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剋生の孔雀  作者: 氷炎
新しい世界 定めた目標

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Ep.29 装飾品ギルド ― 必要なもの


 

 装飾品ギルドの中は、作業場らしい落ち着きがあった。見せる場所というより、手を動かして形にしていく場所だと分かる。


 奥の受付台には若い女性が一人いた。近づいてきたエーテルに気付くと、帳面から顔を上げすぐに姿勢を正す。


「いらっしゃいませ。初めての方ですね? 私は装飾品ギルド受付のミレイアといいます。ご用件を伺ってもよろしいですか?」


 エーテルは受付台の前で止まり、軽く頭を下げた。


「私はエーテルといいます。今日は装飾品の作り方について、少し確認したくてきました」


「承知しました。どのあたりが気になっていますか?」


「昨日、錬金術ギルドで説明を受けたのですが、装飾品の製作はどういった工程になっていますか?」


「でしたら、指輪の作成工程を例として、説明をしていきますが、よろしいですか?」


「はい、よろしくお願いします」


 ミレイアは受付台の上に置かれていた環状の部材へ指先を向けた。


「では、指輪はまず、主環枠に使う一次加工品を作ります。指輪ですと、金属環材などですね」


「指輪そのものではなく、先に環の部材を作るのですね」


「ええ。そこから一次加工品を二つ使って、指輪用の装飾品素体を作成します」


「先に土台を作るのですね」


「そうです。ただ、素体だけでは製品は完成しません」


 エーテルはミレイアを見た。


 環の部材を作って、素体を組めば終わると思っていたが、まだ先があるらしい。


「まだ必要なものがあるのですね」


「はい。完成には、別に二次加工品を使います。指輪ですと、二次留結材ですね」


 頭の中で順番を並べていく。金属素材から金属環材。金属環材を二つ使って指輪用の装飾品素体。完成した素体と二次留結材を合わせて完成。


「では、指輪用の装飾品素体に二次留結材を合わせて、完成になるのですか?」


「その通りです」


 ミレイアの後ろの棚にある細かな金具や環材は、ただ細工が細かいから置かれているのではない。完成までの途中で使うものなのだ。


「その二次留結材も、ここで作るのですか?」


「はい。二次留結材はここで作ります」


「では、指輪はここで最後まで作れるのですね」


「一次加工品は素材の種類によって各クラフトギルドが担当することが多いですね。一言に指輪といっても、金属であったり、木材であったり、様々な素材の指輪がありますよね? ですから、作るものによっては、一次加工品は別のクラフトギルドが用意することもあります」


 全部が全部、ここだけで終わるわけではない。だが、だいたいの流れは見えた。


「ここだけでは揃わないこともあるのですね」


「はい。工程ごとに使う道具も違いますから、必要なものに応じて作成場所も変わりますね」


 昨日聞いた錬金術の先に、「部材を作る」「素体を組む」「加工品を仕上げる」といった工程がある。


「なるほど。流れは分かりました。では、指輪を作るとしたら、何が必要でしょうか?」


「指輪ですと、まず素体作成に使う一次加工品に必要な素材と、二次留結材に使う素材が必要になります。それぞれに対応した属性硬貨も必要ですね」


 環の部材に使う分だけでは足りない。二次留結材の分も要る。しかも素材を集めるだけでは終わらず、属性硬貨も別に必要になる。


「一次加工品と二次留結材、両方を揃える必要があるのですね」


「はい。完成までを考えるのなら、その分の素材を用意する形になります」


「今の段階でも、作れそうなものはありますか?」


 ミレイアはエーテルの顔を見て、静かに答えた。


「手持ち次第ですが、この世界に来たばかりの異邦人の方ですと厳しいかもしれませんね」


 やわらかい言い方だったが、答えははっきりしていた。


 作成を進めていくにしても、いまの自分では作成途中で作業が止まることになる。


「……今の手持ちでは、まだまだ足りなさそうです」


「そうですね。まずは素材と属性硬貨を増やしてからの方が楽しめると思いますよ」


「分かりました。今日はこれで失礼したいと思います。お時間をいただき、ありがとうございました」


 礼を返すと、ミレイアはやわらかく笑った。


「いえ。また必要になったら、いつでもお越しください」


 入った時には、細かなものが多い場所だとしか見えていなかったが、今は違う。ここで何をしているのかが分かったぶん、いまの自分に足りないものが十分理解できた。



 装飾品ギルドを出ると、金錬領の夜気が頬に触れた。


 通りにはまだ人の流れが残っていた。灯りの下を横切る人影。閉じきらない店先からこぼれる光。少し離れた場所で重なる足音。昼より静かなはずなのに、止まっている感じはない。


 昼はもっと全体が均一に明るかった。建物も看板も通りも、同じ明るさの中でつながっていた。


 今は灯りのある場所から先に輪郭が立ち、そのあいだに影が沈む。人も建物も、明るい場所で姿を見せ、影へ入ると輪郭を落とし、また次の灯りの下で現れる。


「さてと、マッチーとの約束もあるし、行く場所は決まったかな」


『戦闘エリアですね』


「うん。エメラルド・キャノピーで経験値を稼ぐことにするよ。マッチーが来るまでまだ時間はあるだろうし、街並みを楽しもうかな?」


 水晶体の前で足を止め、行き先を選ぶと、エーテルの足元から光が立ち上がった。



 一瞬の浮遊感を感じ、浮遊感が収まる頃には、もう木衡領ギルド前に転移が完了していた。


 すぐには歩き出さず、エーテルは通りへと目をやった。


 昼に見た木衡領は、もっと明るかった。建物の色も、通り沿いの緑も、置かれた装飾も、まとめて木属性の領域だと目に入っていた。


 今は通り沿いの灯り、窓からこぼれる明かり、水晶の反射、そういう光のある場所から先に見える。


 光が当たった壁の縁、植え込みの葉先、柱に残る青緑だけが浮き、その外側に影が沈んでいる。



 ギルド前の石畳を踏み出し、木衡門へと向かう。


 夜になっても木衡領は止まっておらず、その動きのあいだをエーテルは門へ向かってまっすぐ進んだ。


 門に近づくにつれ、人の流れは少なくなっていく。装飾品ギルドに寄っていたこともあり、プレイヤー達はもう、エメラルドキャノピーで戦っていたりするのだろうか。エーテルの意識も安全地帯から、戦闘エリアへ切り替わっていく。


 エメラルドキャノピーは昼間でも視界が悪い場所ではあるが、ストーンシェルフと比べるとエメラルドキャノピーの方が、核という明確な弱点部位が、視認できるエメラルドキャノピーのモンスターの方が、断然戦いやすいから、エメラルドキャノピーを選んだ。


「よし。初めてのソロ戦闘だし、無理せず確実にだね」



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