表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剋生の孔雀  作者: 氷炎
新しい世界 定めた目標

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/26

Ep.24 ストーン・シェルフ ― 岩肌の資源



 岩棚をいくつか越えたあたりで、少し前まで戻っていた静けさは長くは続かなかった。


 段差の向こうで小石が跳ね、乾いた音が短く重なる。エーテルが視線を向けるより先に、マッチーが斧の柄を握り直していた。


「また来るね~」


「うん」


 次の瞬間、岩棚の縁からイシガメが二体、ゆっくりせり出した。その足元では砂が弾け、スナモグラが二匹、地面を破って飛び出してくる。さらに少し遅れて、奥の段差からイワウシの重い足音まで響き始めた。


「今度は多いね」


「いいよ、来なよ」


 先に飛び込んできたスナモグラ二匹を、二人は手早く処理する。


 エーテルが進路を切り、マッチーが横から叩き落とす。流れはもう身体に馴染んでいた。間を置かず追撃を入れ、足元を荒らす速い敵から先に消していく。


 続いてイワウシが二頭、段差を踏み越えて突っ込んでくる。


 二人は左右へ散った。それぞれ引きつけ、外し、すれ違いざまに崩す。重い相手だが、動きは単純だ。タイミングさえ外さなければ、処理に迷いはない。


 最後に残ったイシガメ二体は、正面で受け止めて横から叩く。前で止め、甲羅の隙間へ刃を入れる。崩し方が見えてしまえば、もう迷う相手ではなかった。


 戦闘が終わると、岩棚にまた静けさが戻る。マッチーが小さく息を吐き、斧を肩へ戻した。


「ちょっと慣れてきたね」


「うん」


 エーテルも短く返しながら周囲を見る。遠くの岩棚では、まだ砂が動き、小石が縁からこぼれ落ちていた。近くに気配は残っている。けれど次に何が来ても、もう十分対処できる。そんな感覚が二人の中にでき始めていた。


「まだいる」


「いいね。狩りっぽくなってきた」


 二人はそのまま、自然な流れで次の岩棚へ向かう。いくつか越える頃には、四種類それぞれへの動き方もかなり身体に馴染んでいた。


 スナモグラが飛び出せば進路を切る。イワウシが走れば引きつけて外す。イシガメは正面で止めて横を取る。ツチゴレムは急がず削る。


 声をかける量すら少しずつ減り、視線と立ち位置だけで次の動きが繋がるようになっていく。


 数戦のあと、岩棚の上にまた途切れた静けさが落ちた。今度の静けさは、最初の不気味さとは少し違っていた。何も分からない静けさではない。一度動き始めれば、またすぐ戦闘になると分かった上での短い空白だった。


 マッチーが斧を肩に乗せたまま、軽く首を回す。


「ここのモンスター、もうだいぶ掴めてきたね~」


「だね。個体ごとにレベル差はあるけど、動きが分かるとかなり楽だね」


 エーテルも息を整えながら、次に進む先へ視線を向けた。


 その時、岩棚の壁際で何かがわずかに光った。自然の反射にしては硬い、鈍い光だ。戦闘中なら見落としてしまいそうな、小さな違和感だったが、今の静けさの中でははっきり目につく。


 エーテルの視線が止まり、マッチーもその先を追った。


「……あれ」


「ん?」


 壁面の一部だった。砕けた岩の隙間に、周囲とは少し違う光の粒が混じっている。


 近づいてみると、ただの岩肌より表面が粗く、削れそうな筋がいくつも走っていた。自然に割れた岩ではない。何かを掘り出せるように、そこだけ脆くなっているように見える。


「採取ポイントかな」


「それっぽいね~」


 二人で並んで立ち、エーテルが岩肌を見上げる。完全に露出しているわけではないが、手を入れれば崩せそうな浅さだった。表面の光り方も、よく見ると一様ではない。


 奥に何かが埋まっているのか、わずかな色の差が筋の間に覗いていた。岩棚域の地形は乾いているのに、この部分だけ妙に層が細かい。削れば別のものが混ざって出てきそうな、不自然さがある。


 エーテルは初期配布の採取具を取り出した。武器より小ぶりで、岩肌へ当てるための簡素な道具だ。握り直して重さを確かめ、短く言う。


「やってみるね」


「どうぞ~」


 最初の一打が岩へ入る。硬い音と一緒に、小さな破片が崩れた。岩肌の奥が少しだけ露出し、その直後、視界の端に取得ログが流れる。


【礫芯石 ×1】


「出た」


 エーテルが小さく言う。マッチーはログより、崩れた岩肌のほうを見ていた。


「何が取れたの~?」


「礫芯石」


「石っぽい名前だね~」


「うん。たぶんそのまま岩系素材だと思う」


 採取ポイントはまだ淡く光っていて、まだ掘れそうだった。最初の一打で削れた部分は浅く、奥に別の層が残っている。エーテルは少し角度を変え、今度は筋に沿うように採取具を打ち込んだ。


 さっきより深い音が返る。表面が一気にひび割れ、崩れた部分の奥から、今度は白っぽい欠片が覗いた。


【埋水貝 ×1】


「今度は埋水貝」


「貝もあるんだ~」


「そうみたいだね」


 エーテルは崩れた部分を覗き込む。岩肌の中に、石だけではなく別のものも混ざっているらしい。


 乾いた地形なのに貝が出る。ということは、このあたりの層には水辺由来の堆積物も含まれているのかもしれない。少なくとも、見た目通りの単純な岩盤地帯ではなさそうだった。


 マッチーも覗き込みながら言う。


「同じ場所から別のもの出るんだね~」


「うん。一種類だけじゃないっぽい」


「採取ポイントごとに傾向とかもあるのかな?」


「あるかも。岩っぽい場所でも、何が混ざってるかは違う感じかな」


 エーテルは小さく頷き、もう一度だけ採取具を振り下ろした。三度目は、これまでより少し鈍い感触だった。硬いというより、内側で何かが割れるような音がする。


 表面の岩が崩れた奥から、くすんだ光を帯びた欠片が転がり出るように露出し、また取得ログが流れた。


【堆土晶 ×1】


 エーテルは採取具を下ろし、流れたログを見返す。


「礫芯石、埋水貝、堆土晶」


 読み上げるように呟くと、マッチーが軽く笑った。


「いろいろ出るんだね~」


「うん。採取ポイントでも、中に入ってるものは違うのかもね」


「見た目より、中身のほうが複雑なんだね~」


 崩れた採取ポイントの表面を見れば、もうほとんど取り尽くしたのが分かった。最初にあった鈍い光も消え、残っているのは割れた岩肌だけだ。


 インベントリに採取具を戻しながら、エーテルは周囲の壁面にも同じような筋や光がないか少しだけ目を走らせた。見つけやすいものではない。けれど慣れれば、遠目でも拾えるかもしれない。戦うだけじゃなく、こういう違和感を拾えるかどうかでも探索は変わりそうだった。


 奥の岩棚で、また小石が転がる音がした。さっきまで採取へ向いていた意識が、自然に戦闘へ戻る。


「じゃ、狩り戻ろっか」


「うん」


 エーテルが前へ向き直り、マッチーも斧を持ち直す。二人はそのまま、また岩棚の奥へ歩き出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ