る。振り下ろしの戻りに合わせて半歩だけ入り、打刀を走らせた。硬いが、刃が通らないわけじゃない。だがツチゴレムみたいに、そのまま深くには刃が通らない。表面を削って、火花を散らしたところで、すぐに身を引く。


 エーテルが身を引いた直後、大型個体が大きく足を振り上げ、そのまま大地を踏みしめた。


 震脚。


 二人とも反射で下ったが、砕けた石が脛を打つ。距離を取り直したところで、マッチーが息を吐いた。


「攻撃しても、この体に似合わず隙が無いね~!」


「うん。見えてる隙に差し込むと危ないね」


 大型個体がこちらへ向き直る。踏み出しは遅い。だが一歩が重い。逃げるだけなら間に合う。詰め切られる速さではない。


 エーテルは相手の足元を見た。次の踏み込みに合わせて、また雷撃を放つ。


「帯電、収束、穿て、連なれ。――《スパークボルト》」


 今度は脚へ雷が走り、わずかに動きが鈍る。そこへマッチーが横から回り込み、斧を振る。真正面からはぶつけない。膝の外側を叩くと、巨体が一歩ぶんだけ流れた。


「崩せた~!」


「うん。押し切れないけど、止められなくはないね。収束、硬化、鋭化。――《シャープエッジ》」


 エーテルはその隙に合わせて懐へ入ると、打刀を脇の継ぎ目へ差し込む。


 硬い感触の奥で、さっきより少しだけ深く入った。大型個体の腕が持ち上がる。エーテルはそこで止めて下がる。すると、さっきまでエーテルが居た場所を巨腕が通り過ぎた。


 マッチーが相手から目線を外さないまま言った。


「時間はかかりそうだね~」


「うん」


 エーテルも短く頷く。


 雷で鈍らせ、横から体勢を崩す。振り終わりに一撃を通す。いまの一往復だけでは足りないが、手順は見えた。長くなる。消耗もする。けれど、倒し方が見えてきた。


 マッチーが小さく笑う。


「これ、続ければ倒せそうだね~」


「うん。たぶん倒せると思う」


 そこでマッチーが聞く。


「でも、こいつより先にあいつ倒した~い! なんか悔しい感じある!」


「私もそっちの方が面白いからそうしよ」


「やった~! ありがと~!」


 それで決まった。


 二人は攻撃をやめ、大型個体の攻撃範囲の外へ下がる。そのまま段差を一つ、二つと走り抜ける。


 もちろん相手は追ってきたが、二人に追いつける速さはない。そこまで確かめたところで、二人は土城門を目指し走り出した。



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