表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剋生の孔雀  作者: 氷炎
新しい世界 定めた目標

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/26

Ep.23 ストーン・シェルフ ― 岩棚の魔物

 


 マッチーが斧を軽く持ち上げる。乾いた岩棚の上で、刃が白く鈍い光を返した。


「速いのからかな」


「うん。亀っぽいのは後でいいね。遅そうだし」


 エーテルが短く返した、その直後だった。


 地面が弾ける。


 飛び出してきたのは、細長い胴に鋭い前爪を持つ小型のモグラだ。地を這うような低い姿勢のまま、一気に距離を詰めてくる。岩棚の上を滑るような速さだった。


「来るよ」


「見えてる~」


 マッチーが半歩だけ横へずれる。モグラはそのままエーテルへ飛びかかった。


 その瞬間、エーテルがわずかに身体を引く。


 狙いが流れ、伸び切った軌道が一瞬だけ空く。


「任せた」


「了解っ!」


 横から斧が振り抜かれた。乾いた衝撃音。小型の身体が岩棚へ叩きつけられる。まだ動く。だが体勢は崩れていた。


 エーテルが踏み込み、短く斬る。


 岩粉が舞い、モグラの身体が光の粒になってほどけた。


「一匹」


「軽いね~」


 直後、視界の端に取得通知が浮かぶ。


《潜砂爪 取得》

《砂潜核 取得》


 エーテルはそのまま取得ログへ意識を向けた。追加された情報を見て、小さく呟く。


「名前、スナモグラなんだね」


「なるほどね~。見たまんま潜る系」


 その後ろで、もう一体がゆっくり近づいてくる。


 大きな甲羅。低い頭。短い脚。


 岩を押すように進んでくる亀だった。岩肌とほとんど同じ色で、動かなければ地形に紛れそうだ。見たまま、正面から受けるには面倒そうな重さがある。


「次はあれかな」


「硬いだろうね~」


「うん」


 エーテルは視線を落とす。甲羅は厚い。雑に斬っても通りは悪そうだった。


「前出るね」


「任せた~」


 亀が頭を伸ばした瞬間、エーテルが一歩踏み込む。刃が甲羅の縁へ入る。硬い音。だが止まりきらない。亀はそのまま押してくる。遅いのに、押し返すには十分重い。


「ほんと壁だね」


「だね」


 マッチーが横へ回る。段差の位置だけ見て、踏み込みやすい場所を取った。


「背中いってみるね~」


「お願い」


 斧が振り下ろされる。甲羅の隙間へ衝撃が入った。亀の身体がわずかに揺れる。その一瞬に、エーテルがもう一歩踏み込み、今度は甲羅の下へ斬撃を通した。鈍い音とともに動きが止まり、しばらくして身体が崩れる。最後は同じように光の粒となって散った。


 すぐに通知が浮かぶ。


《岩甲片 取得》

《鈍殻欠片 取得》


 エーテルは続けてログを見る。


「イシガメだってさ」


「そのまんまだね~」


 マッチーが斧を肩に乗せる。


「最初はこんな感じかな」


「うん。まだ余裕~」


 けれど、静けさは戻らなかった。


 遠くの岩棚で、重い足音が響く。


 ドン。

 ドン。


 マッチーがそちらを見る。


「……あ」


 段差の向こうから、角のある四脚が姿を現した。低い頭。分厚い胴。重い蹄。肉の獣というより、岩の塊がそのまま歩いてくるような重さがある。


 さらにその奥で、もう一つの影が立ち上がる。


 土の人型だった。頭の輪郭は曖昧で、腕だけがやけに太い。整った生き物というより、土塊を無理やり立たせたような形だ。


 エーテルが小さく息を吐く。


「まだいたね」


「いいね~。ちょっと楽しくなってきた」


 角のある四脚は段差を踏み越え、岩棚の上へ姿を現す。蹄が岩盤を叩くたび、ドン、ドンと重い音が返る。歩みは遅くない。むしろ距離が縮むにつれて速さが見えてくる。見た目だけでわかった。あれはぶつかってくる。


 マッチーが目を細める。


「……これ、あのまま来るよね」


「うん」


 エーテルも同じ結論に至っていた。岩棚の縁を一瞬だけ確認する。段差。落差。押されれば位置がずれる。正面で受ける相手ではない。


「横に逃げるよ」


「了解~」


 次の瞬間、四脚が地面を蹴った。巨体が一気に走り出し、岩盤が震え、土埃が舞う。一直線にエーテルへ向かってくる。


「そっちいった~」


「見えてるから大丈夫だよ」


 エーテルは最後まで引きつける。軌道が固まる。その瞬間、横へ踏み出した。巨体がすれ違う。背中へ斧が叩き込まれる。鈍い衝撃音。巨体がわずかによろめいた。


「こいつも硬いよ~」


「でもその分、重いね」


 四脚は止まらない。数歩進み、向きを変え、また突進の姿勢を取る。単純だ。けれど、単純だからこそ押し切る力がある。段差の多い場所では、それだけで厄介だった。


「もう一回だ~」


「だね」


 四脚が再び地面を蹴る。今度はマッチーへ。マッチーはわずかに身体をずらした。すれ違いざま、斧が横から叩き込まれる。衝撃で巨体が揺れる。その瞬間、エーテルが前へ出て、脚の付け根へ短い斬撃を入れた。バランスが崩れ、巨体が膝をつく。


 その隙を逃さず、二人の攻撃が同時に入る。数秒後、巨体がゆっくり崩れ、最後は光の粒となって散っていった。


 視界の端に通知が浮かぶ。


《岩蹄片 取得》

《突角片 取得》


「イワウシだってさ~」


「わかりやすくていいね」


 マッチーが斧を軽く振る。重かったが、崩し方は単純だった。


「三種類目終了~」


 エーテルが息を整え、奥の影を見る。


「エメラルドキャノピーが四種類だったし、こっちも四種類かもね」


 マッチーもその奥を見る。


「じゃあ、あれで最後かな?」


「たぶん」


 二人の視線が同時に、最後の影へ向いた。


 土の人型がゆっくり歩き出す。重い足が岩棚を踏むたび、乾いた振動が足元へ伝わる。動きは遅い。だが止まらない。崩しても、そのまま前へ出てきそうな嫌な重さがあった。


「あれ、回復しそう」


「だね~」


「試してみようか」


「確認大事~」


 土の人型が近づいてくる。腕が太い。振りも大きそうだ。避けるだけなら難しくなさそうだが、削り切るまでに手間がかかる相手かもしれない。


「一回斬ってみるよ」


「了解~」


 エーテルが踏み込む。刃が腕へ入る。硬い。石を叩いたみたいな感触。破片が少しだけ弾けた。だが次の瞬間、崩れた部分の土がゆっくり戻っていく。


「回復してるね~」


「うん」


 エーテルは距離を取りながら観察する。再生速度。攻撃の重さ。動きの遅さ。土の人型が腕を振る。重い一撃。エーテルは半歩下がるだけでかわした。見たまま、振りは大きく、隙も大きい。


「でもやっぱり動きは遅いね」


 マッチーが横へ回り込む。斧を振り下ろす。衝撃で土片が弾ける。だが、やはりゆっくり戻っていく。


「思ったより回復するね~。コケガードよりちょっと速いくらいかな?」


「だね。でも速いってほどじゃない」


 土の人型がもう一歩近づく。鈍い足音。マッチーが肩を回した。


「じゃあ普通に削れるね~」


「うん。ヘイト取るからよろしく」


 エーテルが前へ出る。斬撃。すぐ横から斧。崩れた土が再生する前に、さらに攻撃が入る。再生が追いつかない。土の人型の身体が少しずつ削れていく。正面で引きつける役と、横から重く削る役。やることがはっきりしているぶん、連携は崩れない。


 数秒後、巨体が大きく揺れた。最後の斬撃。土の身体が崩れ落ち、光の粒となって散った。


《硬土塊 取得》

《土核片 取得》


「ツチゴレムなんだ~」


「ゴーレムじゃなくてゴレムなんだね?」


 マッチーが斧を肩に乗せる。遠くの岩棚は、また静かになっていた。さっきまで感じていた気配も、ひとまずは途切れたらしい。


「これで四種類目~。エメラルドキャノピーと同じなら、これで一通りかな~」


「だとしたら、このあと少し楽になりそうだね」


 エーテルが小さく笑うと、マッチーも笑った。敵の種類が見えたぶん、地形の読み方も戦い方も少し掴めてきている。


「うん。じゃあもう少し行こっか」


 二人は岩棚の奥へ歩き出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ